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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第17部 『巨樹の森の饗宴』②

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第二章 悪意、再び①

 その日。

 王城ラスセーヌは騒然としていた。

 騎士たちはもちろん、そこに働く使用人たちもだ。


「一体どういうことだ?」


「盗賊か? いや、けど他の宝物は無事だったんだろ?」


 そんな声が王城の至る所から聞こえてくる。

 宝物庫で発覚した奇怪な事件は、瞬く間に王城中に伝わっていた。


(……ぬう)


 長い廊下を歩く壮年の騎士が内心で呻く。

 黄色のサーコートを纏い、天を突くような髭をたくわえた大柄な騎士。

 第三騎士団の団長。

 アリシアの父でもあるガハルド=エイシスである。


(箝口令が遅れてしまったか)


 ガハルドが通る時は敬礼しつつも、少し離れるとすぐに噂話に戻る騎士たちに噂の広がり具合を改めて実感する。

 ともあれ、ガハルドは先を急いだ。

 ややあって一つの部屋の前に到着する。

 とても重厚なドアである。

 ガハルドはノックをすると、「どうぞ」と声が返ってきた。


「失礼する」


 そう告げて、ガハルドはドアを開けて入室した。

 そこは会議室の一つだった。

 大きな円卓一つに六つの椅子。少人数を想定した小会議室。

 そこには、ガハルドより先に二人の騎士がいた。

 一人はガハルドと同年代。ひょろっとした体格に温和な顔立ちの人物。赤系統で統一された制服とサーコートを纏う騎士だ。


 ローグ=ハティア。

 王城の警護を担う第一騎士団の団長である。


 もう一人は緑系統の制服とサーコートを纏った老騎士だ。

 魔獣などの外敵から王都を防衛する第二騎士団の団長。

 カザン=フォクスである。


「随分と遅かったな。エイシス」


 と、腕を組んでカザンが言う。

 彼とローグはすでに着席していた。


「申し訳ありません。部下に捜索の指示を出していたもので」


 言って、ガハルドも円卓に座る。

 これで、ここに三騎士団長が揃ったことになる。

 一瞬の静寂。


「とりあえず、これで揃いましたね」


 と、ローグが切り出した。


「では会議と行きましょうか」


「……そうだな」


 カザンが口を開いた。


「まずは儂から報告しよう」


 かなり重苦しい口調で告げる。


「宝物庫の事件、宝物庫は調べ終えた」


「……何か進展が?」


 ローグは眉をひそめて尋ねる。


「……いや」


 それに対し、カザンはかぶりを振った。


「まず他に盗まれた物はなかった。あの怪蛇の頭蓋のみが無くなっていた」


「侵入経路は」


 ガハルドがカザンを見据えて尋ねる。


「それも不明なのですか? あれほどの巨大なモノですぞ」


 昨夜の奇妙な事件に対し、ガハルドは奇妙な指令を部下に出すことになった。

 部下たちも唖然としたものだ。

 なにせ、巨大な蛇の頭蓋を捜索せよと命じられたのだから。


「それも全くだ」 


 カザンは額に手を当てた。


「宝物庫自体も徹底的に調査したが、侵入経路は不明だ。あれでは宝物庫の正門から堂々と運び出したとしか考えられん」


「……身内の犯行でしょうか?」


 考えたくはないが、最悪の想定を口にするローグ。

 カザンは深く眉根を寄せるが、ガハルドの方はかぶりを振った。


「いえ。それも考えにくい。あれほど巨大な頭蓋です。仮に夜間に実行したとしても王城内を誰にも気付かれずにあれを運び出せるとは思えません」


 一拍おいて、


「そもそも他の宝物には全く目もくれず、あの頭蓋だけを盗んでいく意図が分かりません。学者ならば興味もあるのかもしれませんが、その点においては、陛下は広く門戸を開いておられますから」


 固有種の研究をしている学者はいる。

 そういった組織や人物に対しては、頭蓋を大きく破損させないことを条件にアロス王は研究への使用も許可していた。


「……コレクター、でしょうか?」


 と、ローグが呟く。

 ガハルドもカザンも無言になった。

 全く有り得ない話ではない。

 稀少な魔獣――ましてや固有種の牙などは高値で取引されるケースもある。

 そういった輩には、あの頭蓋は宝物よりも価値があるのかも知れない。

 三人は再び沈黙した。

 ややあって、


「……その可能性は否定できませんが、やはり疑問なのは侵入経路ですな」


 ガハルドが口を開く。


「まるで怪盗だ。一体どうやって盗み出したのか……」


「……そういえば」


 その時、ローグが口を開いた。


「騎士たちが噂してましたね。あの頭蓋は《業蛇》が取り戻したのだと」


「……?」


 ガハルドは眉をひそめた。


「それはどういう意味でしょうか?」


「なに。馬鹿げた噂話ですよ」


 苦笑を零しつつローグは続ける。


「あの頭蓋は死んだ《業蛇》の悪霊が持っていったという噂です」


「……いや、それは」


 ガハルドは何とも言えない顔をした。

 馬鹿馬鹿しい噂だと思う。

 だが、そんな噂が立つほどに今回の事件は奇妙なのだ。


「あり得そうで怖い噂ですな」


 嘆息してそう告げる。


「……ふん」


 すると、カザンが鼻を鳴らした。


「本当に馬鹿げた噂だな」


 次いで、呆れたように眉をしかめる老騎士。


「若い連中が考えそうな話だ。くだらん。仮にそれが真実だとしたら――」


 そこでカザンは皮肉気に口角を上げた。

 そして、


「頭蓋を取り戻した奴は今頃、ドランにて迷い出ておるやもしれんな」


 そう呟いた。

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