31 訪問リベンジマッチ
「今週の土曜日に智里ちゃんの家に遊びに行っても良い?」
実咲のその一言で私の休日の予定は決まった。
ということで今私は智里の家に来ている。
「いやぁ、智里先輩の家に来るのこれで三回目ですね!」
「やっぱりこうなるのね……」
「すみません、月城先輩。私までお邪魔しちゃって……」
「渚さんが来てくれたことはむしろ嬉しいわ。この子がおかしくなったら止めてくれるでしょ?」
「智里ちゃん、純ちゃんの扱いが段々雑になってきてるよ……」
「良いんですよ、実咲先輩。これも一種のプレイって思っておけば結構楽しめますよ。むしろご褒美です」
舌なめずりをする私に智里は冷めた目で見てくる。最初の頃は怯えた表情ばかりしていたのに。
逞しくなったね!
「それもどうかと思うけど……」
「……私そろそろあんたの友達やめようか迷ってきてるんだけど」
実咲と渚がそんなことを言ってくる。
「渚はもう手遅れだよ!渚には一生友達でいてもらうつもりだからね!」
「私に拒否権は……」
「ない!」
あらら、ため息ついてら。
まあ、本気で言ってるわけじゃないだろうし気にしないでおこう。
「本気じゃないって思ってない?」
「思ってる。何だかんだ言って友達のままいてくれるでしょ?」
「最近はマジでやめようか迷ってるんだけど」
「おぉ、なんと」
そんなはっきり言わなくても……。
「アハハっ、二人とも仲良いね」
「渚さん、頑張って」
実咲の反応はいつも通りだとして智里よ。
なぜ今エールを送ったの?
私と話してる時の渚ってそんなに疲れてる感じなのかな。
今度からちょっと自重しよう。
……ほんのちょっとだけね
◇
私たちは大いに楽しんでいた。
ババ抜きをしたり、ジジ抜きをしたり、七五三をしたり、豚のしっぽをしたり、真剣衰弱をしたりして。
私は尿意に抗えず勝負中だというのに席を外してしまっているが帰ったら絶対に巻き返してやるのだ。底辺から登り上がるほどかっこいいものはない。
(不自然ではなかった、よね……?)
今日の私はいつも通りだっただろうか。渚と実咲がいることでいつもの調子でいられるものの今智里と二人っきりになったらどうなるかわからない。
物語のことを、秋人と智里をくっつけること、智里のことだけを考えてきた。
どんな風にくっつけようかな、智里と食べ歩きとかできるのかな、なんて考えて浮ついていた。
現実はそんな簡単に上手くいかないけどそれでも楽しかった。
智里と一緒にいる時間はかけがえのないものだ。
そして秋人とくっつけるのを嫌だと感じ始めていた。
実咲の予想は的中してしまったんだ。秋人に智里を譲りたくないと思ってしまっていた。
ただこれが恋なのかは分からない。
だから自分なりに最適な言葉を見つけ出した。
私が智里に向けるこの感情は執着や依存に近いんだと思う。
子供が気に入っているおもちゃを取り上げられることを拒むような感じなのかな。
上手く言い表せないけど多分きっとそう。
私は一体どうしたらいいんだろう。ここまで考えて振り出しに戻ってしまう。
智里が必要としているのは私ではなく秋人だ。
それは変わらないと思う。
智里が私を頼ってきてくれればそれに応えたいと思うし、何より他人をあまり頼らない智里に頼られた自分を誇らしく感じると思う。
だけどその内容が秋人との事だったら?
本格的にアタックしたいと言われたら?
私はそれに素直に応じることが出来るだろうか。
答えはノーに近い。
(いやいやいや。答え出すの早すぎだしもっと努力しなきゃ)
智里に執着しないように違うことに目を向けないといけない。これは智里の幸せに必要な事なんだ。
「ちょっと、何ぼーっとしてるの」
「うわぁ!」
「な、なによ。そんなに驚いて」
「と、智里先輩!? 背後から急に話しかけないでくださいよ!ビックリしたじゃないですか!」
「わ、わかったわよ。ごめんなさい……」
私の剣幕に押される智里。
分かればいいんだ。分かれば。
「智里先輩もトイレですか?」
「みんな喉乾いたかと思ってお茶を取りに行ってるの」
「なるほど。お気遣いありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をする。
「ふふ、どういたしまして」
智里が微笑んでくれた。
今の私にそれを見せちゃダメだ。私は今とてもめんどくさい時期にいるわけでしてそんな顔されたらちょっと目を合わせられないって言うかなんて言うか。
「そ、それにしてもっ 智里先輩の家すごく広いですね。迷っちゃいそうです」
「あなたなら有り得るわね。心配しないで。その時は私が責任をもってお香を炊いたげるから」
「それ私死んでません!?実咲先輩も言ってましたけど私の扱い雑になってきてますよね!?」
「自覚はないけどそうなんでしょうね」
「あっさり認められた……!?」
「それほどあなたに慣れてきたってことよ」
「っ」
だからダメなんだって!そういうこと言ったら!
いつから智里はこれほど口が回るようになったのか。それともこれが本来の智里なのだろうか。
別に怒ってはいないけど複雑だ。
ふざけて実咲に言ったものの雑に扱われることを喜んでいる私がいるのになんとも言えない危うさを感じている。
このままだと私、ダメになっちゃうのではないだろうか。
何がダメになってしまうのかは分からないけど智里の本当はダメなところも無条件で肯定してしまいそうで怖い。
「あ、そこは……!」
「え?」
少し焦った声に振り向くと視界がぐらついた。
重力に引っ張られて床との距離が近づく。
目を瞑る暇もないままに。
一ヶ月に一回投稿しようと目標立ててたのに無理でした
あっという間に時が過ぎました
コメントくださった方、本当に嬉しかったです
不定期投稿になりますがどうか最後までお付き合い下さいm(_ _)m




