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14 生徒会室

 あの日から私と渚、実咲と智里の四人は毎日一緒にお昼を食べるようになった。

 渚は二人のことを気に入ったらしく、廊下や階段ですれ違うと自分から話しかけにいっているのをよく見かけるようになった。

 私としてはとても望ましい結果だ。

 実咲の秋人への好意がどれくらいなのか分かるし、智里とも話ができて新密度がアップ……!


 ―――なんてことは無かったのだけど、というか新密度がアップしたのは智里と実咲なわけなんですけど。

 お互い下の名前で呼び合うようになってるし少し嫉妬してしまう。いつのまにか実咲は『ちゃん』付けで智里は『さん』付けで呼び合っていた。

 

 少し悶々としてしまうが何だかんだ四人で食べるお昼は楽しい。

 智里に生徒会の仕事に対する愚痴を聞かされたり、実咲の距離感が近すぎてどう接して良いのか分からない様子の智里を見ていると愛おしさがあふれてところ構わず抱きつきたくなる。


 え、もうしてるって?

 それは仕方ない。

 智里がかわいすぎるのが悪い。


 だが今日は智里がどうしても生徒会の仕事で今日中にしておかないといけない事があって智里抜きの三人で食べることになった。

 それを食堂で実咲から聞いた私はすぐに生徒会に行くことにした。

 実咲と渚にはすでに了承を得ている。


「智里先輩ー!!!!」


 生徒会室のドアを勢いよく開けて叫んだ。

 生徒会室には智里しかないかった。

 智里は体をビクッと震わし、私の顔を見るなり青ざめた。


「なななな、何であなたがここに……!?」


「生徒会の仕事を手伝いに来ました!お昼一緒に食べられないなら早くいってくださいよー!」


「そ、そんな……久しぶりにあなたから解放されてお昼はゆっくりできると思ってたのに……!」


「そんなこと思ってたんですか!?」


 私の扱いどんどんひどくなってません?

 さすがに泣くよ?

 泣いちゃうよ?

 と感傷的になりそうだった私の心は目の前の山積みになった本やら紙やらを見て正常(?)に戻った。


「うわぁ、結構な山ですね……」


「やっと半分ってとこよ……」


 机一杯に置かれている書類たちを虚無の瞳で見つめている智里。

 これは重症だ。

 仕事しすぎてヒロインらしからぬ目になってるよ。


「もともとは生徒会長仕事なんでしょ?なら智里先輩が一人でやる必要なんてなくないですか?」


「そうだけど……『君しかいないんだ!』って頼られちゃったんだもの……」


「……先輩、それダメ人間に引っ掛かる人の言い訳ですよ」


 智里ってこんなに苦労人だったんだ……。私に好かれてる時点で渚に苦労人認定されてるのにこれはすごい。

 智里は根っこから苦労人になる素質があるみたいだ。


「手伝うんで早く終わらせて一緒にお弁当食べましょう!」


「そんなのいいわよ。昼休み短いんだしお弁当食べてなさいよ。ここで食べて良いから」


「智里先輩と一緒に食べたいからいやです」


「でも時間が……」


「智里先輩だってまだお弁当食べてないですよね?」


「そうだけど……」


「私、智里先輩とお昼食べたくてここに来たのに一緒に食べなくちゃ意味ないんですっ」


 お互いをジッと睨み合う。

 智里になんと言われようと私は引かない。自分のやりたいことを我慢するなんて私にはできない。

 そんな私の意思が伝わったのか智里は呆れたようにため息を付いた。


「わかったわよ。机の上の一番右に積んである書類持ってきて。それが終わったらお弁当食べるつもりだったから」


「はいっ!」


 私は言われるがままに紙の束を智里の方へと持っていった。

 智里はその紙たちに判子を押していったり、一通り読んだ後クリアファイルに挟んだりしていた。

 手伝うなんておおみえきって言ったは良いものの私ができることなんて特になくて、唯一することと言えば散らかっていた生徒会室の掃除だった。


 掃除の合間にチラチラと智里の綺麗な顔を気づかれないように見た。


(かっこいいなぁ)


