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エピローグ

 時刻は、午後二時過ぎ。太陽が燦々と照りつける時間帯。

 海岸沿いの街道を、蹄音を鳴らして一台の馬車が進んでいた。

 アッシュ達が乗る馬車である。



「ふわあぁ……」



 御者台に座って手綱を握るアッシュが、大きな欠伸をした。

 今日は四日目。本来の予定では朝一に帰路につくはずだったのだが、昨日のごたごたのせいで結局、昼過ぎまでラッセルに滞在していたのだ。

 昨日の晩から、ラッセルはてんやわんやの大騒ぎだった。

 簡潔に言えば、第三騎士団が総がかりの大捕物をしたのだ。街で盗難事件を起こした連中から、遊覧船を強奪しようとしていた者達。さらには、ボルドに買収されていた船員達など。今回の騒動に関わった無法者を片っぱしから補縛したのである。

 ラズンより駆けつけたアリシアの父――第三騎士団・団長ガハルド=エイシスの指揮の元、それは夜通しで行われ、無関係ではないアッシュも付き合うことになった。

 結果、アッシュは昨日からほとんど寝ていない。

 流石に欠伸も出ようというものだ。



「ふわあぁ……」



 再び欠伸をもらす。と、



「……随分と眠そうだな。クライン」



 荷台から、ひょっこりとオトハが顔を出した。

 アッシュは横目でオトハの顔を見やり、



「何だ? 変わってくれんのか? オト」


「馬鹿言え。ジャンケンで負けたお前が悪い。最後まで御者をしろ」



 と、素っ気なく返すオトハ。

 しかし、わずかに相好を崩して言葉を続ける。



「だが、ま、まあ、眠気覚ましに話し相手ぐらいにはなってやるさ」



 本当は、先程女性陣内で行われたジャンケンの結果で得た権利なのだが、オトハはそのことは臆面にも出さず、渋々といったフリだけをしてアッシュの隣に座る。

 さりげなく肩が触れ合うかどうかの位置まで近付く。少しばかり緊張した。

 だが、当然のように、アッシュはオトハの心情には全く気付かず、



「おっ、そっか。サンキュ、オト」



 と、呑気に礼を述べてくる。そんな鈍感すぎる青年にオトハは力なく溜息をつくが、ともあれ一番気になる話題を切り出した。



「……しかし、結局奴らを逃がしてしまったな。一体どこに消えたんだ?」



 海上に消えた、ボルド=グレッグとカテリーナ=ハリス。

 彼らの行方は今もようとして知れなかった。



「狸親父か? いくらあのおっさんでも鎧機兵で海を越えたりしねえだろうから、今頃どっかの船の上にでもいんじゃねえか? まあ、けどよ……」



 言って、アッシュはちらりと後ろに振り返った。

 視線の先には談笑している少年少女達の姿があった。


 まず荷台の右側に並んで座る少年達が、



「……あのさ、ロックよ」


「……何だエド?」


「俺らって、結局海に入れなかったよな」


「……ぬう」


「バカンスに来たのに、何故か鎧機兵がまたぶっ壊れちまった」


「……ぬぬう」



 と、何やら鬱に入りそうな会話をしている。

 一方、左側に座る三人の少女達は――。



「うふふ、うふふ。えへへ」


「……ねえ、サーシャ。あなたどうしてそんなに上機嫌なの?」


「……うん。とても拉致されていたとは思えないぐらい機嫌がいい」



 眉根を寄せて尋ねるアリシアとユーリィ。少なくとも、昨日の晩まではサーシャは酷い乗り物酔いの状態であった。ここまで機嫌が良くなる理由が思いつかない。


 すると、サーシャは小首を傾げた。



「う~ん。実は私自身もよく分かっていないんだけど……」



 彼女はそう呟くと、自分の唇にそっと触れて微かに頬を紅潮させる。

 意味不明な仕草に、アリシアとユーリィはますます眉をひそめた。



「……えへへ」



 そしてサーシャは満面の笑みを浮かべて告げる。



「私、なんだかすっごく良いことがあった気がするの!」


「「……なにそれ?」」



 と、そんなやり取りをしている。

 アッシュはふふっと笑った。



「まあ、あいつらが無事なら今回はそれでいいさ」



 そう語る青年に、オトハは瞳を細めて頷く。

 確かに色々あったが、彼らの平穏は守れたのだ。



「それもそうだな。私もホッとした」


「ん。お前がいてくれて本当に助かったよ」



 アッシュはそう感謝の言葉を述べ、オトハの頭をくしゃくしゃと撫で始めた。

 もういい加減慣れてしまったオトハが、頬を膨らませる。



「……お前な。その癖は直せ。だんだん所構わずになってきているぞ」


「ん? そうか? お前が嫌ならもうやめるが……」


「むむ! べ、別に嫌とは言っていないぞ。場所を考えろという話だ。まあ、私も頑張ったからな。今は存分に誉めてもいいぞ」



 そう告げて、オトハは腰に手を当てて胸を張った。

 アッシュは苦笑を浮かべる。


 そうして青い空の下、馬車は真直ぐに進んでいく。

 王都ラズンはもう目の前に来ていた。




第3部〈了〉

読者のみなさま。

第3部まで読んでいただき、誠にありがとうございます!

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とても励みになります!

今後とも本作にお付き合いしていただけるよう頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします!

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