表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/31

4 方向性

「智里ぜんぱぁぁぁぁぁい!」


「きゃぁぁぁあ!」


勢いよく彼女にとびつく。

すると彼女は、まるで獣に襲われたときのような叫び声を発した。

周りの視線が私たちに集まる。

でもそんなことお構いなしに私はずいっと顔を寄せた。


「おはようございますっ、今日も先輩は綺麗ですね!」


「そんなことどうでもいいからっ。離しなさい!」


「えー、ちょっとくらい良いじゃないですかぁ」


「は・な・れ・て!」


「はぁーい」


渋々智里の体を離す。

智里の頬は怒りからか羞恥心からか、真っ赤に染まっていた。

んー、そそるね。

そんな反抗的な顔をされると背筋がぞくぞくする。


「ほんと食べちゃいたいくらいです」


「何言ってるの!?」


「えへへ、何も言ってませんよ?」


智里は身の危険を感じたのか、自分の腕を抱いた。

ひどいっ、言ってみただけなのに。

でもそんな怯えた顔も良いなぁ。

嗜虐心をくすぐる。


「あ…………」


智里がか細い声をだした。

見ると彼女はある一転をじっと見つめていた。

なに?と思いながら彼女の視線を追ってみる。


「あぁ」


そういうことか。

智里が見つめているのは気だるげにだらしなく歩いている、俺ラブの主人公こと九条秋人。

私と話していたのに、と少しだけ思ったがそんなことすぐに気にならなくなった。 

恋をしている人はどうしてここまで綺麗に見えるのだろう。

恋をしている人は世の中にたくさんいる。

でもその中でも、智里が一番綺麗だと心の底から思った。

智里は秋人が見えなくなるまでずっと見つめ続けた。


「はぁ…………」


熱の籠った息を吐く。

頬はほんのりと赤く染まり、まさに恋する乙女な顔だ。


「あの先輩のこと、好きですか?」


「えぇ!?」


「好きですよね?」


「そ、そんなわけ……!」


「正直に答えてください」


「っ な、なんであなたにそんなこと言わないといけないの?」


顔を赤くしながらも頑なに認めようとしない。

ま、そうなるよね。

私みたいな変な後輩に恋愛相談なんてできないか。

答えてくれないなら仕方ないけど、私は智里の本心を知りたかっただけなのだ。

智里はまだ秋人がいた場所を熱っぽい視線で見つめている。

やっぱり原作通り月城智里は九条秋人が好きなままみたいだ。

その想いをメインヒロインである桐山実咲より先に伝えることができたなら、何かが変わるかもしれない。


方向性が見えてきた。

智里には早い段階から俺ラブの物語に出てもらおう。

そして秋人の好感度をあげる。

私はそのサポートをする。


「智里先輩っ」


「…………なに?」


「私、頑張りますから。だから先輩も頑張ってくださいね!」


意味が分からないと、智里は首をかしげる。

さらさらと肩に乗っていた髪が落ちていく。

そんな些細な動作でも私の心臓は高鳴った。

その溢れんばかりの色気を秋人の前でも発揮できれば、意識してもらうのには十分なんだけどなぁ。

だって同姓である私ですらドキドキしているんだから。


智里と出会ってから早一ヶ月近く経とうとしている。

俺ラブの物語はもう始まっているのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