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a Lotus thief  作者: 刻埜
本編
10/15

灯台下暗し

翌日、連絡のとれた彼が閉店後に店へと顔を出してくれると言うことで、古瑞は早めに蛍漓を帰らせた。帰り際、物凄く蛍漓に問い詰められたが、ほんとのことを言えるわけもなく、当たり障りのない事を言いなんとか家に帰した。万里達にも今日は帰りが遅くなると伝えてあるため、古瑞は待つ間に自分と彼の夕食を作ることにした。

丁度料理が出来上がるのと同時に、待ち人がやって来た。


「………よぉ、遅くなったな。」

「いや、急に呼び出して悪かったね蓁。あ、ご飯は食べた?一応お前の分も作ったんだけど、如何?」

「あぁ、貰う。」


古瑞が呼び出した相手、如月は自身の定位置と化したカウンターの端に座った。用意していた料理を彼の前に出すと、一瞬眉を潜めたがそのまま手を合わすと食べ始めた。古瑞も椅子に座ると、食べ始めた。互いに何も話さず黙々と食べ、空になった食器を片付ける。全部の食器を仕舞い終わると、如月が先に口を開いた。


「んで、俺に何の用なんだ?態々、あのヤンキーまで先に帰らせて……白ぁ切るの止めたのか?」

「……何のこと?そうじゃなくて、蓁に依頼があるんだよ。」

「…………依頼だぁ?」


食後の珈琲をテーブルに置き、当然聞かれるだろうと思っていた事を惚け、コピーしておいた図案を如月に渡す。それを受けとり、珈琲を飲みながら目を通す。


「……なんだこれ?小物入れか何かか?」

「いや、オルゴール。」

「………なんであんたがこれを探してんだ?」

「……父親の形見なんだ。昔、引っ越した時に行方不明になって、ずっと探してたんだけど、中々見付かんなくて。」

「……んで、何でも屋の俺に依頼‥て?」

「そう。頼まれてくれる?」


探るような如月の視線に、目を反らさずなるべく怪しまれないよう、真実を織り混ぜながら理由を話す。特に疑われず、如月は珈琲のカップを机に置き、スマホで何かを調べ始めた。何をしてるのと少し気にはなったが、敢えて何も聞かず、如月のカップに珈琲を注ぎ足した。

暫くそうやってスマホを弄っていると、何かが掴めたのか如月はスマホを仕舞った。


「何か、判った?」

「……あぁ。多分、直ぐ見付かると思うぜ?」

「ほんと?いくら探しても‥判らなかったのに……」

「あんたには無い、色んな伝があんだよ。」


最近、友人関係が広がってはきたが、やはりその道で働いている如月には古瑞には無い繋がりがあるのだろう。だから、其処には何も言わず礼だけを告げる。それに頷き返した如月は、珈琲を一気に飲み干すと立ち上がりカウンター内へと入ってきた。突然の事に驚き思わず後退る。だが狭いカウンター内では、直ぐに行き止まってしまった。

如何しようかと視線をさ迷わせていると、直ぐ目の前に来た如月が、古瑞を囲むようにシンクに手をついた。その所為で余りにも近すぎる距離に、古瑞は少し背を反らした。必然的に如月を見上げる形となり、古瑞は内心パニクっていた。


「し‥蓁?何かな、この体勢は?」

「報酬‥大人しくほんとの事を話すか、俺に抱かれるか……何れが良い?」

「何その二択!?それに、俺はほんとの事しか言ってない。」

「…………じゃ、抱かれる方で良いんだな。」

「なんで!?ちょ‥落ち、着け蓁!!」


背を屈め古瑞の首に顔を近付けると、如月はなんの躊躇いもなく舌を這わしてきた。同時に如月の片手が服の中に入ってきて、古瑞は冗談ではないと気付き慌てて如月の肩を押し彼の躯を引き剥がそうとした。

だが如何せん体勢に無理があり全く意味を成さず、二人の距離は全然離れなかった。如月の手がベルトのバックルに掛かった瞬間、古瑞はギュッと目を瞑った。しかし、何時まで経ってもズボンが脱がされることはなく、不思議に思い恐る恐る目を開くと、見えた如月の表情は悪戯が成功した子供のような顔をしていた。


