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闇医者探偵  作者: 桜田櫻華
ファイルNo.1《フォアグラ》
8/12

08

 さて、この話をしてしまえばほとんどの人がこの事件の結末を予期する事になるだろうが、あえて話させてもらおう。


 今まで生きてきた中で、『貧血なら鉄分の多い物を食べなさい』と言われた事、言ったこと、もしくはそうなった時の対処法として知っていたと言う人は決して少なくは無いだろう。

 鉄分豊富な食べ物と言えばプルーンやパセリ、そしてなんと言っても欠かせないのがこれ、レバー(・・・)である。

 好き嫌いの好みが激しく別れるそれの使用されている部位はフォアグラと同じ、肝臓。

 そして、被害者達の欠落部位も…………肝臓。


「つまり、この事件はフォアグラ(・・・・・)ではなくてレバー(・・・)だったということですね」

「……保真、知っていたのか」


 疑問符は付けない。

 アレがどれだけ否定しても、これは疑問ではなく確信だと思っている。

 袴には彌生さんを任せ、僕達は彼が出掛けるのをじっと待っている。僕が持ち帰った薬の替えを買いに出掛ける、屏風浦びょうぶうら 那由多なゆたを。


「大体、なんで昨日の今日で那由多さんが薬を買いに行くって分かるんだよ」

「沢山あったはずの薬が二袋も無くなっていたら、流石の那由多さんも焦ると思いますよ」


 いつの間に取ってきたのか、僕の持つ物と全く同じ紙袋を顔の前に掲げる。


「おまっ!いつの間に持ってきたんだ?!場合によっては窃盗でしょっぴくぞ!!」

「まぁまぁ、怒らないで下さい。これを取ってきたのは他の誰でもない袴さんなんですよ」


 ニタニタと笑いながら、袴の名前を出す保真。

 袴が?あの僕以上にアレを嫌っている袴が、取ってきたって言うのか?


「混乱しているようですね。いや、簡単なことですよ。タネを明かしてしまうと、私が資料を後ろに放り投げた事があったでしょう?その時に、資料の紛れさせて、貴方の名前を使って、彼女に頼んだのですよ」

「あの時?!」

「はい。どうやって取ってきたのかは知りませんけど、夜中に彼女の携帯へとメールを入れて、今のようにタネを明かし、持ってくるように言ったんです。電話越しに、烈火のごとく怒っていました」


 ここでようやく、屏風浦びょうぶうら家に訪れた時、袴がいきなりアレに掴みかかった理由が解った。自分を騙して薬を取りに行かせた保真への、そして簡単に騙された自分に対する怒りでの行動。そして、取ってきた薬を自然に渡す為のカモフラージュ。ただ単に、保真への嫌悪感に任せた行動ではなかった。

 その後、体調が悪いといったのは、ある意味では本当だったのかもしれない。僕の隣にいることがいたたまれなかったのだろう。アレの様に、素知らぬ振りをして仕事をすることが出来なかったのだろう。

 保真の中でははおそらく、袴に取りに行かせた物が自分にとっての本命で、後から取ってきた物は僕が回収することを予測した予備なのだろう。


「ほらほら、出てきましたよ。那由多さん」


 自分の中の情報整理を1度中断し、アレに促されるまま顔を上げる。そこには、玄関に立つ彌生さんに笑顔で手を振る那由多さん。

 彼が家から見えなくなる距離に行ったら、アレと二人で突撃する。それまでは、気がつかれないように尾行して行く


 ………………………つもりだった。


「こんにちは、那由多さん。いやいや、偶然ですね。こんなところでお会いするだなんて」

「あ……、この間の…………探偵さんでしたよね?それに、刑事さん……あ、さんでしたよね。こんにちは。実はこれから、」

「これから彌生さんのお薬をもらいに行くのですよね?私と譲君もご一緒してもいいですか?あ、ダメならどこかで少しお話するだけでいいんです」


 この二つしか選択を与えないような口振り。

 これでは何のためにこそこそと此処まで来たのかが解らないじゃないか。

 一方那由多さんのほうは、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて二つ返事で答えてきた。どうやら近くの喫茶店で話をするとのこと。

 那由多さんを中心に、三角形になるような形で歩く。


「もしアレでしたら、自宅でも良かったですよ?」

「いや、彌生さんの体調もあるでしょう?だったらお外で話しましょうよ」


 もしも、このまま事が運んでしまった場合、彼の自宅で話をするのは非常に危険だと判断。勿論、彌生さんの体調のことも本当だ。

 暫く歩いて着いたのは、落ち着いた感じとはまた違う雰囲気の店。どちらかと言えば暗い雰囲気の所だった。


「ふうん……此処をわざわざ選んだのですか……」

「え?」

「いえ何も?さっ、早く入ってお話しましょう」


 何やら意味深な事をボソリと呟いた保真。本当に一瞬の事だったが、その表情は完全に無になっていたように見えた。どこか、冷たい奥底から出てくるような得体の知れない化け物を見たような錯覚。

 本当にこれは探偵なのか?

 いや、ただの(・・・)探偵なのか?


「譲君、ゆーずーるっくーん。貴方は何を飲みますか?コーヒーでいいですか?」

「あ……あぁ、じゃあ……エスプレッソで」

「わかりました。あ、後本当に申し訳無いのですが、私の話が完全に終わるまで譲君はみていて下さい。貴方をここに呼んだのは、あくまで彼が逃げた時の保険ですから」


 案内された席に座ってもなお、アレへの違和感・恐怖感は拭えない。

 『イエス』しか返答を受け付けない言い方は、完全に僕を特殊警察から、ただの伊能いのう ゆずるにしてしまった。


「さぁ、那由多さん?お話を始めましょうか?」

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