第六章 結婚したくば――④
講堂の入り口。
そこには今、二人の騎士が立っていた。
二人とも女性だった。
そしてタイプこそ違うが、どちらも目を惹く美女である。
――そう。
キャロライン=ゴドスと、アンジェラ=ダレンである。
アンジェラは入り口の縁に片腕を置き、キャロラインは腹部辺りで腕を組んでいる。
サーシャたちに声を掛けたのは、キャロラインの方だった。
「え? キャロラインさんに、アンジェラさん?」
サーシャが目を瞬かせる。
サーシャは二人とも面識があった。
子供の頃、二人は時折、フラム邸に遊びに来ていた。その時、アンジェラには体術を。キャロラインには座学をよく教えてもらっていた。
ただ、ここ数年は全く来ることがなかった。
仕事上で父と疎遠になったのかと思っていた。
サーシャにしても二人とは久しぶりの再会だった。
少し困惑していた。面識がないアリシアたちはより一層だ。
サーシャ以外で面識のあるのはシェーラだけだったが、彼女も唐突な二人の登場に困惑を隠せないでいた。
「やあ、サーシャちゃん」
一方、キャロラインが朗らかに笑う。
「久しぶりだね。見違えるほどに綺麗になったじゃないか」
「あ、はい」
サーシャは頭を下げた。
「あ、ありがとうございます。お久しぶりです。キャロラインさん」
「うん。また会えてぼくも嬉しいよ」
キャロラインはパタパタと手を振っていた。
「よう。サーシャ」
その傍らで、アンジェラが声を掛けてくる。
「《業蛇》の討伐に《夜の女神杯》優勝と大活躍じゃないか」
そこで優しい眼差しを見せた。
「手解き程度だが、体術を教えたあたしも誇らしいよ」
「あ、ありがとうございます」
サーシャはアンジェラにもぺこりと頭を下げた。
「お二人から習ったあの頃の教えは今でも憶えています」
「……えっと、サーシャ?」
その時、アリシアがサーシャに尋ねる。
「知り合いなの?」
「あ、うん」
サーシャがアリシアの方に振り返って頷いた。
「キャロライン=ゴドスさんに、アンジェラ=ダレンさん。お父さまの同僚の方々なの」
一拍おいて、
「子供の頃、私の家にもよく来てくれて、その時、色々と教わったの」
「へえ~」
アリシアがそう呟く。
名前だけは父から聞いたことがあった。奇しくも前にアリシア自身がアランおじさまの嫁候補かもと名を挙げた当人たちだった。
――と、
「ええ。お初にお目にかかります。アリシア=エイシス殿」
キャロラインが恭しく一礼した。
「お父上にはいつもお世話になっております。そして何より王女殿下。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
サーシャの近くに立つルカに対して、そう告げるキャロライン。
アンジェラもルカに対し、頭を垂れた。
「第一騎士団所属のキャロライン=ゴドスと申します」
「同じくアンジェラ=ダレンです」
と、アンジェラも名乗った。
「あ、は、はい」いきなり声を掛けられたルカは少し動揺しつつも、「は、初めまして。よ、よろしくお願いします」と返した。
「そちらの方もご挨拶は初めてですね」
キャロラインはオトハの方に目をやった。
オトハは「ああ」と頷き、
「オトハ=タチバナだ。この学校の臨時講師をしている」
「へえ。あんたがあの『オトハ=タチバナ』さんか」
アンジェラが興味深そうにオトハを見つめた。
「騎士団でも有名だよ。かの《七星》の一人だそうだね」
アンジェラはゴキンと指を鳴らして、
「後で一試合、受けてくれないかい」
そんなことを言い出した。
すると、
「……アン」
キャロラインが呆れたような声で告げる。
「悪い癖が出てるよ。今回はそれよりも重要な案件があるじゃないか」
「……う」
アンジェラは声を詰まらせた。
それからボリボリと頭を掻き、
「そうだったな。悪りい。キャロ」
そう返した。
そしてアンジェラはシェーラを睨みつけた。
敵意も宿したような眼差しだ。
アンジェラほど露骨ではないが、キャロラインも似た表情をシェーラに向ける。
「………え?」
対し、シェーラは困惑した表情を見せる。
二人とは面識はあるが、本当にただ面識があるだけの関係だった。
ほとんど会話らしきモノもしたことのないというのに、何故こんな露骨な敵意をぶつけられるのか――。
「あたしらはあんたに用があんだよ。シェーラ=フォクスさんよ」
「シェ……私にですか?」
シェーラは二人を見据えた。
「今回の視察団の案件でしょうか? でしたら場所を変えて――」
「いや、違うよ」
シェーラの言葉を遮り、キャロラインが歩き出す。
アンジェラもその後に続いた。
二人はシェーラの前で足を止めた。
そして、
「極めてプライベートな話だ。シェーラさん。ぼくたちは君だけに用があるんだ」
キャロラインはそう告げると、騎士服の胸ポケットからある物を取り出した。
それは白い手袋だった。
キャロラインはアンジェラに目をやる。
「ぼくが代表してやるけどいい?」
「ああ。どっちがやっても同じ結果だろ」
アンジェラが腕を組んで頷く。
キャロラインは静かに頷いた。
一方、シェーラを含めて、サーシャたちはずっと困惑していた。
そうして、
――パシッと。
キャロラインはシェーラの胸元に白い手袋を投げつけた。
シェーラは「え?」と目を瞬かせて、床に落ちた手袋を見つめた。
「決闘だ」
そんな中、キャロラインが告げる。
「ぼくとアンの両名が君に挑む」
「え?」
シェーラは顔を上げて、キャロラインを見つめた。
その表情は唖然としている。
傍観者であるサーシャたちもだ。
「え? どういうことでありますか?」
思わずシェーラが素の口調でそう尋ねると、
「はン。言葉通りの意味だよ」
それにはアンジェラの方が答えた。
「あたしらはあんたを認めないってことだ。はっきり言っておくぜ」
そして彼女は告げる。
シェーラも、サーシャたちも全く想定していなかった言葉を。
「あんたにアランさんは渡さねえ。これはアランさんの花嫁の座を賭けた決闘だ」
――と。
読者の皆さま。もし『骸鬼王』の方も読んでくださっていたらご存じかもしれませんが、『クライン』の方も今回でストックが完全に尽きました。(-_-;)
今年最後の更新となります。
この作品も年末年始、頑張ってストックを増やします!
そして少しでも面白いな、続きを読んでみたいなと思って下さった方々!
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大いに執筆の励みになります! 年末年始にこつこつとストック増やします!
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今後とも本作にお付き合いしていただけるよう頑張っていきますので、これからも何卒よろしくお願いいたします!m(__)m




