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普遍魔法  作者: NS
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Essai sur la theorie generale de la magie

 我々がいまだ普遍(ウニウェルサリス)という夢を見ていたころ。

 数学を範とする普遍学が提唱され、一般文法が姿を現し、分類学がその最盛期を迎えんとしていたころ。

 類似の支配が終わりを告げ、表象の世紀が幕を開けたころ。

 魔術もまた、そうした夢の仲間入りを試みていた。

 科学史において――いまやおいて「のみ」――「普遍魔法」と呼ばれる試みがそれだ。

 当時知られていた三つの魔術、すなわち音声に基づく呪文学、形象を媒体とする紋章学、比によって具現化する錬金術、これらを統一的に理解し、いわば個々の魔術ではなく「魔術それ自体」にたどり着こうとする夢。

 「魔術史」曰く――「最初の呪術は自己であり、最初の魔術はその身体である」。

 実に、それ以前には自己は不可能であった。霊魂は未だ己を見出すこと能わなかった。

 まことに、それより先に身体は不在であった。そこにあったのは散逸せる広がりにすぎなかった。

 世界は魔術と共に開闢し、不可能を可能にする力によって現前する。

 では、最後の魔術は何であろうか。

 だれもそれを知らないし、それが何を新たに可能にするかなど、全く見当もついていなかった。

 ただ、「普遍魔法」という名前とその理論だけが、未だ姿を見せぬ新たな秩序を約束しているかのように思われていたのだ。

 夢は全て虚しい。

 それは意志に導かれた幻想ですらない。悪魔じみた神々の見せた錯覚でもない。夢はただ、我々の無意識をくみ取り、それを理性とは別の様式で組み立て挙げ、それを必要も無いにも関わらず我々に示すだけのものである。

 しかし/それゆえに、あらゆる夢には固有の価値が存する。それが無意味であるがゆえに、空虚であるがゆえに、その内実の本質的不在のゆえに、その存在それ自体が、ある人間的なものの存在証明となるのである。

 たとえそれが、やがては死と忘却との特権たるあの逆らい難い力によって、全き虚無に投げ込まれることになろうとも。


 この物語は、その夢の話――ではない。それに先立つ、いわば予備的な作業の話に過ぎない。

 つまり、あの頃の我々はなぜ、いかにして、そのようなまどろみに陥ったのか、ということを、今私は語ろうとしている。

 言い換えれば、我々が一般に普遍を欲するのは、そこに個物が存しているからであるのだが(自明なことだ)、まことに、魔術の体系がそれであることが強く意識されたのは、まさにこの時代なのである。

 「普遍魔法」という着想と、魔術がその最後のきらめきを喪失していったあの過程とは、無関係ではありえない。

 かつて魔術は、世界およびその始原と分かちがたく結びついていた。魔法とはすなわち隠された自然、可視的、可触的、可聴的なものの背後に存する別の仕方の秩序に他ならず、魔術は技術と全く対比されるべき、原初の技だったのである。

 そのきらめきこそによってこそ、ペルシアの大王は、エジプトのファラオは、そしてローマの皇帝たちはその権力の無制限性を自己の肉体にも付与せんと試みたのであり、弱く貧しき者たちは自らの不幸に抗うため不毛な迷信にすがりつき、愚かな賢者たちはその整然たる狂気によって、混沌たる秩序に挑みかかったのである。

 しかしこの世紀に――「科学」を特徴づけるあの安っぽい小刀が、かつては無限の広がりと繋がりを有していたはずの世界を切り刻み、極小の不可分存在のみを後に残して、魔術から輝かしい薄布を剥ぎ取ってしまったのだ。「魔術の知」はまさしく、「魔術の科学」になり果てた。やがては「魔術師」という名も消え去るだろう――この時代、「魔術/魔法の研究者」という名称が現れたのは偶然ではない。それは「非合理」な過去と自らを分別するするためにこの世紀の「魔術師」たちがこしらえ挙げた、いたましい努力の成果物なのだ。

 しかし、それは無意味な試みではなかった。

 私が言いたいのは、「魔術革命」が二百年後に魔術の広範な普及を促したとか、自然科学との(再)交流が多くの知見をもたらしたとか、あるいは如何わしい迷信や妄信がきれいさっぱり排除されたとか、そのようなことではない。そうではなくて、引きはがされた神秘の裏側に、それよりはるかに美しく不可思議な奇跡が立ち現れたと私は言いたいのだ。

 魂を解剖しうる刃は、未だ発明されてはいない。

 そしておそらく、それが成就する日にこそ、「普遍魔法」という夢は現実を転覆せしめるであろう。


× × ×


 さて、私はこのような歴史を紐解き、そしてひとひらの物語を書き記しつつある。

 それは現存する資料に大きく依拠するが、しかし歴史ではありえない。

 歴史が現実のただ一つの事実を記述しようとする、力強い知のありようであるのであれば、これから語られるのはむしろ一つの可能性なのだ。

 そのどちらがより愛知的かどうかを問うのはやめておこう。

 この言説が目指すのは、もっとずっと卑俗な愉しみなのだから。


こういう書き出しのなんかが書かれたら読みたいので、だれか書いてください。

内容が発生したら書きます。

追記:発生しました。

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