 普段の智里は私の言葉に苛立ったり、困ったりしていてとても忙しなく表情を変えていく。

 だが、今の智里は違う。

 集中して紙切れに書かれている内容を熱心に読んでいる。その姿はとても凛々しいもので、普段とのギャップに胸を打たれた。

 書類なんて適当に読んで判子したら良いのにそうしないのが月城智里という人物なのだ。

 さすが私が惚れ込んだ人である。


 十分もしない間に智里はたくさんあった書類にすべて目を通し、あっという間に終わった。


「いやぁ、さすが智里先輩ですね~」


 私はお弁当のおかずを食べながら智里を称賛した。


「……なによ急に。褒めてもなにもでないからね」


 とか言いながらも照れているのが隠せていないところがすごくかわいい。


「智里先輩は将来社長とかになってそうですね」


「社長なんて私には無理よ。そんな重責私に勤まるわけないわ。私はサポート役で十分」


「じゃあ私が社長になりますよ。そのときは智里先輩を補佐役に任命しますね!」


「あなたが社長なんて絶対ろくなことないわよね……ま、もしあなたがお給料の良い会社の社長になったら補佐役考えてあげても良いわよ」


「ふっふっふ……その言葉、忘れないでくださいよ?」


「えぇ、いいわよ」


 二人ともにやっと意地悪く笑う。

 それが何だか可笑しくて声をあげて笑ってしまった。

 智里も同じで可笑しそうにくつくつと笑っている。


「―――ずっと思ってたんだけど、どうしてあなたは私をこんなに気にかけてくるの?」


 ひとしきりわらったあと、智里はいつになく真剣な顔でこんなことを聞いてきた。


「何ですか突然」


「ちょっと気になったのよ。だって私とあなた入学式に会ったのが初めてでしょ?なのにどうしてあなたはそんなに私に寄ってくるのかなって思って」


 智里からしたら初対面の相手にひつこく付きまとわれているように感じているんだろう。

 実際そうなのだが。

 私は前世から智里を知っていたが智里はそうではない。


「私に固執する理由ってなんなの?」


「智里先輩は自分のことを過小評価しすぎですよ。そんなところも好きですけどもっと自信もってください」


「……話そらそうとしてるでしょ?その手には乗らないわよ。ほら、早くはきなさい。私に付きまとってる理由はなんなの?」


 真っ直ぐと視線を合わせてくる智里。

 私は、途方にくれた。

 ただ、本当のことを言ったとしても信じてもらうなんて不可能に等しいし、上部だけの嘘を並べても智里には見抜かれてしまう。

 智里は上部ばかり気にする人のことがあまり好きではない。家の人たちが上部ばかりを気にして月城智里という人物をきちんと見ようとしなかったからだ。幼心はとても傷つきやすいもので、智里は今でもその事を時々思い出しては腹をたてている、と俺ラブの本には書いてあった。

