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Imaginary-October 10th-

作者: ホワーム

私の前に巨大な魔物がいる。

周りの人々が、一目散に逃げていく。

「グラマー」

私の手に、剣が出てくる。

その剣は薄い水色をしている。

そして、光が反射し、きらきらと輝いている。

私は剣を持っていない方の手を魔物に向けた。

「グラマー!怪物を水で包みなさい!」

すると、呪文によってゼリー状になった水が一気に広がって、魔物を包み込んだ。

「フローズン!」

さっきの水が固まった。

これで、身動きが取れなくなる。

私は息を整えて、魔物に向かって走り出した。

そして、ジャンプする。

普通の人では絶対に無理な高さまで飛び上がった。

私は魔物に向かって一気に剣を振りかぶった___


私には妄想癖がある。

小さい頃から、ずっとそうだ。

それが、いつの間にか当たり前になっていた。

そういえば、最近これと同じような夢を毎日のように見る。

なぜだろう?



私はテレビをつけて愕然としていた。

「10月10日火曜日。8時のニュースをお伝えします。」

“え、8時?うそでしょ。”

学校が始まる時間は8時半。家から学校まで、最低でも1時間はかかる。

“このままでは遅刻だ。どうしよう。”

「グラマー」気付くと、私はそう呟いていた。すると…

「10月10日火曜日。7時のニュースをお伝えします。」

“私の聞き間違いだろうか。”

すぐに部屋の時計を見ると、7時ちょうどを指していた。

“あれ、時間が戻っている?”

不思議に思ったが、私はそのまま支度して、すぐに家を出た。


“なぜだろう。今日は信号によく引っかかる。”

駅までの道のりで、私はそう考えながら自転車で走っていた。

すると、だんだん雲行きが怪しくなってきた。

そして突然、バケツをひっくり返したような大雨が降ってきた。

“なんでいきなりこんな!”

“電車の時間がぎりぎりなうえに、こんなに雨が降ってくるなんて…。”

“グラマー”なんとなく、心の中でそう思った。すると…

いきなり雨が止んだ。それどころか、自分の服や周りの道路に、水滴が一粒も残っていない。

まるで、雨なんて最初から降っていなかったみたいだ。

唖然としていると、スマホが鳴った。開くと、なぜか電車が遅延している。

私は急いで自転車を走らせた。

駅に着くと、タイミングよく電車がホームに入ってきた。

“今日は運がいいな。”そう思いながら、私は電車に乗った。


“やっぱり、朝からなんかおかしい。”

昼休み、昼食をとりながら私はそう考えていた。


・遅刻決定の時間から、気付いたらいつも出る時間まで戻っている。

・バケツをひっくり返したような大雨が降ったはずなのに、雨粒ひとつも残っていない。

・電車がいきなり遅延して、しかもタイミングよくホームに入ってくる。


“これは、ただ運がいいってだけ?”

“いや、そんなことない。”

“電車の件は、偶然だったかもしれない。だけど、そのほかの出来事は説明がつかない。”

“だって、私の聞き間違いだったかもしれないけど、時間が戻っているなんてありえないし、なにより、雨が降ってきたはずなのにどこも濡れていないなんて、まるで魔法みたいじゃないか。”

“そういえば、これら3つの出来事が起こる直前に、すべて「グラマー」って言葉を言ったり、思ったりしていたではないか。”

“つまり、これらはただ運がいいのではなく、自分が魔法を使っていて、思い通りに事が進んでいるだけではないか?”

“いや、まさかね…。”


そんなことを考えていたら、私の幼馴染である花恋から話しかけられた。

「一花、次体育だよ。着替えないの?授業に遅れちゃうから、先に行ってるね。」

“あ、そうだ。早く着替えなきゃ。”

私は体操着に着替えようとした。

しかし、私は着ていたのは、さっきまで着ていたはずの制服ではなく、体操着だった。

私はただ見間違いをしているのかと思った。

“でも、さっき花恋から着替えないのかって言われたばかりではないか。”

“じゃあ、やっぱり私は魔法を使っているんだ。”

私はそう思った。


私には、4月から気になっている人がいる。

誰にでも優しく接してくれて、クラスではいつもみんなを笑わせてくれるムードメーカーのような存在の人だ。

放課後、突然その人に話しかけられた。

しかも、「この後どこかで話せないか」と言われたのだ。

私は驚いた。そして、近くの公園で話すことになった。

「俺、お前のことが好きなんだ。」

私は固まった。しばらくして、自分の気持ちを話そうとした。

しかし、私は言うことができなかった。

なぜなら、その次に彼がこう言ったから

「お前も俺のことが好きなんだろ?

だって、今日ずっと、“好きだ”ってお前の声が聞こえていたから。」

“え?”私はひどく動揺した。

そして、彼は小さな箱を取り出した。

そこには、指輪が入っていた。

「俺と付き合ってください。」

「はい。」

私はそう言って、左手の小指に指輪をはめた。サイズもぴったりだ。

彼は顔が真っ赤になっている。たぶん、私も同じなんだろうな。

それから、私と彼はたくさん話をした。

自分の家族のこと、趣味のこと、そして、今日の朝からの出来事…

彼は最後まで私の話を聞いてくれた。


だんだん暗くなってきた。

そろそろ帰らなければいけない。

“家に帰りたくないなー。”私はふとそう思った。

明日、学校へ一緒に行く約束をして、駅で彼と別れた。


家の最寄駅から、いつものように自転車を走らせる。

すると、なぜか胸騒ぎがした。

家に近づくにつれて、サイレンの音が大きくなる。

最後の曲がり角を曲がった時、私は目を疑った。

家の前にたくさんの消防車が止まっていて、道にはたくさんの消火器とホースが散らばっていた。

そして、近くにはたくさんの野次馬がいる。

私はすぐに自転車を乗り捨て、野次馬の中に飛び込んだ。

やっとの思いで野次馬の先頭に出ると、そこには姿形がなくなった家と、顔や服がすすだらけになっている家族がいた。

私は、ショックで何も言葉が出なかった。

そして、思い出した。

彼と別れるときに、“家に帰りたくないなー”って思ったことを。

“そうか、私の魔法は使うたびに、力がどんどんエスカレートしていっていたんだ。”

“でも、私はそれに気付かなかった。”

“だから、この火事が起こったのは私のせいだ。”

「ごめんなさい」

そう呟くと、いきなり全身の力が抜けて、私は気を失ってしまった。



目を覚ますと、私はいつもの寝室のベットの上にいた。

「10月10日火曜日。7時のニュースをお伝えします。」

いつもの何気ない朝が始まった、はずだった。


私の目にあるものが留まる。

それは、あの時に渡されたものと同じ、左手小指の指輪だった。

こうして、自分にとって2回目の10月10日が始まった。



あれは夢だったのか、現実だったのか、今でも分からない。


何日か前の授業で学んだ、ある単語が頭に浮かんだ。

【Imaginary】

架空の 想像上のという意味を持つ英単語だ。

なぜだろう?

あの日からずっと、その単語が頭の中を支配しているのだ…

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