22 噂を鵜呑みにしてはならない
秋人の好きなタイプ?を聞けてから数日後。
ありえない噂が流れた。
「純、あんた上級生の男子を呼び出して告白したってほんと?」
朝、登校すると渚が本を読むのを止めてそう聞いてきた。
「ん?聞き間違いかな?誰が誰に告白したって?」
「あんたが、上級生の男子に、告白したんじゃないの?」
「誰だぁ!そんなしょうもない噂を流したやつは!告訴してやる!名前を!名前を教えてくれ!」
「誰が言い出したかなんて知らないわよ。今朝下駄箱で上級生の女子が話しているのを聞いただけ」
淡々と噂を知った経緯を話す渚。
いつでもどこでも渚はクールだなっ。
さっきからクラスメイトがチラチラこっちを見ていたのはそういうわけがあったのか。
もしかしなくても私が秋人を体育館裏に呼び出したのが原因だろう。
やばいぞ。これがもし智里の耳に届きでもしたら誤解されるかもしれない。
最近私に対して普通に笑ってくれるようになったのにあらぬ誤解で仲違いするなんていやだ。
そんな最悪な事態を想像してしまったら授業なんて受けてられない。
「私ちょっと2年の教室行ってくるね!」
「うん、行ってらっしゃい」
渚は本を読みながら私に目を向けずにそういった。
渚、あんたって子は本当にブレないねっ!
◇
勢いで2年の教室に来たものの周りからの視線がいたい。
皆あの噂信じているのか。そんなのあんまりだ。
秋人のことは普通に好きだけど恋愛対象でなんか見れないぞ、私。
智里のいる教室に向かう。
もう一年まで噂が広まっているんだ。
智里が知らないわけがない。
(えーっと、智里の教室は……)
急がなければ。とにかく急がなければ。変な誤解されて疎遠になるなんてごめんだぞ、私は!
「君、九条にコクった子じゃない?」
はーい、男子の集団に囲まれたしたー。面白がっているのがみえみえだ。
もお!急いでるのに!
「コクってません」
「えー、でも俺見ちゃったんだよねー。君が九条と体育館裏に行くところ」
「エロいことでもしてたわけ?」
「おい、そんな直球に聞いたらダメだろw」
「だって気になるだろう。九条のやつ聞いても教えてくれないし」
下品だ。
そして最低だ。
キモすぎて吐き気がする。早くこの場から離れたい気持ちにかられたが智里に会うまでは一年の教室に帰るわけにはいかない。
(秋人、私と体育館裏にいた理由話さなかったんだ。内容が内容だったし私を気遣ってくれたのかな?)
もしそうならありがたいことだけど智里に余計な誤解を重ねてしまうことになる。なんてことだ。踏んだり蹴ったりじゃないか。
ニコニコと笑顔を浮かべているなかなか顔が整っている男子が近付いてきた。
「ほんと、かわいいねぇ。なのになんで九条なの?他に良い男くらい、いっぱいいるだろうに。たとえば、俺とかさ」
ぷちん、と糸がきれた音がした。
人が急いでいるときに集団で足止めした挙げ句人の悪口をいうだなんて何様だこの人たち。
私は顔に笑みを張り付け、口を開く。
「ごめんなさい。人の意見をまともに聞けない脳ミソ小学生以下な人とどーこーなりたいとか思わないんですよね、私」
私の発言に辺りがシンと静まり返る。
一瞬何を言われたのか分からなかったのかナルシスト男は呆然としていた。そして数秒おいた後、カァーっと怒りで顔を赤くした。
「この……っ」
「用事があるので失礼します」
そういって間を通り抜けようとしたのだが、やはりそう簡単にはいかなかった。
ナルシスト男が私の腕を掴んで離そうとしない。
「俺、先輩なんだけど」
「はい、それがどうかしましたか?」
先に生まれた方がえらいってか?
一歳しか違わないのに?
気持ち悪いからさっさと手を離してほしいんだけど。
なんかベットリしてるし。
あせ?あせなの?
尚更気持ち悪いな。
「何やってるの」
男がまた何か言おうしたそのとき。
聞き馴染んだ声が耳に届いた。
「智里先輩っ!」
振り向くとそこには今登校してきたのであろう智里がいた。
智里は男に捕まれている私の腕を見て眉を寄せる。
「この子嫌がってるみたいだけど、どうして手を離さないの?」
「ちょっと教えてあげてたんだ。先輩になめたこと言ってはいけないよって」
「わざわざ嫌がる後輩を捕まえてすること?さっきから下品な単語も聞こえていたんだけど先にこの子をバカにしたのはあなた達じゃない」
正論だ。
ナルシスト男は智里の正論に言葉をつまらせている。
ばーかばーか。
お前なんて智里の前じゃ猿以下だよーだ。諦めて早く腕を離さんかい。
腕を掴まれている手を何度か叩いたらギロッと鋭い目付きで睨まれた。
いや、怖いんですけど。
さっきまで浮かべてた爽やかスマイルはどこに置いてきたんですか?
「お前こんなところで何やってるんだよ」
「あ、秋人先輩!」
秋人が教室からわざわざ出てきてくれた。
丁度良いところに来てくれた。このセクハラナルシスト男をどうにかしてほしい。
「九条、お前この子にコクられたんだろ?」
ナルシスト男は嫌らしい笑みを浮かべた。
思ったんだけどこの世界の男って秋人以外クズしかいないの?