 最悪嫌われてしまうかもしれない。

 それは絶対に嫌だ。


「……智里先輩は自分が自分である決定的なものってありますか?」


「またはぐらかそうとしてるの?」


「違いますよ。ちゃんと質問に答えようとしてます。でもその前に智里先輩の考えが知りたいだけです」


「……自分が自分であるってどういう意味?」


 訝しげにしているものの、答える気になってくれたようだ。


「んー、例えば好きなものとか、趣味とか、自分ってものを決定的に肯定できるなにか、ですかね」


「趣味は読書。好きなものは特にないわ」


「あれれ?好きなものは秋人先輩じゃないんですか?」


「く、九条くんは物じゃないわ……!」


 ポッと智里の頬に赤みが増す。

 好きなことは否定しないんだ。

 真っ赤になって照れているのが微笑ましくて、薄く微笑んだ。


「そうですね。好きな()ですよね」


「っ……楽しんでるわね!?私のことはいいから早く私に固執する理由教えなさいよ!」


「急かさないでくださいよー」


 しゃーっと猫のように威嚇してくる。

 私はどちらかというと猫より犬派なんだと思ってたけど本来は違ったのかもしれない。

 だって推しである智里は猫みたいに冷たくて、他人なんてどうでも良いみたいな雰囲気を醸し出しておきながら案外周りを見て、さりげない気遣いができる寡黙のある人だ。

 智里のせいで私の感性は大きく変わったようだ。


「私にとって自分って肯定できるのが智里先輩なんですよ」


「え……」


 なぜか智里は肩を抱いた。

 どうやら変な意味で捕らえたようだ。


「そんなに警戒しないでくださいよ~」


「なら普段からちゃんとしててほしいんだけど……」


「渚みたいなこと言いますね」


 苦笑を浮かべた。

 渚と智里は少し似ているところがある。

 だからかこんなにもドストレートなのか。

 渚の場合私が嫌がることをわかっていながら言ってくるけど智里の場合は天然だから余計にたちが悪い。


「話を戻しますけど……私にとって自分を肯定するものが智里先輩なんですよ」


「余計わからないんだけれど……会ってまもない私がどうしてそんな役になれてるの?」


「私があった瞬間から智里先輩のこと大好きだからですっ」


 ほんとは会う前から大大大好きなんだけどね。


「ほんとに分からないわ……私なんかのどこが良いのよ」


「私から見た先輩はとっても魅力的な人ですよ」


「……それはあなたの目がおかしいのよ」


「うわぁ、ひどいなぁ」


 本気なのに。


「先輩はもう少し自分の魅力に気付いたほうが良いですよ。私がここまで惚れ込む相手なんていないんですからね」


「なんなのその自信は……」


 呆れたようにため息をつかれた。


「私が好きになった人で悪い人なんて今までの人生で誰もいませんでしたから」


「まぁ……渚さんはとっても良い子だけど」


「いつの間に下の名前を呼び合うような仲になったんですか?浮気ですか?ダメですよ?私というものがありながら浮気なんて」


「浮気って何よ……やっぱりあなたってそっち系なの?」


「んー……どうでしょう?」


 肩をすくめる。

 私自身、自分が()()()()なのかどうかは全然わかっていない。

 智里のことは大好きだけど私が抱いているのは推しに向ける羨望みたいなものだし、実際に月城智里を目の前で見た今でもその気持ちは変わらない。


 正直、私がそっち系なのかどうとかは分からないままで良いと思っている。


 考える必要なんてない。

 私は智里が好きで智里の幸せを願っている。

 それだけだ。

 智里に対していらぬ感情が増したとしてもそれは変わらないはずだ。


「あなたのことがますますわからなくなったわ……」


「えへへ、私は智里先輩のことがますます好きになりましたよ」


 私を知ろうとしてくれていることが何より嬉しい。

 智里はどうして私が自分って肯定できるものを欲しているのか聞いてこない。

 そこまで興味を持ってくれなかったみたいだ。

 少し寂しくもあるが、心の奥底ですごくホッとしている自分がいる。


 私は自分って肯定できるものが一つでも多く欲しい。


 転生とか、愛読してた小説の中のキャラに生まれ変わるとか非科学的なことが起こってるんだよ?

 いつ私っていう人格が無くなってもおかしくない。

 私はそれが何より怖い。

 今まで積み上げてきたものが一瞬でなくなってしまう。

 それほど恐ろしいことはない。


 智里に固執しているのは前世の私が大好きだったから。

 出会ってからはもっと好きになっている。

 私はその()()を大事にしたい。

 私を繋ぎ止めてくれていた智里には幸せになって欲しい。


 秋人と智里が幸せそうに手を繋いでデートしているのを想像した。

 私はそれを覗き見して今までの苦労を思い涙しながら尊いカップルを見守っている。

 そんな未来がくれば私は万々歳だ。


「智里先輩はちゃんと幸せになってくださいよ~。なんなら私が幸せにしますけど、どうします?」


「どうもしないわよ」


「あはは、ひどーい」


 いつも通り。


 智里が私のバカな発言に呆れたり、めんどくさがったりとしている。


 いつも通りのはずなのに―――



「ひどいなぁ」


 少し、ほんの少しだけ居心地が悪い。


 笑顔がひきつる。


 心の底から智里の幸せを願っているはずなのに秋人の隣に立つ智里を想像したとき素直に喜べていない自分がいる。


 それが堪らなく嫌で、いたたまれなかった。

同性とか異性とか関係なく恋をした瞬間なんてわからないものだと思うんですよ。純の場合は智里の幸せを願うあまり自分のことについて無頓着になりすぎているところがあります。

それを改善していければ進展する……かも……!

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