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闇医者探偵  作者: 桜田櫻華
ファイルNo.1《フォアグラ》
2/12

02

 異能力者と非異能力者、そして僕達、特殊警察について語るには、この世界の歴史から話さなくてはならない。


 その昔は、すべての人間が非異能力だったらしい。人知を越えた力を持たず、異能力者からすると非力に生活をしていた。

 人々は科学や化学を研究し、探求し、極めようとしていた。それが科学者、化学者、研究者。彼らは生活を豊かに、そしてより快適にするために様々な物を生み出してきた。今でも、その恩恵は数多く残っている。

 しかし、決して成功だけではなかった。森を破壊し、海を埋め立て、土を枯れさせることも珍しくなかった……そうだ。


 愚煉ぐれん博士

 デュオール研究員


 研究者は数えきれないほどいたらしいが、異能力者が生まれるきっかけになったとして特にこの二人が重要視されている。

 何でも、世界最強の生物兵器を作ろうとしていた研究団体の一員らしい。戦車や核兵器など足元にも及ばない、生きた兵器。原材料は解らないが、ある研究員が身近にあるモノを見て考え付いたそうだ。

 そして、その研究は成功した。

 最強の生物兵器は開発され、制御不能の状態で世に放たれた。正確には逃げ出したそうだ。生き物の三大欲求の内、食欲だけが異常に発達した兵器は最初に愚煉博士の一人娘を餌食にした。そのまま兵器達は研究員を餌食にし、研究施設のある都市の住民を餌食にし、最後には世界中の人間を餌食としたそうだ。研究所の外に出る頃には、その数は数えるのもおぞましいほど増えていたらしい。


 ここで疑問になるのが、餌食にされた人間が何故、何千年も後である今も生きているかと言うことだ。ここが、異能力者と非異能力者の話の胆だ。

 人間のなかに、その生物兵器と共生して生きることが出来る者がいた。共生説として有名なのは葉緑体やミトコンドリアだろう。それと同じように、細胞のなかに生物兵器が入り込み共存出来た人間がいた。その人間たちは生物兵器のお陰か、はたまた副作用なのか、超人的な能力を持つことになる。

 これが、異能力者誕生の大まかな歴史だ。


 僕達、特殊警察はその異能力者による事件を早期発見・解決することが仕事だ。

 特殊警察は警察とは言っても、一般の事件では動かない。被害者の多数が異能力者である場合、殺され方が明らかに人間では不可能な場合に動く事を許可されている。

 お陰で殆ど動くことの無い僕達は一般の警察から嫌われている。まぁ、殆ど事件を解決できずに給料を貰っているようなものだから、仕方がない。


 そして、この職に就いている半数は異能力者だ。僕達は、異能力者と非異能力者、1対1のペアに分けられて仕事をする。担当の地域の治安を守り、地域警察の統括をしながら事件を解決する。

 そしてまさに今、その仕事の真っ最中だったりする。


「……これは酷いですわね。非人道的と言いますか、非動物的と言いますか。とにかく生き物としてあり得ない行動ですわね」

「あ、あぁ……。お前でもそう思うんだな」

「何ですか、ゆずるさん。いくら麻季あさぎが異能力者だからと言って、譲さんと違う生き物では無いのですのよ。麻季にだって、人間らしい心や感性くらい有りますわ」


 プリプリと幼子のように怒る相方の異能力者、はかま 麻季あさぎを横目に、事件の被害者をもう一度拝む。

 冷たいコンクリートの上に倒れているのは、年端も行かない女の子。幼女と表現した方がしっくりと来るような、幼子だ。瞳は穏やかに閉じられており、恐らく苦しむ事無くあちらへ逝ったのだと解った。丁度胸から下にかけて赤インクをぶちかけたように服が染まっている。手足が縛られた後もない。暴力を受けた後も、彼女自身が抵抗した後もない。そして、彼女の服を染めているもの以外に、血痕は残っていなかった。


 手に薄いゴム手袋をはめ、幼女の血痕が広がるそこを調べる。

 既に死後何時間か経っているため、体温の生暖かさは感じられず、死後硬直の残る肉の固さと血のぬめりが伝わった。

 なにも、僕は悪戯いたずらに死者を冒涜するためにこんなことをしているわけではない。あるのもが無いことを確認しているんだ。

 有るはずの、人間なら誰しもが持っているあるものが無い。もし、あったのならこの事件は僕達の出る幕ではない。それも、一時的たが……。

 そして結果、無かった。僕の手はそれの存在を確認する事無く、幼女の身体から出された。


「その顔つきはやはり有りませんでしたのね?」

「あぁ、無かった。この子にも、肝臓が無かった」


 肝臓

 人間だけでなく、それを持つ動物の栄養の多くが此処に集まっている。その部分が、綺麗さっぱりと消失していた。


「今回の件も、フォアグラで決定ですわね」

「フォアグラかぁ。貴方達、特殊警察にはネーミングセンスと言うものがないですね。私ならもっとマシな名前を付けますよ。なんなら、考えて差し上げましょうか?」

「いつ、何処から現れた。保真ほうま


 どうやって地域警察の目を盗んできたのか、アノ探偵はそこにいた。

 黒い塊に髪色だけが純白の探偵。アレは僕と同じようにしゃがむと、両手を合わせて「ナム……」と言った。アレなりの合掌のつもりなのだろう。そのままニコリとこちらを向くと、そのまま話を続ける。


