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あまりに自信ありげな口振りに惑わされて、よくよく話を要約するととてもじゃ無いが起訴できるような推理では無かったが、その雰囲気に流された犯人が、自ら語った。
どうやら、彌生さんの身体には市販の薬も、医師から処方された薬も合わなかったそうだ。服用する度に、副作用とは別の症状が出たり、酷いときには気を失って倒れることもあったらしい。
そんなある日、正確に言えば最初の事件が起こる二日前だそうだ。とある医者に出会ったらしい。とても知的で、初めて見たときは学者か何かと思うほど、何かしらのオーラを持っていたそうだ。その雰囲気に惑わされるように、彌生さんの事を告げると、
ーーその女性には、薬に含まれる化学合成物質が合わなかったのでしょう。
と、言われたそうだ。
男なのか女なのか、素性すら解らないその人物の言う通りに薬の材料となる物を持ってこれたら、自分が後は調合してやろうとも。
その条件を飲むので、自分に出来ることなら何でもするので……。
那由多さんは藁にもすがる思いでその人物に頼んだそうです。話の最後に、必要なのは、新鮮かつ、健康的な肝臓。それも、人間の物でなくてはならないと。顔も思い出せないそれは、ニヒルに笑いながら言ったらしい。
流石に人を殺めてまで薬を作ってもらう必要は無いと、そう告げてその医者の元から立ち去ろうとした時
『貴方は必ず此処にやって来るよ。その時は、全面的に君に貢献しよう。そうだね……見返りは手に入った肝臓の三割でかまわない』
足早に立ち去ったわりには、まるで頭の中に直接話しかけてきたように内容を鮮明に覚えていた。
家に帰ると、玄関には力無く倒れている彌生さんがいたそうだ。手には薬の袋と保険証が入った鞄が握られていたため、病院に薬を変えてもらいに行こうとしていたらしい。すぐに救急車を呼び、大事は真逃れたものの、いつまでも彼女に死ぬかもしれない危険な橋を渡らせる訳には行かない。
結果、その医者が言うように、彼は殺人を犯すこととなる。連続殺人、フォアグラとして。
「僕達は行ってないが、お前は行ったのか?彌生さんの所に」
「いいえ、行ってませんし言ってませんよ。私が那由多さんを貴方に売ろうと思ったのは、あくまでも間違えて蒔いた種を摘み取ったまでてす」
「そうか。いや、それならいいんだ。世の中には、知らずに済んだ方が良いことがある」
後日、僕達が預かった薬の成分を調べた結果、かなり混ざってしまっていたが人のDNAが百パーセント検出された。そして被害者のそれとも、全て一致した。お陰で僕はしばらくの間、レバーを食べることが出来なかった。
「さて、私はそろそろ行きますね」
「あぁ、あと一つ聴きたいことがある。何でお前からの伝言が焼打に伝わって、狂菜が僕に伝えに来たんだ?」
「ん?あぁ、その時はちょうどあちらの事件にも首を突っ込んでいまして……。いやはや、焼打君はともかく、あの少女は厄介ですね。私、彼女とは仲良くなれる気がしません」
最後にこれだけ言い残して、いつものように消えていった。