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第一話 日常への帰還

「以上で報告は終わりです」


「ふむ、了解したよ……朝日くんたちは残念だった」


 と、言ってくる白衣を着た女性は、氷桐亜紗音ひょうどうあさね

 時雨がやっとの思いで帰還した研究所――人類の生息圏にして、狐娘への反撃のための基地の一つ。その実質的なリーダーである。


 そんな亜紗音は引き続き時雨へと言ってくる。


「だが、キミたちの犠牲は決して無駄にはならない。これさえ手に入れば、この私が確実に現状を打開してみせよう」


「疑う訳じゃありませんが……その、本当にそれがあれば――」


「あぁ、出来るとも」


 と、亜紗音は再びケースに視線を落としている。

 そのケースの中身こそが、時雨達が多くの犠牲を払った後に持ち帰ったものなのだ。


 寄生体K。

 人に寄生し、人を狐娘へと変化させる異世界からの侵略者だ。


「寄生体Kはすぐに人体に入り込んでしまう上、入り込んだ後は寄生の時しか出てこない。しかも、隠れている場所は危険な狐娘の中……おまけにその場で腹を捌くまで、中にKが居るかどうかもわからないと来た」


 と、再び喋り出す亜紗音。

 彼女はケースを机の上に置いたのち、時雨へと言ってくる。


「この研究所もそうだが、世界各地にある他のシェルターや基地でも、寄生体Kのサンプルを手に入れた報告は聞いていない。解剖の報告を受けているのは狐娘のみ……本当にキミ達が得た成果は大きいよ、ありがとう」


「いえ……」


「ここから先は私に任せて、キミは――」


「亜紗音さん」


 と、時雨はどうしても感情が抑えきれなくなり、亜紗音へと言う。


「頼みますよ。本当に……このサンプルさえあればKを殺す薬を、狐娘から人間に戻す薬を……人類の未来が作れるかもしれない! だから俺は、俺達は!」


「わかってる。わかっているとも。絶対に作って見せるさ……この私が、氷桐亜紗音の名に賭けて。とまぁ、だからキミはとりあえず休みたまえ」


「俺もここで――」


「ここから先は私の戦いだ。キミの戦いはもう終わっている。帰ってからろくに休んでもいないのだろう? 鏡で自分の顔を見たか? まるで死人のようだ……休みたまえ」


「でも」


「それに、キミがここにいて出来ることはない。熱意は認めるが、私の集中力を削ぐのがせいぜいだよ……理解したら早々に部屋で眠るといい」


 たしかに、亜紗音の言い分はただしい。

 時雨としては自分達の犠牲の成果。それが実る瞬間を是非ともみたかったのだが、それで亜紗音の邪魔をしていたら元も子もない。


 時雨は最終的にそう考え、亜紗音の言葉に従う事に決める。


「わかりました……あとは、あとは頼みます」


 言って、時雨は研究所内にある自らの部屋へ向け歩を進めるのだった。


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