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19 生徒会長

「洗いざらいはいちゃってください」


 放課後の生徒会室。

 私は書類をまとめる手を止めず、あの時のことを聞いた。

 遠回しに聞いてもはぐらかされるのがオチだ。

 なら真っ正面から堂々といった方が勝算があるかも、と期待を込めて質問する。


「貴女には関係ないことよ」


 智里は手を止めずに答えてくる。

 やっぱりそうきたか。

 智里のことに関して私に関係ないことなんてないんたけど今は茶化している場合じゃないので思ってても口にしない。


「実咲先輩も心配してましたよ。最近智里ちゃんが元気ないって。人に心配かけといてそれはないんじゃないかなぁ」


「それは……」


 私なんて心配で微妙に離れてる神社三つもまわったしね! 


 智里は瞳を揺らしてる。そんな顔じゃなくて私は智里の笑顔が見たいんだけどなぁ。



 少しは教える気になってくれただろうか。実咲の名前を出すのはなんだか負けたみたいで悔しいけど智里が何を悩んでいるのかの方が気になるからグッとこらえる。



「……親とちょっと喧嘩しただけよ。心配することは何もないわ」


「何が原因で喧嘩したんですか?」


「……うちの親厳しいのよ。それで最近帰るのが遅いって言われてついカッとなっちゃって言い合いになったの。それで何日かたってまた掘り返してきて頭ごなしに否定ばかりするから勢いで家を出ていったの」


 うむ。

 思いの外かわいらしい理由だった。

 でも親の顔色を伺ってばかり幼少期を過ごした智里にとってこれだけでも深く考えてしまうことなんだろう。


「帰ってくるのが遅いって智里先輩寄り道でもしてるんですか?」


「してないわよ」


「じゃあ、何してるんですか?」


「今もしてるでしょ。生徒会の仕事よ」


 え、門限早すぎない?

 生徒会の仕事を切り上げるの六時なんだけど。

 この時間帯で帰ってくるのが遅いって言われるの?

 過保護すぎでしょ。

 それは智里怒って良いと思う。

 高校生活は三年きりしかないのに親の言いなりになる必要なんてないと思う。


 でも待てよ。

 そもそもこの仕事って生徒会長のもので智里がする必要はないはずだ。

 智里は断りきれなくて引き受けているけどそれはいかがなものか。


「生徒会長ってどんな人なんですか?」


「急ね。んー、一言で表すなら変な人、かしら」


 あなたよりも変よ、と苦笑をうかべられた。

 智里に私より変って言わせる生徒会長って……。


「掴み所のない性格でスキンシップが多くていつも色んな所触られてるわね」


「ちょっとまってください!今、重大なこと言いましたよね!?」


 色んな所触られるってそれセクハラ!

 セクハラだから!

 智里はキョトンと首をかしげて分かっていない様子。


「え、生徒会長って男ですか?女ですか?」


「女よ。知らなかったの?」


「私、智里先輩に夢中なので目移りなんてしません」


 はいはい、と軽く流された。


 いや、それは今どうでもいい。

 智里がセクハラされていることが問題だ。

 本人は気付いていないのだろうか。


「……具体的にどこを触られてるですか」


「主にお尻とかかしら。時々胸も触ろうとしてくるけどさすがに断ってるわ」


 あー、これダメだわ。智里、あんたズレてるよ。普通お尻もアウトでしょ。女同士でもセクハラってあるんだよ?知ってた?

 お尻だけでも許せないのに胸をも触ろうとするとは……生徒会長許すまじ。

 私だって触ったことないのに。

 胸は抱きついたときに触感を味わうようにしてるからいいとしてお尻はまだ触ったことがなかった。

 どうしよう。智里のお尻が触りたくなってきた。

 私がせいはしていない智里の体を他の人が触っていると聞かされるとライバル心が芽生えた。


 一度触らしてもらえるようにお願いしてみようか。それともさりげなく触ってみようか。

 とゲスなことを考えていると生徒会室のドアが開いた。


 私は一旦手を止めてそちらを見る。

 入ってきたのは見たこともない女の子だった。身長は160cm弱というところだろうか。髪をポニーテールにしてバスケとか陸上などにいそうな運動部って感じの人だ。


「会長、何か用ですか?」


 誰だろうと不思議に思っていると智里が手を休めずにその人物に話しかけた。

 え、この人が会長……?

 智里にセクハラしまくっているっていうさっき話してた会長なの?


