表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第18部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

579/606

第二章 そのお相手は④

 場所は変わってクライン工房。

 一階の作業場(ガレージ)にアッシュたちは集まっていた。

 作業机の周辺にて立ち、それぞれが飲み物を手にしている。

 そこでアッシュたちはサーシャの父の事情を聞いた。

 ユーリィ、オトハは驚いた顔をしている。

 九号は「……オオ! ケッコン!」と動き回って騒いでいる。


「……ご結婚ですか」


 一方、トレイを手に、全員に飲み物を配り終えたシャルロットが言う。


「それは『おめでとうございます』でよろしいのでしょうか?」


 何とも奇妙な問いかけだった。

 なにせ、サーシャの父の再婚相手。

 要はサーシャの新しい母なのだ。年頃のサーシャにとっては、もしかすると複雑な想いではないかとシャルロットは思ったのである。

 それは直球で尋ねられなくともサーシャは察した。


「それはアリシアにも気にされました」


 そして隣に立つアリシアを一瞥する。

 アリシアは苦笑を浮かべて、片手で肩を竦めた。

 サーシャは少し困ったような顔を見せつつ、シャルロットを見やり、


「私としては父が選んだ人がどんな人なのかがまだ分からなくて、祝福とかはもう少し待って欲しいところです。実際にその人と会って、私のお母さまも納得できるような人なら私自身も祝福したいと思っています」


