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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第17部 『巨樹の森の饗宴』②

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第四章 原初の炎➂

 そうして。

 どれぐらいの時間が経ったのだろうか。

 サンクとビレル姉妹は険しい表情で小さな岩に座り込み、ハックたちは今後のことを商人たちと相談していた。

 シャルロットは、少し離れて湖の畔の大樹に腰を降ろしていた。

 肩にはオルタナがとまっている。

 彼女の表情もまた晴れる様子はなかった。


 と、その時だった。

 ザワザワと。

 森の奥が騒めき出したのだ。

 警護していた鎧機兵たち。そしてシャルロットやサンクたちも周囲を警戒した。

 すると、

 ――ゴウッ!

 黒い影が森を突き付けて空に飛び出した。

 それは着地すると、ガガガガッと地面に火線を引いた。

 濛々と土煙が舞い上がり、その中で黒い竜尾が悠然と揺れた。


「あるじさまっ!」


 シャルロットが声を上げて黒い影の元へと向かった。

 そんな中、


「固有種とタイマン張って平然と生き残るのか……」


 ハックは畏怖を覚えつつ、苦笑を浮かべていた。


「マジで化けモンだな。あいつは」


 そう嘯く。

 土煙が晴れた時、そこにいたのは《朱天》だった。

 アッシュとユーリィが無事合流したのである。

 だがしかし……。

 十分後。


「……………」


 愛機から降りたアッシュは無言で腕を組んでいた。

 その隣にはユーリィもいる。

 だが、二人の表情は険しかった。


「……申し訳ありません」


 シャルロットが深々と頭を下げた。

 彼女の口から状況を告げたのだ。


「あるじさまから託されたルカさまをお守りできませんでした」


 グッと唇と噛む。


「本当に私は今も昔も役立たずです。情けない。本当に何も私は成長していません。あのライク君を任された時のように」


 かつて同じようにあるじさまから託されたというのに、足止めさえも出来なかった不甲斐ない過去を思い出す。

 すると、


「いえ。スコラさんは何も悪くありません。これは明らかにオレの失態です」


 サンクが神妙な声で言う。


「オレは王女殿下の護衛としてこの場にいます。だというのに、みすみす殿下を攫われてしまった。オレを信頼してくれた団長、両陛下に会わせる顔がありません」


「それを言うのなら私たちもよ……」


 と、ジェシーも口を開いた。

 サンクの隣には表情に陰を落とすビレル姉妹の姿があった。


「あんな危険な状況だったのに見失うなんて護衛としてあり得ない失態だわ」


「……うん」


 エイミーが頷いた。


「陛下に極刑を言い渡されても受け入れる失態……」


「それなら俺らも同罪だな」


 ハックが頭をかいて言う。


「俺らも充分に警戒していた。そんな中で護衛対象の一人を攫われるなんぞ《プラメス》創設以来の大失態だ」


 今、この場にいるのはこれで全員だ。

 ――いや、もう一機だけいる。オルタナだ。


「……ギャワッ! ルカ、サラワレタ!」


 ユーリィの肩に乗ったオルタナは、シャルロットたちに伝えた内容をアッシュとユーリィにも繰り返していた。

 ユーリィは険しい表情のまま何も言えずにいた。

 なにせ、ルカはユーリィの大切な友達の一人なのだから。

 そうしてアッシュは――。


「……シャル」


 酷く落ち込んでいるシャルロットの腕を取って引き寄せた。

「あ」と声を零すシャルロットを、アッシュは優しく抱きしめた。


「お前は何も悪くないよ」


 言って、ポンと頭を叩いた。

 それからサンクたちにも目をやって。


「お前らもだ。サンク。ビレルさんたち。ハックもだ」


 シャルロットを抱きしめたまま、アッシュは告げる。


「初見で、しかも不意打ちされてあれ(・・)を防げる人間なんていねえよ。仮に俺が傍にいたところで同じ結果だっただろうな」


 その台詞にハックは双眸を細めた。


「その口ぶりだと何が起きたのか知ってるみてえだな……」


「……ああ」


 アッシュは、シャルロットを離して頷いた。


「ルカ嬢ちゃんを攫うのに使われたのは相界陣だ」


「ッ!」


 ハックは目を瞠った。


「マジか!」


「……相、界陣?」


 サンクが眉をひそめる。


「それは、なん……いや、聞いたことがあるぞ……」


「うん。私も知ってるよ」


 エイミーがサンクの袖を掴んで言う。


「確か記憶世界を創り出すエルサガのとんでもない道具だって」


「ああ」


 ハックは渋面を浮かべて腕を組んだ。


「確かにありゃあとんでもねえ道具だ。それだけ扱いも難しい道具って聞いてるが、こんな拉致で使われると……」


「ああ。どうしようもねえってことさ」


 言って、アッシュは未だ元気のないシャルロットの肩をポンと叩く。


「しかし、アッシュよ」


 そんなアッシュにハックは鋭い眼差しを見せた。


「この状況に即答できるってことは、やっぱお前には王女殿下を拉致した野郎に心当たりがあるってことか?」


「ああ。嫌になるがな」


 アッシュは渋面を浮かべた。


「サンクの推測は合ってるよ。ルカ嬢ちゃんを攫ったのは公爵家当主の暗殺未遂事件を裏から面白おかしく弄り回していたクソジジイだ」


 そうして、アッシュは暗殺未遂事件についての真相を詳しく語った。

 初めてルカと出会った頃の話だ。

 友人であるザインと、ルカも巻き込まれた事件である。

 話し終えた時、誰もが表情を険しくしていた。


「……最悪だな。そいつ」


 ハックが言う。

 誰も口にしないが、全員がそう思っていた。

 するとアッシュが、


「ああ、クソッ!」


 ボリボリと髪を強く掻く。

 そして、


「……ああ。マジでそうだよ」


 アッシュは、苛立ちと共に吐き捨てた。


「俺の知る中でも最悪のジジイの一人だ。つうか、なんで俺に近づいてくるジジイどもはこうもロクでもない奴らばっかりなんだよ」

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