11 ランチタイム前編
私がいつも一緒にお昼を食べているのは何をかくそう幼なじみの渚である。
朝のホームルームが終わった後。私はさっそく渚に事情を話して了承を得ようとした。
「うん、いいよ」
すんなりとオッケーが出た。
もしここで渚が嫌がろうものなら土下座してでも受け入れてもらおうと考えていた私は呆気にとられる。
「え、いいの? 渚多人数ででわちゃわちゃするの苦手じゃなかったっけ?」
「苦手だけど合わせることくらいはできるし、何より興味あるから」
「興味?」
「そ。純が熱をあげてる先輩もいるんでしょ?私その人のことあんまり知らないし、話してみたいって思ってたの」
初耳だ。
渚がそんなことを考えていたなんて思いもよらなかった。
「先輩の話なら私がしてあげてるのに……」
「純のは当てならないでしょ。先輩のあそこがすごい、あそこが可愛いって言うだけで全然参考にならないし」
「だって本当にすごいんだよ!?先輩はね、可愛くて美人でちょっと煽っただけで顔を真っ赤にして怒ってるの!可愛くない!?」
「いやいや、最後のはおかしいでしょ……。何で怒らせてるの?」
「怒った顔も可愛いから!」
「……はぁ」
ため息つかれた。
あれ?
反応おかしくないですか?
どうしてそんな残念なものを見るような目で私を見てくるの?
「なんで私こんなのと友達なんだろう……」
「ひどいっ!」
「おーい、お前ら。もうチャイム鳴ってるぞ~。黒瀬は早く席に着けー」
渚の辛辣な言動に心を痛めながら先生の引きつった笑顔がこわかったので私は大人しく席についた。
くすくすと忍び笑いが聞こえてくる。
そのせいで顔に熱が帯びてきてしまった。
渚はそんな私を見て口の端をつりあげている。
こいつぅ……っ!
自分だって注意されてるのに私だけが悪いみたいじゃないか。
いつもなら恨みごとでも一つ言っているところだけど、今日は特別な日なので我慢する。
「(ラインを交換して、あわよくば休日に遊べるような仲に……!)」
やはり私の頭のなかを支配しているのは智里だけだったのであった。
◇
昼休み、私と渚はお弁当を持って学食に向かった。
ラインでオッケーが貰えたことを実咲に伝えるとすぐに返信が送られてきて学食で食べることになったからだ。
「あ、実咲先輩!」
学食に入るとすぐに実咲を見つけた。あまり目立たない、端っこの席に智里と一緒に座っている。
どうやら実咲は学食で智里はお弁当らしい。
小走りになって二人のもとに駆け寄る。
「遅くなってすみませんっ」
「全然。その子が友達の……?」
「はい!」
「浅井渚です」
「浅井さんかぁ。私は桐山実咲。よろしくねっ。でこっちが」
「月城智里よ。よろしくね、浅井さん」
実咲はニコニコと智里は穏やかに微笑を浮かべている。
智里は私の時とは対応がえらい違う。
私が最初に会ったときは蔑むような目で私を見ていたのに……。
それは十割がた私のせいなのだけど。
「智里先輩、智里先輩!」
「……なに?」
先程までの微笑を消し、私に向けるいつものめんどくさそうな顔をしている。
うん、ちょっと傷ついたけど智里はやっぱりこうでなくっちゃね。
「ライン、交換しませんか?」
私はさっそく用件を口にした。
その一言に智里は顔をしかめるのがわかった。
「いやね、私気づいちゃったんですよ。これまで私の扱いが何となく雑かったのは繋がりが少なかったからだって!」
「意外だわ……自分の扱いが雑なことに気づいてたのね」
こんな辛辣な言葉にも私は折れない。
何故ならこれは照れ屋な智里なりの愛情表現だと信じているから……!
「さぁ、智里先輩!ラインを交換しましょう!そしていずれはライン友達から休日に遊ぶ友達に変化して最後にはもっと深い関係にっ!」
「ひぃ!!だからなんで最後に余計なことばかりいうのよ!」
「ごめんなさい!わざとです!」
「あっさり認められた……!?」
「おーい、二人ともっ。私たちのこと忘れないでね?」
実咲が苦笑を浮かべていた。
渚は呆れたようにため息をついている。
これは少しはしゃぎすぎてしまったようだ。
「あ、わ、忘れるなんてそんな………っ!」
あわあわして慌てている智里。
目を回している智里を尻目に私は普通に謝った。
「すみません、智里先輩とお昼が食べられると思うと舞い上がっちゃって……」
「舞い上がりすぎでしょ。ちょっとは周りの人の目も考えて」
渚の一言が心にグサッと刺さる。
「えー、私と食べるのは嬉しくないの?」
「もちろん実咲先輩と食べられるのも嬉しいですよ!嬉しいんですけど、やっぱり優先順位ってものがあるので……」
「あははは、素直だねぇ!」
実咲は目尻に涙をためて大笑いしている。
その顔を見て少し肩の力が抜けた。
実は昨日のことを少し引きずっていたのだ。私が色々変えちゃったせいで実咲があともう少しで危険な目に遭ってしまうところだったから。
実咲も引きずってないか心配だったけど、この分なら大丈夫だろう。
「あー、笑った!こんなに笑ったの久しぶりかも。黒瀬さん面白すぎでしょ」
実咲はくつくつと笑う。
「九条も来ればよかったのになぁ」
「え、秋人先輩も呼んでたんですか?」
「うん。断られちゃったけどね」
実咲は眉を下げて残念そうにしている。
そりゃ断るでしょ。女子四人の中に男は秋人だけって惨すぎる仕打ちだ。
実咲と智里はもちろんのこと私や渚もある程度整った顔立ちをしている。そんな女子四人対男一人なんて周りの視線が痛いものだろう。
私は秋人に同情した。
「ねぇ、そろそろ食べ始めないと昼休み終わるよ?」
「あ、そうだった。さすが渚。細かいことによく気づくねぇ」
「純が気付かなすぎなだけ」
そうともいう。
「じゃあ、ちゃっちゃとお昼食べちゃおっか」
実咲の言葉と共にみんなお弁当を広げ出した。
楽しいランチタイムの始まりである。
「(智里との初めてランチ~♪)」
「(やっぱりやめとけば良かったかしら……)」
ありゃりゃ……(^^;