16 何があったんだろ
ルンルン気分で智里の家へ向かったは良いものの、あの智里がすんなり私を家にあげてくれないのはわかっている。
渚もいないし、よほどの事がなければ家になんてあげてくれないだろう。
だから、私は考えていた。
どうしたら家にあげてくれるか考えていたらあっという間に智里の家についてしまった。
智里の家を一言で表すとしたらとにかく広い、だ。
パッと見旅館のようである。
(智里顔は洋風なのに家は和風なんだなぁ)
さて、これからどうしようか。
(いつもみたいに強行突破で行っちゃう?……さすがにそれしたら嫌われそうなんだよなぁ。ただでさえ低い好感度が底辺についちゃったら秋人と智里をくっつけるなんて夢のまた夢だし)
実咲とはお弁当食べるときに会ってるけど、秋人とはストーカー事件の後から全然会っていない。
会う機会がない。
実咲は懲りずに秋人をお昼に誘っているようだが、女四人、男一人のお昼に誰が行きたがるだろうか。
実咲さんよ、それは酷すぎませんか?と心のなかで突っ込みをいれたのを覚えている。
(休みが終わったら秋人に一度会いに行こっかな。好みのタイプとか聞いてみたいし)
そのネタを智里に提供してからかうまでが私の仕事である。
「お待ちなさいッ!智里さんッ!」
「ッ!!」
邪な事を考えていると戸が開かれた。
智里は私に気づかず横を通りすぎ、後から出てきた着物を着た女の人は智里を追いかけようとするも着物のせいかうまく走れていない。
何だかよく分からないけど、私は智里を追いかけることにした。
(何があったんだろ……?)
考えるのは後にしよう。
とにかく今は智里に追い付くことだけ考えよう。
◇
結果からいいます。
見事に見失いました。
違うの!
私の足が遅い訳じゃないの!
智里が異常に速すぎるだけなの!
って誰にいってるんだ私は。
智里が行きそうな場所ってどこだろう?
小説にはそこまで詳しく智里のことについて書いてなかったからわからない……。
(くそ!作者のアホたれ!いくらメインヒロインが人気だったからって他のヒロインのことをぞんざいにあつかいすぎでしょ!)
当て馬ポジションだったってことは分かってるけど納得いかない。
この世は所詮弱肉強食だと言うことか。
まだ明るいからいいけど暗くなったら物騒だ。
なんせ智里はあの美貌だ。
変なやつに絡まれるかもしれない。
考えろ考えろ考えろ。
(智里は静かな場所が好き。誰にも邪魔されないような静かな場所が好き。家の人から逃げてたっぽいし、見つかりやすいところにはいないはず……)
そういえば、智里は小さい頃嫌なことがあったらよく行く神社があったような……。
携帯で近くにある神社を探してみる。
(って神社三つあるんだけど!? 微妙に距離離れてて遠いし!)
でも、行くしかない。
そこに智里がいる保証はないけど、ダメもとで行ってみよう。
◇
まず最初に智里の家から近い神社に行ってみたけど智里はいなかった。
(やっぱり家の近くにはいないか)
次に少し離れた神社に向かう。
最初の時より広くて一周回るのにも一苦労だった。
でもここにも智里はいなかった。
「はぁ、はぁ」
きっつい。
さすがに運動してない帰宅部にこれはハードすぎる。
最後の頼みの綱で智里の家から徒歩で半時間はかかる神社に走って向かう。
足がガタガタ震えてるし喉も乾いてきた。
それでも走り続ける。
三つ目の神社は階段が長くてを登るのがきつい。
なんとかてっぺんまであがった私を誰か褒めてほしい。
取り敢えず神社の裏に行ってみる。
木に囲まれていて、虫だらけだった。
正直気持ち悪い。
でも、そこは我慢だ。
我慢だぞ、私。
「あ、先輩!」
やっと見つけた!
