プロローグ
──そっか、俺、死んだのか。
長いようで短い人生だったなぁ……。いや、平均寿命的にはかなり短いだろうけど。
そういや……同僚のあいつ、大丈夫かなぁ。いつもミスして怒鳴られてたっけ。
皆きついとかなんとかで辞めちゃって同期はあいつだけしかいなくなったんだよなぁ……。
俺とあいつはその波に乗り遅れただけなんだけどね。
何ともまぁ救われない。
あぁ、そして、初めてできた後輩ちゃん。あの子も結構心配だ。あの子は同期が一斉に、それも一人残らず辞めちゃったもんなぁ。よく残ろうと思ったもんだ。
心配って言うのも、あの子、たまにパソコンと睨めっこしながら、ふふふ……って笑ってたんだよね。今にも発狂しそうな雰囲気があった。見てくれは結構美人さんなのに台無しである。
まぁ、最近ようやく仕事を覚えてきたばかりだったもんな。あの量を新人で、ってそりゃ美人が台無しにもなるだろう。
……大丈夫かなぁ? 俺が抜けて本当に大丈夫なのか……?
……でも、こればっかりは仕方ない。あいつらなら何だかんだやっていけるだろう。おそらく、多分、きっと。
あいつらが幸福になる事を切に願う。
……ふっ、ははは、死んでも人の心配するのか、俺は。
我ながら難儀な性格だ。
それはそうと……。
あっさり死ぬもんだな、人って。あ、そういや、前に貴方は後悔しないよう生きていますか? もし、後悔があっても大丈夫。神の教えで悔いのない人生を、的な宗教勧誘があったっけ。丁重にお断りさせて頂いたのだが。
うーん、悔いのない人生、かぁ……。
…………ひがな毎日仕事に次ぐ仕事。たまの休みもずっと寝るだけ。彼女なんて以ての外。終いにゃこうして死んでしまった。
……あーあ、もっと遊んどきゃよかったなぁ。もっと贅沢してりゃよかったなぁ。もっと色んなこと、したかったなぁ。
…………もっと───生きたかったなぁ……!
はは……後の祭り、ってか。悔いありまくりだくそやろう。彼女欲しかったわ!!
あ、いや、でもあの宗教には入らなくて良かったと心から思っている。本当に。宗教の概念は人それぞれだと思うんだ。うん。みんな違ってみんないい。
……まぁでも、考えてみりゃ悪いことばかりじゃないかもな。
……何故なら。
やっと、だ。やっと、俺はあそこから解放され────。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「パンパカパーン! おめでとう! 貴方は宝くじに当たる確率よりも遥かに低い確率の中から選ばれました!!
さぁ、貴方にもう一度勇気と希望と、愛……じゃなくて命を与えようじゃないか!」
「……はぇ?」
ふわふわした意識が霧散して無くなったと思ったその瞬間、いきなり大きな音と声が辺りに響く。
急な大きい音に思わず声を漏らし顔を顰めつつ、何が起こったのか分からず辺りを見渡す。
辺りには見渡す限り地平線で文字通り何も無く、俺は白っぽくて固い地面にポツンと一人、尻をついていた。服装は何故かスーツ姿だ。
あれ……俺は死んだはずじゃ……?
「ふっふっふっ! 貴方はとても運がいい。なにせ二度目の人生を記憶をそのままに生きることができるのだから!」
ふと、先程聞いた大きい声がする。そこを見やると、目の前で薄い胸を張り、真っ白な髪をなびかせ、やたら神々しい雰囲気を醸し出した幼女が居た。着物のような衣装を身に纏っており、赤と白の色合いが大分印象的だ。
さっきの急な大音量で響いた声の主はどうやらこの幼女のようだ。
なんなんだ一体。
「できるのだから……!」
「……えっと。とりあえず、ここは? 俺は死んだはずじゃ?」
サラリーマンの基本は、まず情報だ。知らなければ何も出来はしない。よってこれは当然の疑問だろう。まぁ実の所は、さっき、死んだと思ったらいきなりの大声量からの知らない場所に座っていた。
そしたら、宝くじがどうとか二度目の人生がどうとか言われたのだ。
そりゃ聞きたくもなるわ。
何故か二度同じ事を言っていたが構うことなく俺は聞く。
というか、えっ、なんだろう、この子が言ってるのって宝くじに当たったから二度目の人生を歩めます的な……?
むむむ……どういうこと?
「んもぅ、頭が固いんだから! これだからリーマンの方々は。もっと柔軟な思考してなきゃ生きてけないよ? 色んな人によく言われたでしょ? そんな細かい事気にしてちゃ禿げちゃうよ?」
あ、もう遅かったか、と付け加える幼女。
とても理不尽な言われようだ。俺はまだ二十代。十分に思考は柔軟である。そしてそろそろ三十路に近かったが禿げる予兆はなかったはず……多分。
……あ、遅かったって生きてけないよって言ったところか。死んでしまったもんな。そりゃ言うの遅いわ。
っていや、そうじゃなくて。
「いやいや、俺は死んだんじゃないのか?
自分でも死んだなって思ったくらいに潔くて、思ったより清々しい死に様だったはずなんだが……」
その辺の記憶があまりないのだ。だが、死んだ、という感覚だけはあったのだ。
という事はつまり、記憶に残らない程潔く死んだのだろう。
急死ってやつかもしれないな。ほら心筋梗塞的なあれとか。
そんなふうに俺が脳内で完璧な推理をしていると。
「へっ? あんなに粘っておいて潔くって貴方……」
幼女が綺麗な淡い青色をした瞳でじとーっとした視線をこちらに向ける。
「……えっ、何、何のこと? 俺、そんな往生際悪かったの? いや、往生際悪いとか自分で言っててちょっとどうかとは思うけど」
本当に覚えてないんだけど。
……なんだろう、すごく気になる。
「……なぁ、俺、どんな死に方したんだ?」
「まぁ、そーんなことより!
さっきの話よ! 貴方は選ばれたの。厳粛な抽選の結果、貴方は異世界に行く権利が与えられたのです!」
こちらの話は聞かずにビシッとこちらを指差して、幼女がそう告げた。
「なぁ、そんなことよりじゃなくって、俺ってばどんな死に方だったんだよ。気になるじゃねーか」
あんな言われ方したら気になるじゃん……。
……気になるじゃん!
「もぅー! 面倒くさいわね! 貴方は死にました! 以上! それ以上でもそれ以下でもありません! これで満足?」
これで満足? じゃないわ。この幼女、絶対説明するのが面倒なだけだろ。
明らかに面倒くさそうな顔をしている幼女に。
「というか、俺は死んだんだろ? じゃあ、もうそれで終わりでいいじゃん。もう疲れたし。というか厳粛な抽選ってなんだよ。無作為じゃねーか。異論を主張します! そしてそもそも君は誰だよ」
俺は足を伸ばして尻ついた状態を体育座りに直して目の前の幼女に聞く。
「そんな事言わないでよ! ……でもまぁいいわ、教えてあげる。貴方はね、選ばれたの。そう、この私、女神サトリーによってね!」
目の前の幼女は腰に手を当て、再び薄い胸を張ってふんぞり返る。
ははは、何言って。確かにちょっぴり神々しい雰囲気はあるが……女神? この幼女が? なんの冗談だろうか?
新連載です!
ぼちぼち更新です。
あと一つの方をメインにしてますので、あしからず。