Ⅵ 視えない者
「あらら?また出たり消えたり自由っすねぇ、あの人は。まるで、お兄さんのお友達みたいなぁ?」
小さい穴に消えていった少年(もう「仮少年」にしようby作者)を苦笑しながら見、振り返って気味の悪い笑みを浮かべるマリス。それはどこか悠義を挑発しているようで。
「感じ悪ッ。どうせ白石先輩のこと言ってんだろ、兄貴の友達つったら。こいつ何でも知ってそうだし。ストーカーかよキモッ」
「こらっ、たしかにちょっとアレだけどそんなこと言っちゃダメでしょ。ちょっとアレだけど」
「一番気にしてんの兄貴じゃん」
「ふははっ。冗談っすよぉ。そんな怖い顔しないでぇ」
音もたてずに二人に近づくそれは、まさに不自然の見本である。笑顔が下手なのか、意識してそうしているのか、彼の表情は良い印象を受けない。柑梛の性格もあまり良い印象は受けないが。ちなみに悠義はしゃべらなければ好かれるタイプと友達の弟に言われたらしい。
お互いの存在が自分を制したのか、結月兄妹は落ち着いてきた。それを見て、コホンと咳払いをしてマリスは言った。
「まあついて来るっす。お二人さんは【問題】を見つけるところから始めないといけないからねぇ」
「どうする?兄貴」
「あんまり気は進まないけど、断っても行くとこがないし…」
「じゃあ、決まりだねぇ」
そう言うと彼は羽織っていたパーカーらしきものを脱ぎ、腰巻きをした。藍色に淡く光るミニコンコルドで水浅葱色の髪を挟む。不覚にもその姿に見惚れてしまった。
「ん?何っすか?」
声も少しはっきりしている。彼なりのスイッチの入れ方なのだろう。
「いやなんかさ、急に雰囲気変わったじゃん。ルーティン的なアレ?」
「そんな感じっすね」
(うーん、スイッチオンだったらいい人なのかもな~。ネーゼちゃんのこと聞きたいし、仲良くしたいな)
「じゃあ、よろしくお願いします。えっと」
「マリスっす」
「マリスさん。ほら、柑梛も」
「んー。まあ兄貴が言うなら。よろしくな、マリス」
握手をして、部屋を後にした。
外に出ると、もう夕焼けの空は消えていた。悠義がここまでで一番気になったことを聞くには絶好のタイミングだ。「そういえば…」と思い出したように言葉を始めて、歩きながら続けた。
「ここの時間が流れてるときって、僕たちの世界ではどうなってるの?」
すると、マリスが驚いたような呆れるような顔をして、
「あの人はそんなことも教えてないんすか。厳密にいうと、お兄さん達…悠義くん達が来たところとここは二つの世界で別れているのではなく、繋がってるっす。だから時間は普通に流れているっす」
「えっ、それだと行方不明になるんじゃねぇの?!」
「あーっと、怖い話かもしれないけど、ここにいるときは周りの人達は二人の存在を忘れるっす。帰ってきたとき、ここにいた分の記憶がぽっかり抜け落ちるんす」
「うんさらっと怖いこと言ったね」
青ざめる兄を見て、柑梛は思案する。
(みーちゃん…)
両親より親友の心配をしているところも、好かれないところなのだろうか。
マリスは正直者。故に嘘つきである。
おはこんばんっちゃ。沙紀です。
多分ですが、この後から更新していく物は長くなってしまうと思います。すいません。