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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第17部 『巨樹の森の饗宴』②

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第一章 王獣闘争①

 アッシュ=クラインとは最強の戦士である。

 当代の《七星》の中でも最強。

 彼と並ぶ者は全大陸においても数えるほどしかいないだろう。

 実力、胆力、戦闘経験。

 いずれにおいても紛れもない最強だった。

 だが、そんな彼でもこの状況には動揺せずにはいられなかった。


(……おいおい)


 険しい顔で前方を見やる。

 手に握る愛機・《朱天》の操縦棍にも力が籠る。


「……アッシュ」


 彼の後ろから、不安そうな少女の声が届く。

 アッシュの背中にしがみつく空色の髪の少女。

 相棒に同乗するユーリィの声だ。


「……あれはどういうこと?」


 続けてそう呟く。

 アッシュは険しい表情のままだ。

 アッシュにもこの状況は説明できない。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!」


 荒廃した遺跡に轟く咆哮。

 それは眼前にいる巨大な蛇の咆哮だった。

 その威嚇は蛇と対峙するもう一体の怪物へと向けられていた。

 その怪物は咆哮こそ上げないが、視線のみで蛇を威圧していた。


「……アッシュ」


 ユーリィは肩を震わせて、アッシュに強くしがみついて来た。


「大丈夫だ。ユーリィ」


 状況は分からずともユーリィを不安のままにさせておくことは出来ない。

 アッシュは力強い声でそう告げた。


「俺が傍にいる。しっかり掴まっておけ」


「……うん」


 ユーリィは頷いた。

 まだ不安と困惑は残るようだが、その声にもう怯えはない。


(……さて)


 アッシュは改めて状況を整理し始める。

 目の前には、互いに三十セージルにも及ぶ二体の巨獣がいる。

 一体は無数の赤い瞳と黒い体毛を持つ巨大な蜘蛛。脚の一本を失っているが、未だその圧は揺らがない怪物である。

 そして、もう一体は巨大なる蛇。

 蜘蛛同様の紅く妖しい眼光に、矢じりで造られたような鎧を思わせる土色の鱗。無数の牙が見える巨大なアギトが恐ろしい。

 この一体こそが大きな困惑の一つだった。

 かつてアティス王国に災厄をもたらした怪蛇。

 しかしながら、四人の少年少女によって討たれたはずの怪物。


 ――《業蛇》。

 死んだはずの魔獣が全盛期の姿で目の前にいるのだ。

 困惑するのも当然だった。


「……ユーリィ」


 アッシュは愛娘に尋ねる。


「あれはマジで《業蛇》なのか?」


「……うん」


 困惑しつつも頷くユーリィ。


「間違いなく《業蛇》だと思う。少なくとも私が前に出会ったのはあの蛇」


「……そうか」


 アッシュは眉をひそめた。

 ユーリィは記憶力もよい。彼女が言うのなら間違いないのだろう。

 だが、疑問はさらに深まった。


「けど、どういうことだ? なんで死んだはずの蛇が生きてんだよ」


「それは……」


 ユーリィも言葉を詰まらせる。

 あの蛇が、その首を落とされたところはユーリィも目撃している。

 あれは確実に死に至る一撃だった。


「分からない……」


「……そうだな」


 アッシュは小さく息を吐いた。


「考えんのは後にすっか。今はこの場を切り抜けることが先決だしな」


 と、呟いた時、


『おい!』


 不意に声を掛けられた。

 目をやると鎧機兵の一機がそこいた。

 長剣と盾を持つ騎士型の鎧機兵。

 二体の魔獣と共に現れた傭兵団・《プラメス》の団員の機体だ。


『その機体、お前、子連れ傭兵だな!』


『……ああ』


 アッシュ――《朱天》は頷いた。


『アッシュ=クラインだ。アッシュと呼んでくれ』


『アッシュか。俺はハック=ブラウン。傭兵団・《プラメス》の団長だ。いきなりですまねえが手を貸してくれないか』


 と、騎士型の鎧機兵が告げる。


『ああ。分かってる』


 鋭い眼差しで睨み合う《業蛇》と大蜘蛛を見据えて、アッシュは即答した。


『こいつはどう見ても異常事態だしな』


 ガンっと《朱天》が両の拳を叩きつける。


『助かる』


 ハックの乗る鎧機兵も剣を構える。

 他の団員たちの機体もそれぞれ武器を構えていた。

 だがしかし、二体の魔獣はお構いなしだった。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!」


 轟く《業蛇》の咆哮。

 そして鎧機兵など歯牙にもかけず《業蛇》は大蜘蛛に襲い掛かった。


「――――ッ!」


 対する大蜘蛛も吠えることは出来ずとも、強烈な殺意と敵意をもって迎え撃った。

 二体の魔獣は互いの頭部をぶつけ合う!

 それだけで周囲に衝撃が奔り、朽ちた遺跡は余波で崩れ始めた。


『うおっ!』『くそッ!』


 歴戦の傭兵たちも困惑の声を上げる。

 アッシュも操縦棍に力を入れつつも、眉をしかめていた。

 最強の魔獣。固有種同士の激突に居合わせることなど、彼らやアッシュであっても初めて体験することだった。

 ただの衝突さえも想像を超える衝撃である。

 混乱しても無理もない。


(……どう仕掛けりゃあいい……)


 アッシュでさえ攻めあぐねていた。

 そんな人間たちをよそに、魔獣たちは暴れ始める。

 互いに王である最強の魔獣。

 王獣たちの戦いはさらに加速する――。

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