5 心配なんだ
ラブコメ主人公は大体が平凡な容姿で少しひねくれていて、でも心根は優しかったり気を許した相手にはとことん親切。
そんなのが多かったと思う。
秋人も物語が進むにつれてそんな感じになっていく。
最初は題名通りにラブコメ主人公のような展開にうんざりしていた秋人だったが、ヒロインたちの想いや支えになってくれる友達ができたことで少しずつ成長していくのだ。
青春ていいなぁって思うよね。
ま、今の私は高校生だし青春はしようと思えばできるけど興味ないんだよなぁ。
今は智里を幸せにすることだけ考えていきたいし、俺ラブの物語が私の行動でどう変わっていくのか見ていきたい。
智里のサポートをするとはいったけど具体的に何をしたらいいのかは分からない。
まずは私じゃなくて智里が秋人を見つめるだけじゃなくて話しかけるような行動をおこさないと。
話しかけるはまだ難易度が高いかもしれないけど、挨拶だけでもできるようにしないとね。
「なに難しい顔してるの、純」
考えにふけっていると、大人びたハスキーボイスが聞こえてきた。
そう言ったのは幼い頃からの付き合いである浅井渚だ。
落ち着いたたたずまいの大人びた美人である渚は、私の前の席に座り表情を崩さず私を見てくる。
「んー、恋愛って難しいなぁって思って」
「恋愛? 純、好きな人でもできたの?」
「んーん、好きな人なんていないよ」
「じゃあなんで恋愛なんて単語がでてくるのよ」
「いやぁー、我愛しの先輩がちょっとねぇ」
智里は好きな人の前だと不器用になってしまう。
いわゆるツンデレキャラなのだ。
「あんた入学してからあの先輩のことばかり言ってるよね。そんなに好きなの?あの先輩のこと」
「大好きだよ。でもそれ以上に心配なの」
「心配?なんで?」
「先輩はさ、頑張りすぎるんだよ。器用だからなんでもそつなくこなしちゃうし、だから先輩のこと信頼している人がいるんだけど、やっぱり一人じゃできないことってあるでしょ?その時先輩は誰を頼ればいいのか分からないと思うの」
優秀だから信頼されている。
それは智里が努力してきた結果だ。
智里は自分が満足できるまでとことん努力する。
それが私が知っている月城智里なのだ。
でもそんな彼女だって誰かに頼らないといけない日がくる。
そんな日がきたとき、私が一番に寄り添って傍にいてあげたい。
だって私は彼女の大ファンだから。
「ーー純、あんた……………」
「ん?」
「………いや、なんでもない」
なんなの?
いいかけてやめられると気になるんだけど。
「なに?」と聞き返してみるとはぐらかされてしまった。
むむ、気になる。
「あんたが人にそこまで執着するなんて珍しいなって思っただけ」
「えー、渚の私のイメージってどんななの?」
「えーっと、何考えてるのかわからない変人。バカ。能天気。あと……」
「ほとんど悪口じゃん!」
やめてくれ。そんなかわいそうなものを見るような目は!
自分じゃそんなつもり無いんだけどなぁ。
まあ、確かに智里に対して執着してるのは事実だけど、それは仕方ないことだと思う。
ずっと、それこそ前世から会いたかった人だし。
「九条っ、なんで逃げるのよ!」
「うるせぇ!てかなんでお前ついてきてんだよ!?」
「あんたが逃げるからでしょ!」
廊下のほうがなんだか騒がしいなってさっきから思っていたけど気にしないでいたのに「九条」という名前を聞いてそうはいかなくなった。
「ちょっとっ、どこいくの?」
ごめんね、渚。
後でちゃんと説明するから。
私は心のなかで渚に謝りながら小走りで声が聞こえてきた方向へ向かった。