表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クライン工房へようこそ!【第18部まで完結!】  作者: 雨宮ソウスケ
第17部 『巨樹の森の饗宴』②

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

540/606

幕間一 最初の勝者

 その時、一つの戦いが幕を降ろそうとしていた。


「がああああッ!」


 黒い巨拳が巨馬の顔を打つ!

 漆黒の毛並みに、真紅の双眸を持つ巨猿。

 固有種・《猿羅エンラ》の拳である。

 対するは敵も巨大だ。

 紫色に妖しく輝く皮膚に、黒い鬣と尾を持つ巨馬。

 固有種・《(オウ)()》である。

 巨拳を受けた《王馬》は大きく仰け反った。

 だが、その勢いを利用して反転。《王馬》は後ろ脚で蹴りを繰り出した。


 ――ズドンッ!

 巨大な蹄が《猿羅》の胸板を射抜く!

 巨猿は砲弾の如く吹き飛ばれ、幾つもの大樹をへし折った。

 重装型の鎧機兵でも粉々に砕くほどの威力。

 十セージル級の魔獣でも即死する破壊力である。


「………グルゥ……」


 だがしかし、それでも《猿羅》は立ち上がる。

 とは言え、ダメージは計り知れないようだ。

 鋼の強度にも届く《猿羅》の胸板も二つの蹄の痕が刻まれていた。

 ――ゴボッと。

 どす黒い大量の血を大地に吐き出した。

 吐血は止まらず、瞬く間に血だまりが広がっていった。

 どうにか立ってはいるが、満身創痍なのは明らかだった。

 その隙を怪馬は見過ごさなかった。

 黒い尾を揺らすと、

 ――ガガガガガガッガガガッガガガガガッッ!

 まるでナイフのように鋭利になった尾の体毛が無数に撃ち出した!

 邪魔な木々も砕き、体毛の刃は《猿羅》に突き刺さった。

 だが、無防備に喰らった訳ではない。

 巨猿は両腕を交差して刃の嵐を防御していた。

 ガクンッと膝を崩す《猿羅》。

 すると、

 ――ヒヒイィィンッ!

 雄々しきいななきを上げて《王馬》は走り出した。

 頭部を低く突き出して加速する。

 地響きさえも起こす全力の突進である。

 いよいよトドメの一撃を喰らわせるつもりのようだ。

 この追撃を受ければ《猿羅》とて死は免れない。

 長い戦いに遂に終止符が打たれる。

 そう思われた時だった。


 ――ガパリ、と。

 唐突に《猿羅》が大口を開けたのだ。

 そして――。


「――――ッ!?」


 突進していた《王馬》が目を見開いた。

 突然、全身に衝撃が奔ったのだ。

 それは《猿羅》が放った咆哮だった。

 いや、咆哮どころではない。

 それは激しい振動をもたらす超音波だった。

 快音は《王馬》のみならず、大地と木々さえも激しく揺らした。

 遠くにいる魔獣たちものたうつほどの音の波だ。

 さしもの巨馬も足を止めざるを得なかった。

 それこそが《猿羅》の狙いだった。

 最後の力を振り絞るように走り出す。

 両腕も使った加速だ。

 そうして《王馬》との間合いを詰めると、巨馬の腹部へと潜り込む。


「……グオオオオオオッ!」


 咆哮を上げる《猿羅》。

 巨猿は巨馬の体躯を担ぎ上げた。

 無論、《王馬》は全身を動かして荒れ狂う。

 だが、それにも構わず《猿羅》は宙に跳んだ!

 巨馬を担いだまま、並び立つ大樹の幹を何度も蹴りつけて上昇していく。

 そして《猿羅》は大樹の背さえも越えて大空へと飛び出した。

 そこでも《王馬》は暴れ回るが、巨大でも馬である以上、四本の脚が地についてなければどうしようもない。

《猿羅》はその場で上下を反転させた。

 地へと《王馬》の巨体を向けてその勢いも加えて落下する!

 そして、


 ――ズゥズンッッ!

 二体の巨躯が大地に叩きつけられる!


 超重量の衝撃で大地は大きく陥没。溢れるように土煙は吹き荒れる。突風で周囲の大樹は波打ち、何本かは倒れていった。

 ややあって土煙が晴れると、そこには盛大に吐血した《王馬》と、その体躯の上で両膝をつく《猿羅》の姿があった。

 巨猿は肩で息をしているが、巨馬が動く様子はない。


「………グルゥ」


 よろめきつつ、《猿羅》が大地に立った。

 その間も《王馬》が動くことはなった。

 遂に二大魔獣の決着がついたのである。

 勝者は百騎殺しの魔猿・《猿羅》だ。

 だが、勝ったと言っても、それはあまりにも辛勝であった。

 どうにか歩いていた《猿羅》もズズンッと両膝をつく。

 肩で息をする魔猿の双眸は虚ろだった。

 同格の魔獣である《王馬》はやはり強敵だった。

 かろうじて生き延びこそしたが、《猿羅》もそのままいつ倒れ込んでもおかしくないほどの大ダメージを負っていた。

 吐血も止まらない。胸板や漆黒の体毛をどんどん赤く染めていった。


 もはや《猿羅》の命運も尽きていると言えた。

 だが、その時だった。


 不意に倒れ伏す《王馬》と膝をつく《猿羅》の足元に光の陣が展開されたのである。

 敗者の《王馬》はすでに動けない。《猿羅》の方も異変に気付いていても、そこから動くだけの余力がなかった。


「……グルルルゥ」


 ただ威嚇だけをする。

 光の陣はさらに輝きを増した。

 すると、


「……ッ!」


《猿羅》は目を瞠った。

 光の陣が輝くほどに自分の傷が凄まじい速度で治癒していくのだ。

 代わりに《王馬》は痩せ衰えていく。

 まるで《王馬》の生命力を《猿羅》が吸い上げているようだった。

 魔猿の傷は瞬く間に完治した。

 それどころか筋肉はさらに膨れ上がり、溢れんばかりの活力に満ちている。

 体格自体も一回り以上は大きくなっていた。

 明らかに戦闘前よりも強くなっている。


「ウオオオオオオオオ――ッ!」


 轟く《猿羅》の咆哮。

 さらには激しいドラミングも奏でて勝利を誇る。

 光の陣はいつしか消えていた。

 傍らには衰弱しきった《王馬》が横たわっていた。

 ズシン、ズシンと。

 再び《猿羅》は歩き出す。

 もはや《王馬》には見向きもしない。

 輝きを取りも出した赤い双眸は次なる敵を探していた。


「……グルゥ」


 熱い息を零す《猿羅》。

 一つの戦いは終わった。

 しかし、巨獣たちの饗宴は未だ終わらない。

 最初の勝者。

 百騎殺しの魔猿は再び大樹海を彷徨うのであった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