24 黒瀬純と私
また体育館裏に行って変な噂がたつのも面倒なので帰りながら話すことにした。
女の子同士だから変な噂ってなんだって感じなんだけど念には念を入れとかないとね。
人の気配があまりしなくなったところで私は智里に話を切り出しす。
「単刀直入に聞きます。智里先輩、私に何か言いたいことがあるんじゃないですか?」
目をそらす、話しかけてもぎこちない。
そんなこと今までにだってあった。
でもそれらはその時々に私がなにかやらかして不機嫌になった智里が少しの間私に対して行う行動であって長時間続くものではなかった。
だから今の智里は変だ。
「別に、話すことなんてないわ」
「じゃあ、私から話しますね。最近、私のこと避けてませんか?」
「…………避けてないわ。避ける理由がないもの」
「じゃあ、どうして目を合わせようとしないんですか?私が目に映るのも嫌になったんですか?」
「ちが……っ」
「私は智里先輩に嫌われてても智里先輩のこと好きなままですよ。それだけは絶対に変わりません。でも嫌われる理由は教えてもらいたいです。私、智里先輩に何かしちゃいましたか?」
「……して、ないわよ」
「どうして目を合わせてくれないんですか?」
お互いに黙り混む。
目をそらさせないためにあえてまっすぐと智里を見つめる。
智里は迷子の子供のように瞳を揺らしていた。
「わた、しは……」
「……はい」
言葉をまつ。
どれだけ時間がかかってもいい。
智里の本音を私教えてほしい。
「私は、あなたみたいに思ったことをはっきりと口にはできないのよ……っ」
「え………?」
「……もう、いいでしょ? 明日からはいつも通りにするからこの話しは終わりよ。用事があるから先に行くわ」
そう言って智里は帰っていった。
引き留めることはできなかった。
智里が苦しそうに、今にも泣きそうな顔をしていたから。
私、本当に智里に何もしてないのかな?
あんな顔、知り合ってから見たことない。
それにしても。
(思ったことをはっきりと、ね)
智里にはそんな風に見えていたのか。
私にだって思っていても言えないこともあるというのに。
目を細めて昔のことを思い出す。
ねえ、智里。
知ってた?
あなたはね私の恩人なんだよ。
◇
黒瀬純は元気でよく笑う子供だった。
両親は純を愛していたし、純は友達にも恵まれていた。
毎日が楽しく、何をするにも純は輝いていた。
純はなに不自由ない生活を送っていたのだ。
小学校低学年までは。
幼稚園の頃からずっと仲が良かった友達、由井ちゃんが居眠り運転をしていたトラック業者の人に跳ねられて亡くなった。
学校の帰り道。
純の目の前で。
体や頭がぐちゃぐちゃになった、今さっきまで喋って笑いあっていた友達が一瞬で肉片となり、いなくなってしまった。
そんなグロいものを小学生、しかも低学年の子供が見たらどんな反応をする?
私だったら叫んで泣きまくっていたと思う。
でも黒瀬純はそうではなかった。
目を大きく開けて立ち尽くし、さっき程まで人の形をしていた友達を見つめていた。
やがて小刻みに肩を振るわせ、止めどなく涙がこぼれ初める。
頭が追い付いていない分を身体が補っているようだった。
プツンと、何かぎちぎれる音がした。
純は崩れるように倒れ、目が覚めると自分の家のベットで朝を明かしていた。
二日間眠っていたようで両親はとても心配してくれていた。
あの日を境に純は笑わなくなる。
それが小説の中の本来の黒瀬純だ。
だけど私が黒瀬純になってしまったからそんなことはなかった。
まるで私と入れ替わるように本来の黒瀬純はいなくなっていた。
黒瀬純が今まで経験してきたであろうことは覚えていなかった。
目が覚めると人格は変わらないけどまったく別の人になっていた。
黒瀬純の両親のことも分からなかった私は病院につれていかれた。
診断の結果、友人を亡くしたショックで記憶障害を起こしているかもしれないと医者は言った。
実際は別の人格が入り込んだだけなんだけれど。
両親はそれを聞いて涙を流していたけど私はテレビを見ているような感覚だった。何がなんだかわからなかった。
自分が愛読していた小説に転生したのだと分かったのは病院から帰った後だった。
鏡に映る私、つまり黒瀬純の容姿をよく観察してわかったことだ。
半信半疑ではあったけどね。
黒瀬純の両親には申し訳ないことをしたと思っている。私なんかがこの子の体を奪ったせいで実の子ではない私を育てなくてはいけなくなったことを。
本当に心のそこから申し訳なく思っている。
最初はまたやり直せるチャンスができてラッキー程度の気持ちだったけどその気持ちはすぐに消え失せた。
両親が娘が記憶障害になったことに辛そうにしていたことも理由の一つだ。
だが、一番の理由は夢だ。
私が体験したことがないこと、たぶん黒瀬純の記憶が夢で再現され始めた。私は覚えていないけど覚えているような変な気分だった。
私という人格を侵食されていくような感覚でお世辞にもいい気分ではなかった。
中でも由井ちゃんを目の前で亡くした記憶を何度も見てさすがの私も心が折れかけていた。
そんなとき、月城智里という存在だけが私にとっての希望だった。
もしこの世界が愛読していた小説の世界ならいるのではないか、と。
前世で私が大好きだった人がいるんじゃないか、と。
そう考えると夢に対する恐怖より未来に対する希望の方が大きくなった。
小学校の頃に智里に会いに行こうとしたことだってある。
だけど小説では智里の家への行き方などは詳細にかかれていなかったため、会いに行くことは叶わなかった。
私が知っていたのは同じ県に住んでいることだけ。智里が通っている小学校も中学校も小説にははっきりとした描写がなかったからどうすることもできなかった。
道で遭遇することはないだろうかと期待していたけどそんなことは一度もなかった。
智里が高校一年生のときに何度か会いに行ったことだってある。
でも結局会えなかった。
どうしてかはわからない。
タイミングが悪かっただけなのか、何か他の力が働いていたのか。
今となってはどうでもいいことだけど、私がどれだけ智里のことを必要としていたかわかってもらえただろうか。
智里は私にとって光だったんだ。
私を救ってくれた智里には幸せになってほしいし、笑顔でいてほしい。
私の心を保たせてくれた智里が困っていたら全力で手助けしたい。
今度は私があなたを助けられるようになりたい。
変なとこないかな……?
ちゃんと話を繋げることができたかな……?
と不安になりながら続きをかかせていただきましたw
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