3 頑張るぞー!
俺ラブの物語が始まったのは主人公が高二になってから。
つまり私が入学してからだ。
秋人がある女の子を助けたことから物語は始まる。
そのある女の子というのが最終的に秋人と付き合うことになる、いわば勝ちヒロインだ。
それは最初から俺ラブの愛読者であった私にとっては当たり前のように分かっていたことなのだが、最終巻でその結末を読んだとき前世の私はショックを受けた。
だってやっぱり私の推しは智里だったから。
ちなみに勝ちヒロインの名前は桐山実咲。
私は初めはこのキャラを俺ラブのなかで一番推していた。
元々私は始めに出てきて主人公とアクシデントを起こすヒロイン、つまりメインヒロインを一番に推していた。
だってその方が主人公と付き合う確率が大きいし、あんまりモヤモヤしたりしないと思うから。
でも私は途中から出てきた智里に心奪われた。
ありきたりなキャラなのに私は心底智里に惚れ込んでいた。
彼女が秋人と付き合う確率は限りなく低かったのだが、謙虚な姿勢や努力家なところ、秋人に対して、つまり好きな人に対しては不器用になってしまうそんな智里の虜になっていたのだ。
メインヒロインである実咲は明るく前向きで、少しひねくれたところがある秋人を少しずつ調和していく。
それは実咲だからできたことで秋人が実咲と出会わなければひねくれたままだっただろう。
だから最初のイベントは邪魔しない。
二人が出会ったことはお互いのためになっているから。
二人の運命を邪魔して智里と秋人をくっつけようと最初は思っていた。
でもそれを智里は望まないと思ったんだ。
真っ直ぐで優しい智里はそこまでして秋人を欲しいとは思わないだろう。
彼女のことを知り尽くしている私がいうのだから間違いない、と思う。
それに下手に何かして俺ラブのストーリがややこしくなったら私じゃどうにも出来なくなってしまうから。
俺ラブのヒロインは後一人いる。
そのキャラの名前は黒瀬純。
何を隠そう私なのである。
今の私は前世の私の記憶を受け継いでいるから本来の黒瀬純ではない。
本来の黒瀬純は無口で無表情。
独特な雰囲気を持ち合わせていて、なんとも掴み所のない性格。
でも心のなかでは秋人を想っていた、らしい。
らしいというのは黒瀬純の秋人への想いは最後の最後に明らかになったことで、取って付けたかんが半端なかったのだ。
まあ、今の私は秋人のことを好きになることはない。
智里を幸せにするためには秋人が必要になってくる。
だから私は秋人を好きにならない。
最終的に秋人が誰を選ぶのかは、秋人次第。
原作のように実咲とくっつくのか、それとも原作に反して智里とくっつくのか。
それは異端である私の行動次第。
私はさんさんと光る太陽を見上げ、眩しさで目を細める。
よしっ。
秋人と智里をくっつけるために、そして前世の私の願いを叶えるために。
「頑張るぞー!」
おおーと力強く手を挙げた。