「私はいつでも何処でもいますよ。いると思えばいますし、居ないと思えばいません。そう言う探偵なんです。貴方達が私の存在をここで認めているので、いるんですよ」

「あらぁ、なら認めなければ現れないと言うことですの?」

「はい。そうですよ。袴さんは譲君よりも反応が早いので私としては助かります」


 袴の皮肉を笑顔でかわして、僕を貶す。

 袴の方は一目で解るほど顔を真っ赤にして保真を睨んでいる。正直、この二人のやり取りを見ていると、いつか袴の方が本気でキレて(今でも十分本気だが)能力を使ってしまうのではないかとヒヤヒヤする。今の所はそんなことはないが、これから先、絶対に無いと言い切れない。むしろ、彼女ならやりかねないと思っている。

 そうなった場合、パートナー交代と同時に彼女は処分を言い渡されるだろう。まだ、安心できるのは処分と言っても殺処分ではないことだ。許可なしに能力を使った、もしくは暴走させた異能力者達は更正都市に監禁される。表向きには、非異能力者と共に生きていける程度になったら出してもらえると言われているが実際は永遠に出てくることは出来ない。監禁どころか、無期懲役だ。

 命が有るだけ、まだマシなのだろう。最悪、ほとぼりが覚めたら僕が管理者に言って出してもらえばいい。

 それほど、保真は危険な人物に喧嘩を売っているのだ。意識的にか、無意識的にか。


「今回もフォア……ぶっふぉ……フォアグラと言うことは、この幼女も異能力者登録のされている幼女なんですね」

「わざとらしく笑うくらいならいっそ盛大に笑ってくれてかまわない。そして、幼女幼女とあまり連発するもんじゃない」

「そうですか?ではお構い無く」


ーーぎゃーーはははははは!!

ーーふっはっ!フォアグラ……、ちょっ!フォアグラってなに?!

ーー確かにフォアグラはガチョウの肝臓料理だけどっ!だからってこのネーミングは無いわ!

ーーあっはははははは!

ーーヒィヒィ……もう、ツボってツボって……


 周りの警察がドン引きするほどの爆笑だった。

 不謹慎すぎるだろ……。


「はぁ……はぁ……グヘヘ」

「落ち着いたか、変態」

「はい、お陰さまで、これからの事件分も笑いを消費させてもらいましたので、もう安心してもらって大丈夫ですよ」

「保真の大丈夫は信用ならないんだよ」

「おや、私の言うことは外れないと言っていたのは誰でしたっけ?」


 間違いなく僕だった。


「まぁまぁ、茶番はそこまでにしませんこと?譲さんも、早く仕事に戻ってくどさいませ」

「はいはい、解ってるよ」

「相も変わらず仕事熱心な方々ですね。感心します。では、私は私の方で調べさせてもらいます」

「あっ……おいっ!」


 僕が止める前に、アレはそこら辺にいる地域警察の海に紛れてしまう。耳を澄ませて聞いていると、殆どの警察に相手にされずあしらわれている事が解る。


「流石に今回は誰も相手にしないようですわね」

「そうそうアレに邪魔されて堪るものか、と言いたいが、僕たちがアレに助けられていることも間違いないからなぁ……。一概に蔑ろにできないんだよ」

「大人の事情というやつですか」


 それは多分違う。


「それでは、本題に入らせていただきます」


×××××


 被害者は明塚あかつか 一僂いちる。四歳の女児。自宅から徒歩45分の幼稚園に通っている。年少組。出席番号1番。

 誕生日は1月1日。

 今までに同様、内蔵の一部が欠落した状態で発見される。これまでの事件同様、肝臓の欠落。よって、フォアグラの被害者と判断。

 使われた薬品は市販の睡眠薬だけ。

 これまでに殺害された幼児との関係性はほぼ皆無。数人同じ幼稚園に通っていたそうだが、関係性は無いと判断。

 持病無し。

 家の事情無し。

 本人に特に変わった事情はない。


×××××


「幼児と言うこと以外は手がかり無し……か」

「幼児だけを狙った無差別な犯行と言うことでしょうか」

「幼児だけを狙っている時点で無差別では無いのでは?」

「また湧いてきたのか」

「はい、あまりに皆さんが冷たいものですから、比較的温かい譲君の所に戻ってきました」


ーー危うく寒すぎて冬眠するところでした。


 変わることのない笑顔で擦りよってくる。

 これが、擦りよってくるときは何かしら発見したときだ。


「……で、何か解ったのかよ」


 喧嘩の原因になりそうな袴から離れ、アレの話を聞くことにした。現場から離れ、住宅街をフラフラと歩く。

 仕事というよりは、散歩に近い。


「はい、皆さん何かを必死に隠そうとしていたので勝手にもらってきました」

「それは……」


 それは保真に邪魔されたくないから必死になって隠してたんだよ。

 とは口が裂けても言えない。

 黒コートから出されたのは被害者のリストと資料。


「それがなんだよ。悪いが、僕達は既にそれに目を通している」

「はい、気になったのはこの資料ではありませんよ。

これ、表向きに作られた資料ですよね?住民票みたいな感じの。ここには必要最低限のことしか書かれていない。まぁ、住所や本人の生活環境などがびっしり書いてあるので、これが、完璧な資料だと、錯覚していたのでしょうね」


 仕方ない人です。そこがまた可愛らしいのですが。なんて言いながら、かなり薄いタブレットを出す。

 トントン、ペシペシと画面をタップする。


「私が気がついたのはこれですよ、譲君」

「ーーこれは……」

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