プロローグ
読者の皆さま!
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
第3シーズンをスタートさせたいと思います!
しかしながら、まだストックが全然ないのです!(T_T)
なので、まずは第18部のプロローグのみを先行投稿したいと思います。
頑張って、どうにか4月からと考えているのですが、時期は少し未定です。
もうしばしお待ちください。m(__)m
何卒、本作をよろしくお願いいたします!
セラ大陸より遥か南方にあるグラム島。ステラクラウン全土においても最大クラスであるその島には小さな国があった。
離島の小国・アティス王国である。
自然豊かなグラム島の四分の一を国土にするアティス王国は、主に農業と、鉄鉱石や銀の産出により発展してきた国だ。
建国年数はおよそ三百年。広大な海に囲まれた環境ゆえに、過去一度も侵略をしたこともされたこともない『平和』で有名な王国だった。
その王都ラズン。
海岸沿いに位置し、近くに広大な草原と森林を持つ城塞都市。それがラズンだ。
高台にある王城ラスセーヌを中心にした白い石造りの街並みの『王城区』。
その外層部にある木造家屋や店舗が多く並ぶ『市街区』。
さらには輸出・輸入を支える大規模な港である『港湾区』。
そして特に名称はないが、城壁沿いの内縁に田畑を大きく広げた街外れがあった。
そんな王都の一角。
彼女の実家は、主に富裕層や貴族が住む王城区にあった。
中々に荘厳ではあるが、かなり古い造りの館である。
それもそのはず。実に築二百年は経っている館だからだ。
名前を、フラム邸と言った。
爵位こそは持っていないが、名門と呼べる歴史ある家系の館である。
その一室にて、彼女は肩辺りまで伸ばした髪を櫛で梳いていた。
年齢は十七歳。
温和な顔立ちに、琥珀色の瞳を持つ少女。
素晴らしい美貌の少女だった。中央に赤く太いラインを引かれた橙色の制服――アティス王国王立騎士学校の制服を纏うスタイルも抜群である。
ただ、彼女の最大の特徴は、今も梳かし続けるその美しい髪だった。
母譲りの銀色の髪。
彼女の母は、他者の《願い》を叶えることが出来る神秘の種族・《夜の女神》の末裔とも呼ばれる《星神》だった。彼女自身に《願い》を叶える力はないが、その髪は人間との間に生まれたハーフの証だった。
彼女の名は、サーシャ=フラム。
騎士学校に通う二回生。そしてフラム家の長女でもあった。
自室の化粧台の前で、サーシャは髪を梳かす。
ややあって、コトンと。
櫛を化粧台の上に置いた。
そして、
「……はァ」
大きな胸を揺らして、サーシャは深い溜息をついた。
最近の彼女には、幾つか悩みがあった。
一つはあれらだ。
サーシャは自室の机の上を見やる。
普段は勉強に使う机。そこには今、大量の手紙が積まれていた。
あれらはいわゆるラブレターを呼ばれる手紙だった。
学年を問わず校内にて。いや、校内以外からも届けられる。
真面目なサーシャは、そのすべてに目を通していた。
サーシャの心は変わることはないが、それが礼儀だと思うからだ。
(もう公言すべきなのかな……)
銀の髪の毛先を指で弄って考え込む。
自分には恋人がいる。
だから、どんな想いにも応えられないと。
サーシャは自分の髪を兜で隠していた時期があった。《星神》のハーフというのは世間では《星神》の偽物扱いをされて、奇異な眼差しで見られるからだ。
その頃は、モテることもなかった。
後から友人の男子生徒たちから聞いた話なのだが、どうも自分はいつも兜と鎧を着ている残念美少女的な扱いだったらしい。
しかし、とある事件以降。
サーシャは髪を解禁した。モテ始めたのはその頃からだ。
幼馴染でもある親友曰く、残念度が明らかに減った結果とのことだ。
だが、今のように圧倒的に規模が大きくなったのは、やはりあの日以降か。
「…………」
サーシャは無言で口元を片手で隠した。
やや頬を紅潮させて、視線を横に逸らした。
彼と結ばれた日。
それ以降、一気に告白数が増えた。
理由は自分でも分かる。
自分は大きく変化したのだ。
仕草の一つ一つ。
その心の在り様も。
自分は、もう彼のただの弟子ではない。
彼に愛される女になったのだと強く自覚していた。
