26 あの子に向ける感情
智里目線
嫌な言い方をしてしまった。
あの子はなにも悪くないのに。
自分の気持ちの問題だったのに。
止められなかった。
あの子を見ていると言うつもりもなかった言葉までもがいつの間にか口から溢れてしまう。
あの子と知り合ってからというものろくなことがない。
振り回されるし感情のコントロールは得意な方だと思っていたのに声を荒らげてしまうことが増えた。
すると決まってあの子は笑う。
最近はその笑顔を見るたび胸のあたりがざわつく。
あの子は変な子だけれど決して悪い子ではない。
実咲さんを男の人から助けていたし、根は良い子なのだと思う。
私に対するあの態度さえなければ今よりもっと良好な関係になっていたかもしれないと思うくらいに。
「ねぇ、智里ちゃん。純ちゃんと何かあった?」
午前の授業が終わっていつものようにお弁当を用意して食堂に向かう準備をしていると実咲さんが聞いてきた。
「最近の二人どことなくぎこちないし純ちゃん関しては明らかに元気がないんだもん。あの純ちゃんが元気をなくす原因って智里ちゃんくらいしか思い浮かばないんだよね」
「……何もないわ」
「本当に?」
実咲さんは距離を積めてきた。
私が動けば実咲さんの顔のどこかに鼻先が触れてしまいそうなほどに。
茶色がかった瞳に自分が映っているのが見えた。
私は間抜けな顔をしていた。
「私は智里ちゃんも純ちゃんも二人とも好きだからどちらか一方の味方につくことはしないけど相談には乗るよ。友達だからね」
「…………」
「言いたくないなら仕方ないけど私は今の二人よりいつもの二人の方が好きだよ。今日は二人でお弁当食べることにしよ。こんな感じのままじゃお互い気まずいでしょ?純ちゃんには連絡いれといたから」
その言葉の通り今日は実咲さんとお昼を共にした。
人気者の実咲さんはよく声をかけられていた。
他クラスの友達っぽい人もいて実咲さんの人脈の広さに驚いていると私にも声をかけてくる人がいて少し戸惑った。きちんと返事は返せていたとは思う。
「智里ちゃんの良さをみんながわかってきた証拠だね」
なんて実咲さんは言っていたけど本当のところどうなのだろう。
私は一年の時から生徒会に入っていてお昼を生徒会室で過ごすことが多かった。
去年から生徒会長は変わっていなくてよく仕事を押し付けられていたのだ。
二年連続で生徒会長に選ばれるくらいだから人望はあるんだろうけど一年に仕事を押し付けるのはダメだと思う。
そんな感じで学校生活を送っていたから友達といえる間柄はいなかった。
人間関係が苦手なわけではない。
他人と価値観を言い合い、理解しあうのは素晴らしいことだと思う。
だけど私は人間関係より生徒会の仕事を優先的にしていた。
ただ時間が有り余っていたから。思っていたより生徒会の仕事は大変だったけどそれなりに充実していたと思う。
会長は時々私に押し付けた仕事の進み具合を知るためと言って生徒会室に来ていた。
その度という訳ではないが、会長は私に「やめたければいつでも言ってね」と言ってくる。
自分から押し付けておいてやめたければいつでもどうぞとはどういうことだろうと思っていた。
今でも会長が何を考えていたのかわからない。
不思議な人だ。
あの子の方がまだましに見えるくらいにうちの生徒会長は不思議さんだ。
思わず笑みがこぼれる。
実咲さんは今友達に話しかけられていて私の方をみていない。
だから私が笑っていることに気づいていなかった。
少しホッとする。
あの子がいなくてもあの子のことを考えてしまう私は重症なんだろう。
あの子がどうしても頭からはなれない。
私は知っている。
私があの子に向けている感情を。
気づいている。
私はあの子にむける感情を一言で表すなら、それは―――
嫉妬だ。
話全然すすんでなくない?早く仲直りしてよっ!
私だって百合百合してるのがみたいんだよっ!
おもしろい!先が気になる!って思った読者のかたへ。
ブックマークと評価とできれば感想をお願いしたいなぁ、なんて。