智里は膝を抱えてうずくまっていた。
虫が沢山いるというのによくそんなところでじっとしていられるものだ。
「え……どうしてあなたが……?」
「智里先輩の家に遊びに行ったんですよ!もー!心配しましたよっ。急に飛び出すし、足早くて追い付けないし、この辺り色々物騒なんですからっ」
とりあえず説教してみた。
心配だったのは事実だし、心配させたのは智里自身だ。
これを怒るなと言われても無理である。
「とりあえずそんなところでうずくまってないで立ってください。蚊に刺されますよ」
「……放っておいて」
「そういうわけにはいきませんね。どうしても動きたくないって言うなら智里先輩が嫌がることしまくりますよ」
「……」
無視ですか。
そうですが。
そっちがそうくるなら私だって考えがあるんだからな。
私は智里に近づいた。
「動かないんだったら秋人先輩に智里先輩の気持ち勝手に伝えちゃいますよ」
「……」
また無言。
さすがにイラッとした。
私はあなたを探すために走り回って疲れてるんですけど。
今は自分でも何しちゃうかわかんないんですけど。
「……喉、乾きませんか」
「……」
「今日暑いですよね~。ずっとこんなところにいたら喉乾きますよね。何か買いにいきましょうよ」
語尾を強めて言ってみたが、またもや無視。
どんな智里も可愛いけどこれは私が望んでいる形じゃないから不満だ。
すごく不満だ。
「もー!!なんですかその反応!もっと怒ってくださいよ!智里先輩が大人しかったら調子狂います!」
「……」
「……何があったんですか?」
せっかく遊びに行ったのにこんなことになるとは予想外だ。
智里をからかって遊ぼうと思っていたのに。
智里は一向に動こうとしない。
虫が寄ってきてるから一刻も早くここから離れたいんだけど。
私は智里の手を取った。
智里はやっと私の目を見てくれた。
「私じゃ頼りないですか?信用できませんか?」
「……」
「何があったのかは言いたくないならそれで良いです。智里先輩の問題ですもんね。でも、心配はするなって言われてもします。放っておいてって言われても放っておきません。一人にしてほしいって思うんだったら私にはわからないところに隠れててください。あ、でも今日はもう遅いですからね。見つけちゃいましたから」
智里はじっと私を見つめてくる。
「心配するのはダメないことじゃないでしょう?」
智里の瞳が大きく揺れた。
智里は私にとって大好きな、特別な存在だ。
智里が辛い思いをしているとき、同じように辛く思っている人がいることを知っていてほしい。
というか知ってもらわないと困る。
「智里先輩に何かあったら私が困ります」
少し照れくさくなって、小さな声で言葉を続けた。
しばらく沈黙が流れる。すると智里がクスクスと笑いだした。
「なっ……笑わないでくださいよ!私真面目に言ったのに!」
「だ、だって。あなたが真剣な顔してたからおかしくて、つい」
「……私が真剣な顔してたら変ですか?」
「何を言ってるの?あなたは元々変じゃない」
ズバッときつめの一言頂きました。
私だって人間で傷付くことくらいあるの忘れてないだろうか。
自分でも照れることを言ってしまってもう後悔しそうなってるのに追い討ちをかけないでほしい。
「でも、あなたのこと嫌いじゃないのよね、私」
独り言のようにポツリと呟く。
その一言に私は胸が高鳴ったと同時に嫌われていないというのは私の願望だけでなかったことに安堵した。
嬉しいこと言ってくれじゃないか。
感極まって踊り出しそうな気持ちを押さえる。
「智里先輩、とりあえず家に帰りませんか?ここ虫多いですし汚れますよ」
できるだけ優しい声で促すように誘ってみる。
智里は少し黙りこんだ後、口を開いた。
「……そうね。逃げてても何も変わらないんだから」
自分に言い聞かせるようにそう呟く。
何から逃げているのか。なぜ家を飛び出していたのか。
聞きたいけど今聞いても答えてくれないだろう。
また今度聞いてみることにする。
「うんうん。智里先輩にこんなジメジメしたところ似合いませんよ。もっと華やかなところが似合います。ってことでお手をどうぞ、お嬢さん」
立ち上がり智里に手を差し出す。
茶化していないとさっきのことを思い出して羞恥心で身悶えしそうだからだ。
いつものように軽くあしらわれるかな、と思っていたのだけど智里は薄く微笑した後、手を取ってくれた。
「あなたのそういうところ今はすごいと思うわ」
「光栄の極みに存じます」
智里先輩が笑顔になってくれるなら私はいつだってボケますよ、と付け加えると微妙な顔をされた。
解せない。
智里は家へ帰る決心がついたようなので私も帰ることにする。
遊びにきたのにどうしてこうなったのか。
ま、智里の笑顔を見えたことで良しとしよう。
当然私は智里の家に帰るわけにはいかないので 途中で別れることになる。
別れるとき智里が謝罪をしてきた。珍しかったので思わずからかってしまった私を許してほしい。
智里と別れて数分後。
私は堪えていた羞恥心が爆発した。
泣きそうだ。あんなこというつもりなかったのに。
(恥ずかしいこと言っちゃったなぁ……)
今頃、顔に熱が帯びてきた。
さっきは平気だったのに。
(これは墓穴を掘ったかもしれない………)
熱を帯びた顔を冷ますために近くにあったコンビニでアイスを買ってから、家に帰ることにした。