「し、し‥ん……?」

「…………んな固くなんなくたって、今はヤらねぇよ。」

「い‥いま、は……?」

「あぁ。俺ぁ好物は最後に取っておく主義なんでな。ま、今のは前払いって事で。」

「……………え?」

「じゃぁな。所在が判ったら、また来る。」


そう笑い、古瑞の口端にキスをするとそのまま振り返らず店を出ていった。カランと鈴が鳴る音で緊張の糸が切れ、ずるずるとその場にしゃがみこんでしまった。


「…………やっぱり、早まった‥かな~……」


はぁ‥と、大きく溜め息を吐き、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱した。



如月にオルゴール詮索を頼んで二日後。彼は数枚の書類と共に来店した。何時ものように蛍漓と言い合いをしながらカウンターに座ると、彼はその書類を古瑞に渡した。


「………ん」

「もしかして‥見付かったの?」

「あぁ……。詳しくはそれ読め。あと、珈琲。」

「自分で淹れな。ねぇ、千羽?それ何?」

「ん?……あぁ、実は蓁に探し物を頼んでて。それの結果報告書‥みたいなやつ。」


蛍漓にそう言い如月に珈琲を出すと、中身が見えないようにカウンター下で書類に目を通した。

其処には、百波が調べたお金持ちから売りに出された後、日本のオルゴールのコレクターに渡ったらしい。しかし、オルゴールの蓋が開かないと言う事で、コレクターは手放す事を決め、とある人物が譲り受けたと記されていた。

最後に手にした人物の名は二枚目に書かれており、ページを捲りそのなを見て‥思わず固まってしまった。


「………………………………」

「………?如何したの、千羽。」

「‥な、なぁ蓁?これ‥は、ほんとの事?間違いや冗談とかじゃなく?」

「あぁ。如何せ呼ばなくてもくんだろ?後で確認しろよ。」

「千羽、あたいにも教えて。」

「……俺の探し物を、今持ってる人‥が、飛炎……なんだ。」

「……………は?飛炎って‥〝あの〟飛炎?」

「……………うん。〝その〟飛炎だと‥思う。」


記されていた、教えられた名前が余りにも聞き覚えのある名前で‥二人揃って固まってしまった。微妙に変な空気が流れるなか、それをぶち壊すように騒々しい来客がやって来た。


「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃ~ん!ねぇねぇ、今僕の名前を呼ばなかったか~?」

「…………………………」

「…………………………」

「わぁ!そんな見詰めないでよ~!僕照れちゃう~!!」

「~~~~~~~~っ沈め、馬鹿兄貴ぃいいい!!」

「ちょ!ほとちゃん、それはらめぇえええ!!お兄ちゃん死んじゃうからぁあああ!!」

「殺ってやんよぉおおお!!」


全く空気を読まない飛炎にぶちギレた蛍漓が、アイアンクローを喰らわせながらもう片方の腕を首に回し、飛炎の首をへし折ろうとしていた。『ギブキブ!』と騒ぐが聞き入れてもらえず本気で落としに掛かる蛍漓。

そんな二人に声を掛け飛炎を救出すると、涙を溜め真っ青になった飛炎がフラフラとカウンターに座った。


「………だいじょぶか?」

「せんちゃん酷い!もっと早く助けて欲しかった!」

「……あぁうん、ごめん。なぁ、飛炎‥ちょっと聞きたいんだけど……去年、宝石があしらわれたオルゴールを貰わなかった?」

「ん~‥あ、あれかな?朱と橙が混ざった石が付いてる、こんな感じの~‥オルゴールの事?」


持っていた紙に乱雑に描かれたイラストは、確かに古瑞が探しているオルゴールとそっくりだった。


(……………あぁ‥確定だ。)


余りにも予想外すぎて、古瑞は頭を抱えてしまった。そんな古瑞を見て、何も知らない古瑞兄妹は互いに顔を見合わせ首を捻った。



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