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27  仲直りは早急に

智里視点から純視点にかわります!

『黒瀬純っていいます!あなたのことが大好きです!』


 出会い頭にあの子はそう言ってきた。

 満面の笑みでどことなく誇らしげに。


 大好きだなんて初対面の相手によく言えるものだ。

 あの子の最初の行動と言動に私は軽蔑していた。

 だけど長くあの子に付きまとわれていたせいか、軽蔑というより呆れることの方が増えた。

 手のかかる後輩だと思うようになった。


 成績は良いし容姿だってかわいらしい。

 難があるのは性格だけだ。


 一度どうして私に構うのか聞いてみた。

 するとあの子は笑ってはぐらかそうとしたので、逃げられる前に再度追求したらよく分からない返しがきた。


『私にとって自分って肯定できるのが智里先輩なんですよ』


 それを聞いたとき話の流れ上、少し身の危険を感じたがあの子はいつも通りふざけた態度で話を続けていた。


 出会ってまもない私かどうしてそんな役になれているのか分からなかった。


 でもあの子が言っていることに嘘は感じなかった。ふざけているって感じでもなかったし、本心からの言葉だったんだと思う。


 自分でいうのもなんだが私は嘘をついている人を普通の人より見分けられる、ちょっと特殊な特技を持っている。


 そんな私が嘘をついてないと感じたんだ。


 なぜかあの時のあの子は少し辛そうに見えたけど、それは一瞬な事だったので見間違いだと結論付けた。


 親と喧嘩して勢いで家を飛び出した私を追いかけてきてくれた事もあった。

 あの子は私のことを本気で心配してくれていた。


 変な子だ。


 変ですごい子だ。



 真っ直ぐ本心を伝えてくるあの子と一緒にいるのは嫌ではなかった。

 むしろ心地よかったと思う。


 だけど、あの日。


 九条くんがあの子の言葉に笑顔を浮かべ、おかしそうにしていたあの日。


 私はずるいと思った。

 私では九条くんのあんな表情を浮かべさせることなんてできないと分かっていたから。


 あの子は本当にすごい。

 私が出来ないことを平然と難なくできてしまう。


 今だってそうだ。


 放課後。

 二年の下駄箱に人影がひとつ。

 なんとなくいるんじゃないかとは思っていた。


 普段とは違い、引き締まった表情を張り付けている。

 この子のこんな表情を見るのは二回目だ。


 一回目は親と喧嘩して勢いで家を飛び出したとき。

 必死に私のことを探してくれていたんだろう。

 汗だくで辛そうにしていたけど目は真っ直ぐ私を見据えていた。


 その目から逃れるために目線をしたに下げるもそんなささやかな抵抗に意味はない。


 彼女は人のことなんてお構いなしに距離を縮めてくるのだから。



 ◇



「先輩、もう一度話をしましょう」



 色々考えた結果、やっぱり智里本人に聞くのが1番手っ取り早いと思った。

 思い立ったが吉日。

 私はすぐに行動に移すことにした。


 実咲からお昼を別々で食べようと言われた時、智里がそう提案したんじゃないかって悲しかった。

 それがほんの数日前。

 悲壮感マックスでお弁当を食べていたら渚に「鬱陶しいんだけど」と言われた。


 渚はいつでも容赦ない。


 正直、私も自分めんどくさいなって思っていたところだから早く決着をつけたい。


 場所を変えて私と智里は帰り道にあるファミレスにいる。

 智里は何も言わず着いてきてくれた。


 それが逆に怖かったりするけど話をしないと埒が明かない今の現状を打破するには耐えるしかなかった。



「智里先輩は私のこと嫌いですか?」


 我ながらなめんどくさい質問だと思う。

 だけどこれだけは聞いておきたい。



「……嫌いじゃないわ」


「じゃあ、好きですか?」


「………どうしてそんなこと聞くの?」


「知りたいからです。智里先輩が私をどう思っているかを。私を好きじゃないならその理由を教えて欲しいんです。生理的な理由で私のことを好きじゃないなら好かれるのは諦めますがそうじゃないなら教えて貰えませんか?」


 「………あなたは大人なのね」


 「そんなことありませんよ。単に智里先輩に好かれたいだけです。そのためなら私、なんだってすると思いますよ」


 ほら、子供でしょ?と笑顔をうかべ、智里の返事を待つ。

 ピリピリとした緊張感が私の中で生まれる。

 きっと智里も同じだろう。


 「………どうしたらあなたみたいになれるのかしらね」


 「え?」


 「あなたが羨ましいわ」


 目を細めて眩しいものを見るような顔で私を見つめてくる。

 自分には到底手が届かない、天と地ほどの距離がある人に目を向けるような、そんな顔。


 私はそんなに智里の様子を見て率直に思ったことを口にする。




 「バカですか」




 ◇





 私の一言に智里は目を大きく見開いた。

 突然バカ呼ばわりされて驚いているのだろう。


 私だってできるなら智里を貶すような言葉を使いたくはない。


 でも言わせて欲しい。


 智里、頭大丈夫?