「よっ、遊びに来たよ!」


 ニカッと気持ちいい笑顔を浮かべるセクハラ会長。


「遊ぶ暇なんてないので出ていってください」


「えー、冷たいなぁ」


「出ていくつもりがないなら手伝ってください。これ会長の仕事なんですよ」


「まぁまぁ。そんなこと気にするなって。私と智里の仲だろう?」


「あ、あの!」


 疎外感を感じ始めたので思いきって声をかけた。

 セクハラ会長が私に視線を送る。

 智里はチラッと私の方をみた後、黙々と作業を続けていた。


「おぉ、こんなところにかわいい子がいるじゃないか。私は生徒会長の霜島利奈(しもじまりな)。君は?」


「黒瀬純です」


「あー、君が噂の純ちゃんかぁ」


「噂……?」


「入学してからずっと智里のことを追い回しているんだろう?登校している時に抱きついたりしているみたじゃないか。智里の抱き心地はどうだった?」


「それはもう最高ですよ」


 抱きついたときに感じるムニュっとしたあの胸の感触。智里の身長はたぶん160以上だろう。私の身長は156くらいだ。身長が智里より小さいおかげで胸に顔を埋めることができる。その度に嫌がられているのだけど。


「やっぱりなぁ。智里のあれは凶器だぞ。放っておくと一般男子を一発で殺せてしまうことだろう」


「わかります!そこらの男子なら一目みただけでコロッといっちゃうと思います!」


 この人話がわかるじゃないか!

 そう、智里の胸はもはや凶器なのだ。

 誰にも智里の胸には抗いようがない。


「人の胸で物騒なこと言わないでよ。会長、手伝う気がないなら出ていってくれませんか?」


 冷ややかな声の中に怒りの色が見えた。

 そうだった。

 この人は智里に仕事を押し付けてセクハラしている会長なんだ。智里の胸について自分と同じ意見を持っている人と初めて話せてつい舞い上がってしまった。


「本当に冷たいなぁ。冗談に決まってるだろ。ユーモアは大切にしないとね」


「会長のそれをユーモアですませるには度がすぎてると思います」


 思っていたより智里はハッキリものを言っている。

 てっきり何も言い返せずに押されまくって仕事を丸投げされているのかと思っていたけど違うのかな?


「智里はお堅くて困る。これは一種の愛情表現なんだよ」


 ……。


 この人私とキャラ被ってないか?

 セクハラを愛情表現って言っちゃうところとか智里の胸の素晴らしさを熱弁するところとか。


 うん、似ている。というか、私を越えている。

 私の影が薄くなるほどセクハラ会長は変態だ。


「せっかく良い報告を持ってきたのにそんな冷たくされるといいたくなくなっちゃうなぁ」


「……良い報告ですか?」


「うん。智里にとっては良い報告だと思うよ」


 胡散臭いと言わんばかりの目で会長をみる智里。


「今日からは智里に任せた仕事を全部やろうと思ってね」


「……どういう風の吹きまわしですか?」


「いやぁ、少しでも長く恋人といたくて智里に仕事を任せてたんだけどそれを知られて怒られちゃったんだよね。後輩に押し付けるなんて最低って」


 ごもっとも。

 恋人さんが言っていることは間違っていない。当たり前のことだ。


「だから今日からしなくて良いよ。仕事押し付けててごめんね。今やってるの全部残して帰りな」


 あれよあれよと話しは進んでいき私たちは生徒会室を出ていくことを余儀なくされた。

 さすがに智里もこれには呆然としていた。


 帰って良いと言われたのなら帰るのだけど。なんだか釈然としない。

 智里もそれは同じようで眉を八の字にしている。


「嵐みたいな人でしたね」


 帰り道、私は会長への感想を口にした。


「……そうね。あの人いつもあーだからいちいち反論するのにも疲れるのよ」


 そしてため息をひとつ。


「でもここぞという時は頼りになるのよ。ここぞという時には、ね」


「それ以外はダメ人間だと思ったんですが合ってます?」


「……」


 無言は肯定とみなした。

 疲労感を漂わせながら歩くその様子はブラック企業に就職したOLの末路のようだった。


「まぁ、良かったんじゃないですか?これで帰りが遅いって言われなくなるわけですし」


「それはそうだけど……親の言いなりになっているみたいでモヤモヤするわね……」


「反抗期ですか?」


「かもしれないわ」


 控えめな笑みに私の心臓は何発か射ぬかれることとなった。

 ここ最近、智里はこんな風に笑顔を見せてくれるようになった。

 私のあの恥ずかしい発言と毎日生徒会長の仕事を手伝っていた成果だろうか。

 推しの笑顔は最高に尊い。


 嫌がってギャーギャー言ってた智里が懐かしく感じる。いや、今も嫌がられるときはありますけどね。

 こんな風に笑顔を見せてくれるってことは少なからず私のことを信頼してくれているのではないかと思うわけですよ。


「じゃあ、本屋にでもいきます?」


「いいわね」


 ダメもとで聞いてみたらまさかのオッケーがでた。


「ほんとですか? やったー!智里先輩と放課後デートできるなんて夢みたいです!」


 満面の笑みを智里に向ける。


「デートねぇ。……女同士でもデートになるのかしら」


「そんな細かいことは気にしなくて良いですよ。ノリですノリ」


 その後、私は目当ての小説を手に入れ、智里とも放課後を共にできるという至高の時を味わった。

誤字報告してくださった方ありがとうございます。

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