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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第17部 『巨樹の森の饗宴』②

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第六章 愛の行方は――。➄

 サンク=ハシブルは持っている(・・・・・)男だ。

 騎士としての才能。

 侯爵家という恵まれた家柄もそうだが、何よりも機運を持っている。

 それは訪れるべきに時に必ず訪れる。

 ゆえに持っている(・・・・・)男なのだ。



 時間は少し遡る。

 サンクたち一行は陣形を維持しつつ、大樹海を捜索していた。

 しかし、一向にジェシーは見つからない。

 当然だ。この広大な樹海で早々見つかるはずもない。

 サンクは焦りを抱いていた。


(……いや、ダメだ)


 サンクはかぶりを振った。


(ここでまた焦ってどうするんだ。折角、皆が落ち着かせてくれたのに)


 大きく息を吐いた。

 集中する。

 そして思い浮かべる。

 これまでずっと一緒に生きてきたジェシーのことを。

 初めて出会った日。

 一緒に遊んだ幼少期。

 互いに技量を高め合った騎士時代。

 彼女とエイミーに告白された日。

 ジェシーの仕草、その声を鮮明に思い浮かべる。

 そして、彼女とこれから生きるはずの未来のことも。


(ジェシー……)


 強く。強く思い浮かべる。

 もう一度。

 彼女に逢いたい。

 彼女に触れたい。

 彼女の声を聞きたい。

 そう真摯に願った。

 その時だった。


(――ッ!)


 サンクは目を見開いた。

 不意にジェシーの声が聞こえた気がしたのだ。

 愛機・《バルゥ》は足を止めた。


『……サンク?』


 エイミーが怪訝な様子で声を掛けてくる。


『どうしたの?』


『いまジェシーの声が聞こえた……』


『え?』


 愛機の操縦席の中でエイミーが目を瞬かせた。

 耳を澄ませてみる。

 しかし、姉の声はどこからも聞こえてこなかった。


『声ですか? 私は聞き落としたようですが……』


 と、シャルロットが言う。

 同時に彼女の愛機の《アトス》が傭兵たちにも視線を向けた。


『いや。俺も聞こえなかった』


『騎士の兄ちゃんの聞き間違いじゃねえか? 今はどんな音も嬢ちゃんの声に聞こえてもおかしくねえだろうし』


『……そうかもな』


 と、ハックも言う。

 すると、


『いや、違う』


 サンクはかぶりを振った。


『オレがジェシーの声を聞き間違えるものか』


 次いでサンクは『すみません。先行します!』と告げると、ギョッとする一行を置いて一人、愛機を走り出させた。

 そうして彼は見事、愛する者の危機に駆け付けるのである。

 ――そう。

 サンク=ハシブルは持っている(・・・・・)男なのだ。



       ◆



 一方、アッシュ=クラインは持っていない(・・・・・・)男だった。

 誰もが認める最強の戦士。

 その雷名は、セラ大陸中に轟いている。

 騎士を引退し、職人としてこの国に移り住んでからも友人たちに恵まれ、その傍らには愛する者たちもいる。

 一見すれば幸せな人間だろう。


 だが、それは今だからこその話だ。

 かつて、何度その手から命が零れ落ちたか……。


 父も母も故郷も。

 背中を任せた親しき友も。

 愛する者の危機に間に合わなかったこともある。


 幾度となく消失を味わった。

 彼ほど奪われ続けた人間も少ないだろう。

 いま幸せに包まれているのは、偶然に救われた奇跡に過ぎなかった。

 だからこそ、アッシュは常に全力だった。


 奪う者には容赦しない。

 幸運などにも頼らない。

 この腕で不遇な運命はねじ伏せる。

 そのために培ってきた力だった。

 そのための相棒だった。


(………)


 アッシュは双眸を細めた。

 竜尾を揺らして《朱天》は跳躍する。

 大樹の枝から枝へと、まるで飛翔するかのように跳んでいく。

 そうして――。


「……ギャワッ! イタゾ!」


 肩に掴まるオルタナが叫んだ。

 アッシュは「ああ。そうだな」と応える。

 進行方向の先。

 そこには巨影の姿があった。


「……さて。行くか」


 アッシュがそう呟く。

 枝を蹴り、《朱天》は大きく跳躍した。

 そして、ズズンッとそいつの前に着地した。

 大きな牙を持つ巨象の前にだ。


『よう。象さん。ここで遭うとは奇遇だな』


 アッシュはそう告げると、巨象は「バオオオオオオッ!」と咆哮を上げた。

 心なしか、巨体がさらに大きくなったように見える。

 肌で感じ取れる殺意。

 明らかに荒ぶっている。

 どうやら巨象――《泰君》も再会を待ちわびていたようだ。


『はは。お前もやる気ってことか』


 アッシュは双眸を細めた。

 同時に《朱天》が胸部の前で両の拳を叩きつけた。


 ――持っていない(・・・・・・)

 ――不運が何だ?


 力を以て運命さえもねじ伏せる。

 そんな最強の男は不敵に笑って宣告する。


『さあ、第二戦といこうじゃねえか。象さんよ』








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