 「先輩が私みたいになったらダメでしょ。先輩は変人になりたいんですか?」


 「っ!? そんなわけないでしょ!」


 「ですよね。でも私になるって変人になるってことと同じじゃないですか?」


 「あ」


 うん、そこでそういえばそうだったみたいな顔しないで欲しいな。

 智里の中で私って変人扱いなんだね。

 知ってたけどね。



 「ちがっ!そうじゃなくて!私はあなたみたいに思ったことをはっきり言えるようになりたいと思っただけよ!」


 「なぁんだ、そんなことですか。言えば良いんじゃないですか?普通に」


 「っ 簡単に言わないで!」


 智里は立ち上がり声を荒らげた。

 でもすぐに我に返ってバツが悪そうに椅子に座った。

 何人かの人がチラチラとこちらを見ている。


 声を荒らげる超絶美少女がいたら気になるよね。

 わかるよ、その気持ち。


 私もどちらかと言うとそっち側だから。


 さて、話を戻そう。


 「つまり、先輩は私に憧れたということですか?」


 「あ、憧れたまではいかないけど……まぁ、そんな感じだと思うわ」


 「…………」


 どうしよう。

 めちゃくちゃ嬉しいんですが。

 推しで憧れの人に憧れられるってなに?


 オタクな私が心の中で大暴走してるんですけど。


 「あなたはたしかに変人よね」


 「急になんですか。分かりきったことでは?」


 「でも変人ってだけじゃない。私はそんなあなたをすごいと思ってる」


 真っ直ぐ気持ちを伝えてくれる智里に私は思わず見とれると同時にドキッと心臓が跳ねた。

 そんな言葉をかけてくれるとは予想していなかった。

  智里は今、()を認めて肯定してくれたんだ。


 「私はあなたみたいにハッキリものを言うことは出来ないから」


 「私には割とズケズケ言ってる気がするんですけど」


 「あなたに配慮するのは時間と体力の無駄だと判断したからよ」


 「……つまり特別ってことですね!」


 「その楽観的な思考はどこから出てくるのか謎だわ」


 「やだなぁ、もう。そんなに褒めないでくださいよっ」


 「褒めてない」


 私はヘラヘラ笑っているものの内心では歓喜の舞を披露していた。

 智里が私をすごいと、感心していてくれている。

 これ以上に幸せなことがあるのだろうか。


 「私は先輩を心から尊敬してます」


 「……急になによ」


 「先輩が本心を話してくれたようなので私も本心を伝えておかないとフェアじゃないでしょ?」


 もっとも、私が智里に向ける感情はとても重たいものだと思う。


 「私は先輩が好きです。尊敬もしてます。先輩が癇癪持ちですぐに暴力を振るう短気な人でも受け入れることが出来る自信があります」


 「そんな自分勝手な人間になる予定はないわ」


 「そういうと思ってました」


  私は苦笑いを浮かべた。智里がそんな自分勝手な性格になったら私の智里への熱も冷めてしまうかもしれない。


だけどそんな人間に智里がなるだろうか。

答えはノーだ。


私は智里の答えが分かっていたから極端なことを言った。




 悪夢のせいで生きることに疲れ果てていた私に光を灯して生きる意味もくれたのは紛れもなくあなただから。


 挫けそうになった時、何とか我を保てたのはあなたのおかげだから。


 智里、あなたは私が生きる上で必要な()()()()なんだよ。


 「……なんだか悩んでたのが馬鹿らしくなってきたわ」


 「ならもう避けないでくださいね!私のこと!」


 「……わかったわよ」


 思ったより早く話は終わった。


 智里は本当に何を悩んでいたのか分からないと言った様子でいつも通りに戻っていた。


 明日からは普段通りにしてくれるみたいだ。

 やったね!

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