05
孤児院ー能力院は、多くの孤児を受け入れている。その内の殆どが産まれて間もない、能力登録のされたばかりの子供だ。もとは屏風院と言われていたが、この事からいつからか能力院と解明されている。
孤児の人数は120人弱、それに対し職員は30人。
月に5人から多いときには20人程、引き受けを申し出る人がいるそうだ。
屏風浦家を出てから、那由多さんの勤める孤児院について洗いざらい調べた。裏で賄賂や何かしらの取引をしていないか、子供を使って何か法外な事をしていないか。あり得る可能性について徹底的に調べた結果……
「何も問題無し……ね……」
何故か本部にいるアレには触れることなく、袴の持ってきた資料に目を落とす。
僕達専用の仕事場にはアレを含めた僕達3人以外にもう2人……。
「あぁぁ……。先輩、別の部署から遠路遥々ここまでお手伝いに来たんですから、もっと褒めやがれ。どんだけ資料の整理・解析させるんだよ。マジで人使いあらすぎんだろ」
「よしよし、よくがんばったね。相方」
紙の海と化したデスクに顔面から突っ伏している青年、日比谷 焼打。
両腕を後ろで拘束するようにベルトで縛られたゴスロリ少女、狂菜。
あまり多くの人材を使うのは、好きではないが(話的にも後に書くことになるだろう始末書的にもよろしくないと思う)致し方ない。使えるものは例え親でも使えと言う言葉が有るので、僕の手足以上に動かすのは別に悪いことではないだろう。むしろ、後輩なら動くべきだ。それこそ、馬車馬の様に。
少女狂菜はどういう理由か知らないが両腕が拘束されているので、スカートから覗く細く白い足を高く上げて机に突っ伏す焼打の頭を踏みつける。足を左右に揺らしている事から、恐らく頭を撫でているのだと解るが視覚的によろしくない。彼女はたとえ室内と言えども、常に裸足で過ごしている。勿論、靴下さえはいていない。寒々しさよりもスカートの中身が見えそうになっている事が気になる。
狂菜自身については、焼打とほんの一部の人間しか知らない。無論、この僕もだ。1度先輩命令と託つけて聞き出そうとしたら、上から脅すような忠告を受けた。
「はいはい、褒めるよ。褒め称えるよ。よく頑張ってくれたね。ありがとう」
「…………へへ……」
どうやら適当に言ったはずのお礼が嬉しかったらしい。頬が若干ピンクだ。誰得だよ。
「お疲れ様です、後輩さんたち。もうご自分の部署に戻って頂いても構いませんわ」
「袴ちゃんが入れてくれた美味しい珈琲飲んだら帰るよ」
「相方がそう言うなら、狂菜はここにいるよ」
「帰れ」
デレデレと袴に鼻の下を伸ばす後輩の脳天に垂直に掌を叩き込む。すれすれのところで狂菜は足を退けたので彼女に被害は無かったが、なにせ勢いよく動かしたものだからその振動で鼻を机に摩り、僕の鉄拳によりまたそこを強く打った。
「いっつーーっ!!なにすんすか!」
「よかったね、相方。伸びた鼻の下が戻ったよ。先輩と狂菜に感謝して」
どうやら彼女も確信犯だったらしい。足の指を器用に使い焼打の髪を掴むと暴力的に椅子から引きずり下ろす。そのまま片足で進み、僕と袴に小さく一礼すると、部屋から出ていった。
これは後日談だが、床との摩擦によって焼打はかなりの火傷を負ったらしい。……まぁ、理由はそれだけでは無いと思う。
後輩たちの手によってまとめられた資料は、いつの間にかアレによってまた散らかされている。ご丁寧に赤丸まで打たれたその紙。一枚一枚、余すところ無く目を通し、後ろへと放り投げる。投げられたそれらはなにせ薄っぺらい紙だから、パラパラと広がり落ちる。
その行動に苛つきながらも、キチンと広い集める袴はやはり僕には勿体無いくらい有能な人材だ。