「そうですか」


 シャルロットは微笑んだ。


「良き方だとよいですね」


「あはは。どうでしょう」


 サーシャは頬をかいた。


「父はよく騙されやすいって言われますから」


 父の周りには多くの人が寄って来る。

 それは善人も悪人もである。

 まさしく良くも悪くも、それが父・アランという人物だった。


「その時は私に言え」


 その時、オトハが胸を張って告げた。


「詐欺の類ならば相応の罰を与えてやる」


「うわ。こわっ」


 アリシアが顔を引きつらせる。


「オトハさんに睨まれたら首がなくなりそう」


「ん? 刎ねるつもりだが?」


「ホントに怖いこと言った!?」


 アリシアが愕然とツッコむ。サーシャも冷や汗をかいていた。

 と、その時、


「……アッシュ?」


 ユーリィがポツリとアッシュの名を呼んだ。


「どうしたの? 苦虫を潰したような凄い顔をしている」


「……そうか?」


 自身のあごに手をやって擦りつつ、アッシュは言う。

 どこかその声も重かった。

 サーシャたちの視線がアッシュに集まる。


「どうかしたの? アッシュ?」


 と、サーシャが尋ねる。

 サーシャは基本アッシュに対して敬語なのだが、時々親し気な言葉使いになる。

 ちなみにアッシュの方もサーシャのことは、もうほとんど「サーシャ」と名前で呼び、愛称である「メットさん」とは呼ばなくなっていた。

 その理由は明白だ。この場にいる者は全員知っている。同じ立場にあるオトハとシャルロットは余裕の表情だが、ユーリィとアリシアはサーシャにジト目を向けていた。


 閑話休題。


「……う~ん」


 アッシュは腕を組んで悩んでいた。

 そして、


「あのな。サーシャ」


 真剣な眼差しでサーシャを見つめた。


「う、うん。なに?」


 キスでもされる前のような緊張した様子で頷くサーシャ。


「実は俺さ。親父さんの婚約者ってのに心当たりが一人いるんだよ」


「―――え?」


 サーシャが目を見開いた。

 いや、全員が驚いた顔をしている。


「それはどういうことだ? クライン。お前、サーシャの父とは面識がなかったと聞いていたぞ?」


 そう尋ねるオトハに、


「……オト。『アッシュ』って呼べって言ってるだろ」


 飲み物を机に置き、コツンとオトハの額をつついた。

 オトハは「う」と言葉を詰まらせる。


「サーシャやユーリィ、シャルは名前で呼び始めたのに、どうしてお前、俺だけは名前で呼ばないんだよ」


「うぐぐ。これは癖みたいだから仕方がないだろ」


 十代の頃からオトハはアッシュを『クライン』と呼んでいた。

 結ばれてなお、その癖は根強く残っていた。


「まあ、そっちは徐々にだな」


 アッシュは嘆息しつつ、


「サーシャ」


 サーシャの方に再び目をやった。

 サーシャは「は、はい」と緊張する。


「言っとくけど、これはあくまで多分だぞ。俺の直感と親父さんの交友関係から十中八九そうなんじゃねえかっていう推測だ」


 アッシュはそう前置きをする。

 そして、


「実はその人はここにいるメンバーは全員知っている」


「「「―――え?」」」


「顔ぐらいはな」


 目を瞬かせる女性陣に注目される中、九号に目をやって、


「直接会ってないのは俺と九号とオト。ユーリィぐらいかな? ルカ嬢ちゃんやレナ。ミランシャも直に会ってると思うぞ」


「ええ!? それってどういうことですか!?」


 サーシャは困惑する。オトハたちも眉根を寄せていた。


「まあ、はっきり言うとな」


 アッシュは一度嘆息してから、その名を告げた。


「多分、親父さんの婚約者は『フォクス』さんだ」


「フォ、フォク?」


 サーシャは小首を傾げた。


「え? 誰ですか? それ?」


 眉をひそめて、オトハたちの方に顔を向けた。

 オトハたちもピンと来ていないようだ。

 全員が自分の記憶を探るような表情を見せていた。


「ああ。家名じゃあ分かりにくいか」


 アッシュはあごに手をやった。

 そして、


「確か……シェーラさんだったか。シェーラ=フォクスさんだ」


 …………………………。

 ……………………。

 …………………。

 ……長い沈黙。

 アッシュと九号以外は完全に固まっていた。


「憶えてないか? ほら」


 アッシュは指を立てて言う。


「《夜の女神杯ルナミスナイツ・カップ》でミランシャに勝ってサーシャと決勝戦で戦った……」


「――憶えてるよ!?」


 サーシャが再起動して叫んだ。


「私にとっても運命の日だったんだし!? けど、シェーラさん!?」


 サーシャはアッシュに詰め寄って激しく動揺した。


「ア、アッシュ! それは流石にあり得ないよ! だってシェーラさんってまだ二十歳だし! お父さまとは倍以上も年が離れているんだよ!?」


「そ、そうですよ!」


 アリシアもアッシュに詰め寄った。


「二十歳ですよ! あの人、私たちとそんなに年が変わらないんですよ! それにアランおじさまの生徒だったって話だし!」


「……ううん。まったくあり得ない話じゃない」


 と、ユーリィが呟く。


「年の差婚はあり得る。そうあり得るの」


 自分とアッシュを交互に指差してユーリィが告げる。

 それと、と続けて、


「師弟婚も」


 今度はサーシャとアッシュを交互に指差して言った。

 サーシャは動揺も忘れて「そ、そだね」と同意する。


「そう言う意味では、私とクラ……アッシュも師弟になるんだが」


 オトハが額に手を当てて尋ねる。


「アッシュ。お前がそう言うからには何か根拠があるのか?」


「……ああ」


 アッシュは腕を組んで言う。


「……ゴドーのおっさん」


 不意に出たその名前にサーシャとアリシア、ユーリィはキョトンとする。

 一方、オトハとシャルロットは緊張感を見せた。

 その男の『正体』を知っているからだ。

 犯罪組織・《黒陽社》の社長であるということとを。

 その事実はまだサーシャたちは知らなかった。特にサーシャとアリシアにとっては父親たちの変わった友人という印象しかない。

 それをいつ伝えるべきなのかは、アッシュもまだ悩んでいた。


「あのおっさんな」


 とりあえず今は本題の方を告げる。


「フォクスさんをサーシャの親父さんの後妻にしようと暗躍してたんだよ」


「「「―――え」」」


 全員が驚きの声を上げる。


「つうか、どっちかって言うと、あのおっさんはフォクスさんの方に肩入れしてたみてえだな。フォクスさん。サーシャの親父さんに本気で惚れてたそうなんだよ」


「「―――ええっ!?」」


 サーシャとアリシアが愕然とした声を上げた。

 オトハたちは未だ困惑している。


「……あのおっさんめ」


 そんな中、渋面を浮かべるアッシュ。

 そして、


「ちゃっかり暗躍を成功させやがったのか」


 確信じみた声でそう呟くのであった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