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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第18部

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第七章 その覚悟の程は➂

 ――シン、と。

 講堂内の空気は張り詰めていた。

 アンジェラとキャロライン。

 二人の覚悟の程がその空気を作り出していた。

 そんな中、


「いや、待ってくれ」


 サーシャ側では最年長であるオトハが口を開いた。

 アンジェラとキャロラインを交互に見やり、


「あなたたちの話は分かった。このままでは納得いかないということも。しかし」


 そこでオトハは渋面を浮かべた。


「決闘といってもどうする気なんだ? まさか二対一なのか?」


「いや。そんな真似をする気はねえよ」


 アンジェラがそう答える。


「それは流石に卑怯だろ」


「……なら、バトルロイヤルをするの、ですか?」


 と、お姫さまであるルカが結構おっかない単語を口にした。

 花婿を賭けての花嫁たちのバトルロイヤル。

 何とも泥沼化しそうな状況だった。


「いえ。殿下」


 ルカの問いには、キャロラインが答えた。


「それでは同じことです。戦術を鑑みれば、私とアンジェラの二人でまずシェーラ氏を潰すことになります。あまりにシェーラ氏に不利でしょう」


 一拍おいて、


「我々としては一対一を、期間を空けて二回と考えております」


「……まあ、それが一番フェアかしら」


 と、アリシアが頬に手を当てて小首を傾げていた。

 すると、


「い、いや! ちょっと待って!」


 サーシャが慌てて両手を振り出した。


「えっと、整理すると、シェーラさんはお父さまと両想いで、アンジェラさんとキャロラインさんは片想いなんですよね? なら決闘は意味がなくないですか? 言ってみればお父さまの気持ちは決まっている訳で……」


 少し気まずそうにアンジェラとキャロラインを見つめて言うサーシャ。

 一方、二人は、


「それでもさ。サーシャちゃん」


 まずアンジェラが肩を竦めて語る。


「あたしらが見たいのは、その小娘の覚悟なのさ」


 真っ直ぐな眼差しでシェーラを見据える。

 獅子王の眼光に、シェーラは少しだけ息を呑んだ。


「そして彼女の度量だよ」


 次にキャロラインが答える。


「正直に言えば、彼女はまだ騎士になったばかりの小娘だ。果たしてシェーラ=フォクスとは、かのエレナ=フラムに並ぶほどの女性なのか。亡き聖女さまを見据えて鍛錬し続けてきたぼくらとしては、それを見極めずにはいられないのさ」


「……それは……」


 シェーラは言葉を詰まらせた。

 彼女は『エレナ=フラム』という女性を知らない。

 その名を知っていても、その人物像を人伝に聞いたことがあっても、その最期の光景だけはもう見ることは出来ない。

 愛する人の心に、今なお強く焼き付いているであろうその光景を。


「あんたは、本当にアランさんのすべてを受け入れられるのか?」


 アンジェラはシェーラに問う。


「あの人の心の中に今も住むエレナ=フラムごとな」


「…………」


 シェーラは何も答えられなかった。

 すると、


「言葉で答えなくてもいいよ」


 キャロラインが双眸を細めて言う。


「ただ、見せて欲しい。なにせ、ぼくらは騎士なんだ。だったら、戦いの中でこそ君の覚悟の程を知りたいんだ」


「…………」


 シェーラは沈黙する。

 サーシャも、アリシアたちも口を閉ざしていた。

 緊張感とは少し違う重い空気が漂う。

 と、その時だった。


「け、けど……」


 ルカが重い口を開いた。


「それだと、お二人には、何のメリットもない、です」


 アンジェラとキャロラインを見つめて言う。


「お二人は、シェーラさんの覚悟を見るだけ、です。お二人のずっと抱いていた気持ちはどこに行くの、ですか?」


「それもまたひと区切りですよ」


 アンジェラが少し苦笑を浮かべて王女殿下に答える。


「あたしはきっぱり気持ちを切り替えるつもりです。実は騎士団を辞めて旅に出てみようかと思っているんですよ」


「あ。それいいね」


 アンジェラを見つめてキャロラインが微笑む。


「ぼくも付き合うよ。女二人旅だ」


「おう。いいぜ。キャロ」


 アンジェラもキャロラインを見つめてニカっと笑った。


「それはそれで楽しい旅になりそうだしな」


「もしかすると、また同じ人を好きになるかもね」


 悪戯っぽく瞳を細めてそう告げるキャロラインに、


「はは。あり得そうだ。あたしらってそこら辺は似てるからな」


 朗らかに笑って返すアンジェラ。

 そんな二人の様子に、シェーラはますます言葉が出せずにいた。


(シェ、シェーラは……)


 喉を軽く鳴らすシェーラ。

 彼女たちは自分に覚悟を見せろと言う。

 アラン=フラムのすべてを受け入れる覚悟を。

 しかし、自分に果たして彼女たち以上の覚悟があるのだろうか。

 結果的とはいえ、酒の力に頼ったような愚かな自分に――。


(……シェーラは……)


 強く拳を固めた。

 どうしても言葉が出てこなかった。

 ――と。


「……お二人の決意は分かり、ました」


 そんな中、ルカが言う。

 全員がルカに注目した。


「ですが、やはりお二人にはメリットがないと思う、のです。それも愛だと思いますが、愛はもっと強欲でいいって私は思って、います。だから」


 そこで王女さまはポンと手を打った。

 シェーラと、アンジェラとキャロライン。

 それから未だ困惑している様子のサーシャを見やり、


「私から一つ提案があり、ます」


 そう告げるのだった。

 そうして――。








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