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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第16部 『巨樹の森の饗宴』①

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エピローグ

「……選別が始まったか」


 大樹海の奥。

 大樹の枝の上にて、深淵の魔術師は、左手に握る宝珠へと目をやった。

 陽炎のように表面が揺れる宝珠。

 数秒ほど経つと、そこには、激突する魔獣たちの姿があった。

 ただの魔獣ではない。

 共に三十セージルを超す巨躯を持つ大魔獣だ。

 魔術師が厳選した固有種たちである。


「《猿羅》と《王馬》……」


 アロンの魔の森にて猛威を振るった魔猿と、オズニアの大草原を統べた巨大なる猛馬は、すでに一昼夜戦い続けている。

 その力は、拮抗していると言える。

 流石は王の『器』たる者たちか。


「……ふむ」


 魔術師の宝珠は、別の場所を映し出した。

 そこには、大樹海を闊歩する巨大な獣の姿があった。

 ただ歩くだけで地響きを立てる巨体だ。その巨躯は《猿羅》たちを凌ぐほどだった。近隣の魔獣たちは怯えて身を隠すか、脱兎のごとく逃げ出している。


「……こやつは未だ遭遇せずか」


 再び、宝珠の場所が入れ替わる。

 新たに映し出された場所は、廃都市の遺跡のようだった。

 そこでは醜悪な大蜘蛛と、巨大すぎる怪蛇が対峙していた。

 大蜘蛛は脚の一つを失っていた。

 その周辺には、王たちの戦いに巻き込まれたか、鎧機兵の集団の姿もあった。


「エルサガの死樹海の王、《死蜘蛛(ジグモ)》。そして――」


 魔術師は、双眸を細めた。

 その眼差しに映るのは、ゆらりと巨大な鎌首をもたげる怪蛇だ。


「《ドラン》の王。《業蛇》か」


 ふん、と鼻を鳴らす。


「怠惰な蛇という話だが、流石に狭間を彷徨うのは堪えたか」


 暴食と怠惰で知られる怪蛇は、今は眼光を赤く光らせて戦意を見せている。

 もう殺されるのは御免だ。

 言葉は発さずともそう語っているような気がした。

 魔術師は、ふんと鼻を鳴らした。


「それでいい。その気にさえなれば、貴様は他の者たちにも劣らぬ」


 カツン、と右手の樫の杖で枝を打ちつける。


「貴様には特別に手をかけたのだ。意地を見せよ」


 その声が聞こえた訳ではないだろうが、《業蛇》は咆哮を上げた。

 それに応じるように、《死蜘蛛》も前へと踏み出した。

 脚の一つを奪われても戦意は充分のようだ。


 蜘蛛と蛇。

 種族としての不利はあるだろうが、同サイズならばそれも些細なことだ。

 魔獣たちの勝敗は、未だ分からない。


「……さて」


 魔術師はすっと宝珠を虚空に消すと、一歩踏み出した。

 ここは大樹の枝の上。すなわち宙空に足を踏み出したのだ。

 だが、驚くべきことに落下はしない。

 ゆっくりと、地に向かって降り始めたのである。

 ややあって、地面に到着した。


 魔術師は歩き出す。

 生身で歩くことは、自殺行為にも等しい大樹海を平然と進む。

 近くには魔獣や獣の気配もあるが、どうしてか魔術師に襲い掛かる様子はない。

 魔術師は黙々と進んだ。

 そうして、しばらくして……。


「……ふむ」


 顔を上げる。

 そこは大樹の前だった。

 樹齢は、数千年は超えるだろうか。

 天を突き、神々しささえも宿す巨大樹である。

 目の前に立てば、幹の端が見えないほどだ。


「これならば充分だな」


 その壁の如き樹の幹に、魔術師はコツンと樫の杖を当てた。

 すると、

 ――フオン、と。

 奇妙な空間が幹に現れた。

 まるで幹の内部へと導く扉のようだ。


「うむ」


 人が充分に通れるほどの大きさのその空間に、魔術師は脚を踏み入れる。

 一瞬の暗転。

 次の瞬間には、世界が変わっていた。

 暗い水面の世界。

 中央には、水が溢れ出す銀色の杯がある。

 人が両手でようやく抱えれそうな巨大な杯だ。

 その杯の上には淡く輝く球体があった。

 それが唯一の光源となって、この暗い世界を照らしているのである。

 魔術師は湖面を揺らし、その杯の前まで移動した。


「中々に大地の精を吸い上げておる」


 魔術師は、輝く球体を見やる。


「しかし、まだ足りぬな」


 言って、左手を球体へと突き出す。

 すると、ドプン、と杯の水がより多く溢れ出した。

 それと同時に、球体はさらに輝き始めた。


「少々時間はかかるが、これでよい」


 魔術師はふっと笑う。

 そうして、くるりと球体に背を向け、


「勇猛なる御方(おんかた)さま!」


 両腕を広げ、高々に声を張り上げた。


「永き、永き時をお待たせいたしました。臣として心苦しくございます。されど、ようやく時が満ちましたぞ」


 カツンと樫の杖を突く。


「魔王の中の魔王。煉獄の覇竜! 我が偉大なる王よ! 御身が臣、西方天・ラクシャが御身を狭間の牢獄より解き放ちましょうぞ! おお!」


 心が震えるのを抑えきれない。

 魔術師は、世界へと告げた。


「――時は来たれり! 今こそご帰還の時! 偉大なる煉獄王(バロウス)よ!」




 第16部〈了〉

読者のみなさま。

本作を第16部まで読んでいただき、誠にありがとうございます!


第16部以降も基本的に別作品の『骸鬼王と、幸福の花嫁たち』『悪竜の騎士とゴーレム姫』と執筆のローテーションを組んで続けたいと考えております。


もし『少し面白そうかな』『応援してもいいかな』と思って頂けたのなら、

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とても励みになります!

今後とも本作にお付き合いしていただけるよう頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします!

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[一言] おおう、怪獣総進撃は次章に繰り越しですか
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