それはずっと願い続けていたことだ。
遂に叶ったことには喜びしかなかった。
だが、それこそがサーシャの最大の悩みでもあった。
彼は、サーシャとの結婚を考えている。
はっきりとそう告げられている。
そのための準備も彼は進めていた。
それはとても嬉しい。
サーシャの答えも一つしかない。
しかし、それには問題が三つもあるのだ。
一つ目。彼がサーシャよりかなり年上であること。
サーシャは十七歳。彼は二十三歳。
ただ、これはそこまで大きな問題ではない。
これぐらいの年齢の差の夫婦などよく聞く話だった。
二つ目。花嫁はサーシャ一人ではないこと。
――そう。彼の恋人はサーシャだけではないのだ。
少なくとも自分と同じ立場の女性が四人いる。
大きな問題のように思えるが、花嫁たちの間では解決している。
一夫多妻は、サーシャも含めて全員が承諾済みだった。
そのために彼は男爵位を手に入れた。爵位を持つ者は一夫多妻が認められているからだ。法律的にも財力的にも、すでに問題はなかった。
まあ、世間体的には覚悟しているが、幸いなのか最近は許容の風潮があった。
とある姉妹騎士がいて、その両方と結婚した侯爵家の青年の話は有名だった。
だがしかし。
その二つの件を前提にした最大の問題が三つ目だった。
それはサーシャの父のことである。
「……はァ」
サーシャは再び溜息をついた。
サーシャの父。アラン=フラム。
母が亡くなってから、男手一つでサーシャを育ててくれた優しい父だ。
サーシャのたった一人の家族である。
もちろん、心から尊敬している。
家族としても愛している。
けれど、彼とのことは、まだ父に伝えられていなかった。
彼は何度も父に挨拶に来ている。
サーシャも真面目だが、彼もかなり生真面目な性格をしていた。
たった一人の愛娘を貰うのだから、父親に挨拶するのは当然だと考えていた。
だが、父は何かと理由をつけて、彼との面会を避けていた。
きっと、父親として嫌な予感がしているのだろう。
花婿の挨拶を全力で回避しようとするそんな父を説得しなければならない。
サーシャにとっては最大の難問であり、悩みだった。
(……お父さまは頑固だから……)
まだ年の差はいいが、一夫多妻は絶対に反対される。
基本的には貴族が後継を多く残すために法律なのだから当然ともいえる。
けれど、サーシャにしろ、彼にしろ、すでに覚悟しているのだ。
(……よし)
サーシャは顔を上げて立ち上がった。
彼の話では、結婚自体はサーシャが卒業してからと考えているそうだが、それまでに父を説得しなければならない。
それは早ければ早いほどいいだろう。
(まずは話題に挙げよう)
これから丁度、父と朝食だ。
父には、まず彼と会って欲しいと改めてお願いしようと考えていた。
そうしてサーシャは食堂に向かう。
ややあって到着。
そこには赤い騎士服を着た四十代半ばの男性がいた。父である。料理はすでに置かれているが、手は付けていない。きっとサーシャを待ってくれていたのだ。
と、そこでふと気付く。
「……お父さま?」
サーシャは小首を傾げた。
指を組む父が、どうも緊張しているように見えたのだ。
「どうかしたの?」
「……ああ。サーシャ」
父――アランは愛娘を一瞥した。
「座りなさい。ナターシャさんの朝食を頂こう」
「はい」
サーシャは頷き、父の前に座った。
昔からの使用人であるナターシャが作ってくれた料理だ。
フラム親子は「「いただきます」」と告げてから、食事を始めた。
食事中、二人はほとんど会話をしなかった。
どこかお互いに緊張した様子だったからかだ。
そうして二人は食事を終えた。
ナターシャが食器を回収していく。
食堂には、サーシャとアランだけが残された。
二人の沈黙は続く。
そして、
「あ、あの! お父さま!」
意を決し、サーシャが口を開いた時だった。
「……待て」
アランが手を突き出して、サーシャの言葉を遮った。
「実はな。その、父さんから話があるんだ」
「……え?」
サーシャは目を瞬かせた。
「とても重要な話だ。聞いてくれ。サーシャ」
アランは言う。
そして一拍おいて、サーシャの父はこんな言葉を続けたのだ。
サーシャにとって全く想定外の言葉を。
「その、な。実は父さん、再婚するつもりなんだ」
――と。