まだ手の中には多くの資料が有るにも関わらず、アレは満面の笑みを浮かべ、全てを放り投げる。
アレの後ろには今まで投げられた資料たちの他に、袴がいる。知ってか知らずか、そのまま投げてしまった紙たちはくす玉の花吹雪の如く袴に降りかかった。もっとも、くす玉のそれとは違って落ちてくるのはA4サイズの紙なのでぶつかると結構痛い。内、何枚かは角で当たったらしく顔には幾つかの擦り傷が出来ている。
紙で肉を切ると痛いんだよなぁ……。
そんな事をされた彼女は怒りに任せて物凄いスピードで全てを広い集め、力任せに机に叩きつけ、部屋から出ていってしまった。
「んっんー!」
「なに呑気に背伸びしてるんだよ。いいから袴に謝ってこい」
「はい?私、袴さんに何かやりましたか?」
「無自覚かよ……」
「それよりも、そんなことよりも聞いてください。また、私、保真の持論です」
袴に対する悪行は、アレにとってはそんなことらしい。
わざわざ目の前から僕の隣に椅子を移動させると、顔を除き混むようにしてニンマリと笑う。もし、アレが女だった場合は赤面物の可愛らしさだが、男だった場合、気持ち悪い事この上ないので無表情を貫く。
さて、アレの持論と言う名の予知を聞こうか……。
×××××
まずこの孤児院についてですが、ここについていくら調べたとしても犯人像は見つかりませんよ。良く言ってフェイク。悪く言えば本当にたまたまです。もし、この孤児院が無かったら別の孤児院が、別の孤児院の子供達が餌食になっていたと思いますよ。
そして、今回の被害予想者である零気ちゃん。
恐らくあの子は殺されませんよ。
何でって……それは勿論、次の被害者はあの子ではなく兄の刹那君だと私は踏んでいるからですよ。あの二人には決定的な違いがあるんです。えぇ、それも2つ。何かわかりますか?
……正解です。と言っても、やはり1つしか見つけられませんでしたか。
そうです、1つ目は彼女と彼の健康状態ですよ。
元気溌剌な刹那君と違って、零気ちゃんは1目で解るほど健康状態が悪かった。むしろ、良く産まれてこれたものだと思います。恐らく、帝王切開で産まれたんでしょう。産道を通っていたら危なかったでしょうね。んん?何でそんな個人的な事まで知っているかって?
母親の状態からの推測ですよ。お腹に赤子が居るわけでも無いのに、仕切りに撫でていましたから。お腹に兄の何かあるのかなぁと、お腹を切って産んだのかなぁと思っただけですよ。
で、何で健康状態が問題なのかですよね。
ヒントはもう貴方達が持っているじゃないですか。と言うか、付けたじゃないですか。
そう、フォアグラですよ。
ご存知の通り、フォアグラは鴨の肝臓料理です。今では動物虐待だとか、製造過程が残酷だとか言われて、造っている場所は数少ないです。地面に生きた鴨を頭だけ出した状態で埋めて、餌を大量に、無理矢理ねじ込むそうですよ。
あ、肝心なのは料理の事ではなく部位の方です。肝臓だけに、肝心なんです。
肝臓には、生き物の栄養が多く貯えられているそうですよ。貧血の時とか、レバーを食べなさいと言われませんでしたか?……ま、又それは別物だと思いますが。
犯人が欲しかったのはその栄養たっぷりな肝臓なんですよ。
なので、次は恐らく刹那君が危ないでしょうね……
×××××
自分の帽子を僕の頭にのせて、「バイバイ!」と、いつもは言わないような別れの挨拶をすると、そそくさ部屋から出ていった。
一人になったこの部屋で、袴が拾い集め、順番通りに直してくれた資料を読み直す。いつの間にやったのか、莫大な量あったそれは3部に分けられ、左上をホッチキスで止められていた。
「……おいおいおいおい…………」
どうやら、胸くそ悪い終わりを迎えそうだ。