23 智里の様子が変です
結局私は誰かが先生にチクったせいで説教をうけることとなった。
上級生に怪我させるなんて、とか。
何を考えているの、とか。
あんなことをしなくても話し合いでどうにかなったんじゃないの、とか。
最終的に先に手をあげたのが私だったからか私が怒られるはめになった。
納得いかない。
先に絡んできたのはあっちなのに。
そう渚に愚痴をこぼしたら「純はまだまだ子供ね」っていわれた。
私、精神年齢今の二倍くらいなんですけど。渚より人生経験豊富なはずなんですけど。
とまぁ悶々としたものを抱えながら数日が過ぎた。
そしてその間智里の様子がおかしい事に気がついた。
私と目を合わせようとしない。
話しかけたら返事はしてくれるけど、どことなくぎこちない。
秋人に告白したという噂は嘘ということになったのだから私とぎこちなくなる理由はないのに智里はそれを聞いても浮かない様子。
自嘲的な笑みを浮かべていた理由もわかっていない。
私は嫌われてしまったのだろうか。
そのことで頭が一杯だと言うのにもうひとつ私の頭を悩ませる問題がある。
「ねぇ、あの子じゃない?上級生の男子と揉め事起こしたって言うの」
「え、まじ?どこどこ?」
「ほら、あそこにいる。小さくてかわいい子」
そうこれだ。
いつものように食堂で食べているとこんな声が聞こえてくるようになった。
これじゃあ、落ち着いて食事もできない。
私は悪くないのにどうしてこんな思いをしなくてはいけないのか。
ため息をつくと実咲が声をかけてきた。
「有名人だね。私も見たかったなぁ」
「あんなことで有名になんてなりたくありませんでしたよ」
「あはは、それもそっか」
実咲はあのことがあった日、体調が悪くて病院に行ってから学校を来たそうだ。
朝の出来事を誰からか聞いて素直に感心したようで、その日のお昼休みに笑いを堪えながらすごいすごいと絶賛された。
「純は小さい頃からおかしかったけど高校に入ってからグレードアップしてるわね」
「え、そーなの?」
「あーもう!あれはあのナル男がしつこかったからだって!話が通じる人だったらあんなことしないよ!」
あれは最終手段だ。
そして男に限られる。
実咲にナル男とは何かと質問されたので「ナルシスト男、略してナル男です」と答えると大爆笑された。
ちなみに渚はあきれてため息をひとつ。
そして智里はというと黙々とお弁当を食べながら私たちの話に耳を傾けていた。
話題にはいってくる様子はない。
普段なら笑ってくれてもいいところなのに笑顔がない。
これは絶対何かある。
もう一人で悶々と考えるのは終わりにしよう。
今日の放課後、智里に直接聞いてみることにする。
なに大丈夫だ。
例え嫌いとか言われても私のHPがごっそり減るだけなので問題ない。
うん、問題ない。
◇
放課後。
智里を下駄箱で待ち伏せする。
二年の教室に行って智里を迎えにいくとかも考えたけど今はなるべく二年の教室に行きたくない。
また変なのに絡まれてお説教をくらうのはこりごりだ。
数人が私の方をチラチラと盗み見ているのがわかる。
ここ数日こういう風に見られてきたがまだ慣れないものだ。
数日で私の日常生活は変わってしまった。
それも全部あのナル男のせいである。
「黒瀬、こんなところで何してるんだ?」
「……秋人先輩」
変わったことといえば秋人もそうだ。
目立つのを嫌がる秋人があの件以来、私と会うと普通に話しかけてくるようになった。
あの件で色々吹っ切れたのだろうか。
どうやら気に入られてしまったようだ。
男のあそこを蹴飛ばした女を気に入るなんて秋人ってマゾなのだろうか。
……やめよう、こんな考えするの。
疲れてるんだな、私。
「月城でも待ってるのか」
「よくわかりましたね」
「お前と月城仲良いからな」
秋人からそう見えているのか。
なんだか嬉しい。
あんな噂が流れたあとだからあまり秋人と関わらない方が良いんだけど何だかんだ話しこんでしまう。
せっかくなので気になっていることを聞いてみる。
「秋人先輩は智里先輩のことどう思います?」
「……なんだよ急に」
露骨に嫌な顔をされた。
「変な意味じゃないですよ。人として智里先輩のことどう思いますか?」
「……あんまり話したことがねぇから変なこと言えねぇけど、すぐお前を助けようとしてたしすげぇ良いやつだとは思ってる」
「……そうですよね。智里先輩はすっごくいい人なんですよ」
そんないい人に嫌われてしまったら、そう考えると嫌な汗が浮かぶ。
マイナス思考に持っていかれそうだ。
「……月城と何かあったんなら早めに仲直りしろよ」
「え」
「お前、顔暗いんだよ。俺でも気づくわ。んじゃ、俺は帰るから」
がんばれよ、と言い残して秋人は帰っていった。
秋人に励まされるなんて私相当顔に出てたんだな。
気を付けよう。
頬をたたいて気持ちを切り替える。
そうしているうちに目当ての人がすぐ近くに来ている事に気がついた。
お互いの目が合った。
目をそらされる前に私は急いで口を開く。
「智里先輩、お話があります」
覚悟は決めた。
智里が私に対して思っていることを教えてもらおうじゃないか。




