9 やっぱりうちの智里は可愛い
「た、助けてくれてありがとう………」
実咲はまだ少し涙ぐんではいるが、きちんと感謝の気持ちを口にした。
少し落ち着いてきた様子だ。
「大丈夫ですか?」
私はハンカチを実咲に手渡した。
決定的な証拠写真がほしかったとはいえ、腕を捕まれる前に私が助けにいけばここまで大事にはならなかっただろう。
ちょっと反省。
私は実咲から視線をはずし、智里と秋人に目をやった。俺ラブの重要キャラが勢揃いだ。いつかこんな日がくるかもとは思っていたけどそれが今日とは。人生何が起こるかわからないものである。
「それにしてもビックリしましたよ。どうして智里先輩と秋人先輩がここに来たんですか?それも一緒に」
「俺は帰る途中にでかい声が聞こえたから来ただけだ」
「わ、私は本を買いたくて……ちょうどこの先に本屋があるから」
秋人は何でもなさそうに、智里は少し頬を染めて言った。
むむ、智里のこの反応は……。
ジーっと見つめていると私の視線に気づいた智里がカッと火が着いたように顔を赤くし、視線を横にずらした。
なるほど。
「(秋人と一緒に帰りたかったわけか)」
なんて健気で愛らしいのでしょう。
今すぐにでも抱きつきたい欲求にかられた。
「あ、あなたこそっ。どうしてこんな所にいたの?」
智里は話題を変えたかったのか、私にそう聞いてきた。
私がニヤついてしていたからという理由も含まれているかもしれないが。
「私も智里先輩と一緒で本屋に行こうとしていたところなんですよ」
「え、そうなの?」
嘘です。
「そしたら同じ学校の生徒があの男に絡まれてるの見て、助けに行ったって感じです。上手くいきませんでしたけどね。先輩たちが来なかったら危ないところでした」
「ほんとよ。それにあなた、嘘ついたでしょ」
「え、何のことですか?」
「とぼけないのっ、藤澤先生私たちのこと呼んだ覚えないって言ってたのよ?貴方のせいで長話を聞かされるはめになったんだから」
あ、すっかり忘れてた。
「その事は本当にごめんなさい。でも―――」
「でも?」
「……おかげで秋人先輩と一緒にいられてよかったじゃないですか」
小声で呟く。
ボンッと智里の顔が真っ赤に染まった。
「な、なななななん……っ!?」
「何ですか?」
「! 覚えときなさいよ……!」
そんなかわいい顔で言われても怖くないですよー。
ぐぬぬぬしている智里もやっぱりかわいい。
私は智里を煽るのをやめ、視線を実咲に戻した。
先程より顔色がよくなっていたが一応聞いてみる。
「先輩、一人で帰れますか?何なら私と智里先輩が送っていきますけど」
「……んぅん、大丈夫。家すぐそこだから」
「そうですか」
「うん。助けてくれてありがと。えっと……」
「黒瀬純です。一年です」
「私は二年の桐山実咲。ありがとね、黒瀬さん。黒瀬さんが来てくれたとき本当に嬉しかった。今度お礼させて」
「お礼なんていりませんよ」
私じゃなくて最初に居合わせるのが秋人だったらもっとスムーズに行ったんだ。
それを私が変えた。
だからお礼を言われる筋合いはない。
「気を付けて帰ってくださいね」
「うん。九条と月城さんも本当にありがとうっ」
「……あぁ」
「え、わ、私はそんな……っ。何もしてないしっ」
「そんなことない。私が落ち着く前で背中さすってくれてたじゃん。月城さんて案外優しいんだね」
「え、そんな、ことは……」
真っ赤になって照れています。
はいかわいい。
実咲が帰ったあと、続いて秋人も帰っていった。
すんなりいきすぎて怖いレベルだ。
結局秋人への好感度はどうなったのだろうか。実咲のあの様子じゃよくわからない。
本来秋人だけで解決するはずだった問題を三人で解決したからそこまで秋人を意識はしていないのかもしれない。
ならこのままいろんな問題を秋人だけじゃなくて私や智里も交えて解決していったらいいんじゃないか?
そしたら秋人と智里の親密度も上がるし一石二鳥だ。
「(っと、その前に)」
私は近くに立っている智里の体に手を伸ばし、後ろから抱きついた。
智里はビクッと体を震わせる。
「ちょ、何して……!」
「抱きついてます」
「それくらいわかってる!」
なぜ急に抱きつくのかと聞いているのだろう。
私が智里に抱きつく理由はたくさんある。
一つ目の理由は好きだから。一種の愛情表現ってやつだ。
二つ目は智里が可愛すぎて抱きつかずにはいられないから。
三つ目は智里が生きた人間なんだってことを再認識するため。
まだまだたくさんあるけど言い出したらきりがないので主な理由だけにしておいた。
三つ目は本当に大事なことだ。心臓の鼓動が耳に届いて、温もりを感じて、抱きつかれるのを嫌がる声を聞いて初めて再認識できる。
あー、生きてるんだなぁって。
感情がある生きた人間なんだなぁって。
そうやって毎回確認しないと夢なんじゃないかって思うときがあるから。
俺ラブの世界に転生したことも、生まれ変わったことも、智里に出会ったことも。
すべてか私の夢で本当は何もなかったていう考えが頭をよぎってしまうから。
「よしっ、もう大丈夫です!」
「……何が大丈夫なの?」
「ちゃんと充電しましたから。あ、でも明日になったら充電なくなるんでまた抱きつきにいきますね!」
「随分と燃費が悪いのね!?」
「はい!」
「どうしてそんなにいい返事ができるの!?」
智里は重たいため息をついた。
そんなに疲れなくても……結構繊細なんだぞ、私。
「ささ、本屋に行きましょ!先輩はどんなジャンルが好きですか?私はですね―――」
私は私のどうでもいい話を聞いてくれる智里が大好きだ。
なんだかんだ言って面倒見がいい所が好きだ。
誉められたときに見せる照れた顔も好きだ。
「貴方ってほんと不思議よね……」
「ありがとうございます!」
「誉めた訳じゃないんだけど………だけど今日は貴方の行動のおかげで桐山さんが助かったんだし大目にみてあげましょう」
「ありがたき幸せ」
「ふふ、何よそれ」
目を細めておかしそうに笑う貴方が好きだ。
「さぁ、何でしょう」
私は笑って見せる。
私は貴方を嫌いには絶対にならない。
なぜなら、貴方を好きだという感情は私も人であるということを証明するものになるから。
『純と智里の好感度メーター』
「智里先輩のことをどれくらい好きかって?んー、強いていうなら食べちゃいたいくらい好き!あの艶々な肌とかマシュマロみたいに柔らかくて大きい胸とか……あ~、思い出したら先輩に会いたくなっちゃったじゃん!」
え、すみません……?
「あの子の事をどう思ってるかって?悪い子ではないのは確かね。ただちょっと……結構苦手だわ」
あ、そんなハッキリと(^^;