話を聞かない猿以下の人間しかいないなんて地獄でしかないんだけど。
あ、でもうちの父親はまともだわ。
単にこの人の頭が人間の言葉を理解できない猿以下なんだ。
「何度も言ってるだろ。コクられてねぇよ」
「じゃあ、何をしてたんだよ」
グッと秋人は口を紡ぐ。
私の方をチラッと見た後、悩ましげに眉を寄せた。
「ほら、黙るじゃないか。やましいことでもしてたんじゃないのか?」
「お前なぁ……」「あなたねぇ……っ」
秋人と智里の声が被る。
いつの間にか私たちの周りには人が集まってきていた。
それでもナルシスト男は手を離そうとしない。
いい加減腕も痛くなってきたしこのままでは先生がやってきてもれなくお説教を受けることになる。
私は仕方ないけど何も悪くない智里と秋人を巻き込むのは申し訳ない。
「……腕、離してください」
冷たい目で男を見やる。
すると男は不機嫌そうに眉をつり上げた。
「なんだよその目。なま……っ」
男は最後まで言い終わる前に床に転がることとなった。
私が男の足をひっかけ、バランスを崩させたからだ。
そして男にとって一番大事な私にはない部分を蹴飛ばしてやった。
そこでようやく私の腕が解放される。
「~~っっ!!」
言葉にならない悲鳴をあげながら男の大事な部分を押さえるナル男。
なんとも無様な姿だ。
私はそれを見下ろす。
「離してって言ったのに離さないのが悪いんですよ」
袖をあげて掴まれていた腕をみる。
少し赤くなっており、触るとちょっと痛い。
「これ、どう責任とってくれるんですか?痛いんですけど」
あ、君が言うんだ、とこの場にいる誰もが思った。
色々言いたいことはあるがぐずぐずしていたら先生がきてしまうので心を沈める。
「あの、そこの先輩方。この人保健室に連れていって貰えませんか?」
「「え、俺?」」
下品なことを言っていた男どもにナルシスト男、略してナル男のことを任せる。
そしてようやく智里に話しかけることができる状況になった。
「智里先輩っ」
「……あなたすごいわね」
「え、そーですか?話が通じない猿を相手にしても仕方ないでしょう?」
智里は頬を引きつかせている。
本当のことを言って何が悪い。それに女の私の腕を力任せに握って痕までつけたんだ。これくらいしてもバチは当たるまい。
「それより智里先輩!私、秋人先輩に告白なんてしてませんからね!」
「え? あぁ、うん……」
ん? 思ってたより反応が薄い。
そこまで気にしていなかったのだろうか。
それとも先程の私の行動にまだ驚いているのだろうか。
「ぷっ、あはは!お前っ、あれは、やりすぎだろ!」
突然秋人が吹き出した。
お、笑うと結構かわいいじゃん。
いつものムスッとした顔より今の方が断然良いな、うん。
傍観していた人たちもクスクスと笑い始めた。
「黒瀬、だったか?お前面白いな。足ひっかけてあそこ蹴るとは思わなかったわ」
「秋人先輩こそ。来てくれるとは思いませんでしたよ。周りの人たちみたいに傍観していると思ってました」
「あー、月城が黒瀬を助けにいったのに当事者である俺が出ないわけにはいかないだろ。月城はすげぇな、すぐに黒瀬のこと助けようとしてたよな」
「え、そんな……っ」
秋人の邪気のない笑顔を向けられ、智里のシミひとつない頬がほんのり染まっていく。
はい、かわいいです。
尊いです。
好きな人に褒められて照れちゃうのは当たり前のことだよね。
秋人、じゃんじゃん褒めてあげて。
そうすれば智里は喜ぶし私は推しの尊い姿が見えて一石二鳥だ。
「智里先輩、念のためもう一回言いますけど秋人先輩に告白してませんからね。そもそも秋人先輩は私のタイプじゃないのでっ」
「すげぇー、言われようだな」
「…………」
秋人は苦笑を浮かべ、智里は無言。
「私のタイプは普段からシャキッとしてて頼れて優しくて真っ直ぐな人なんです!秋人先輩じゃ似てもにつきません!」
とは言っているものの秋人は何だかんだ頼れるし根は優しくて自分の信念は曲げないそんな男なのだけど。
あ、あれ?
ほとんど秋人に当てはまってない?
あ、だけど普段からシャキッとはしていないか。
「確かにそうだな」
秋人が相づちをうってきた。
後輩である私にぼろくそ言われているのに秋人
は怒りもしない。
ごめんよ、秋人。
こんな大勢の前で言うことじゃないんだろうけど私だって焦っているのだ。
智里を幸せにするのが目標なのに私が智里に嫌な思いをさせてどうする。
普段の抱きつくとかも嫌がられているけどそれとは限度が違う。
「智里先輩……?」
胸の辺りがざわついた。
知り合ってから見たことがない、智里の自嘲的な微笑みを浮かべていたからだ。
どうしてそんな顔してるのかわからない。
怒っているわけではなさそうだしどういう感情が渦巻いているのか。
その自嘲的な微笑みは私と目が合うとすぐに消えた。
困ったように微笑んだ後、教室に帰るよう促された。
そろそろチャイムが鳴るから、と。
私はうまく言葉が出てこなくて結局智里に言われるがまま一年の教室に帰ることになった。
あの顔はなんだったのかと悶々と考えていたけど全然わからなかった。
ただ智里のあの表情が授業が始まってもずっと頭の中から消えなかった。
面白いなー
続きが気になるなー
って思ったそこのあなた!
ブクマと評価をお願いするわ!
感想も書いちゃっていいのよ!
ていうのが書きたかっただけw
誤字報告ありがとうございます!




