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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第16部 『巨樹の森の饗宴』①

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第八章 蘇る災厄②

 その日の深夜。

 王城ラスセーヌの地下。

 第一騎士団所属する青年騎士。

 ガダル=ドドスは、一人、宝物庫に向かっていた。


「………」


 ランタンを手に、ガダルは暗い廊下を進む。

 王城には、恒力を使用した照明が設置されているのだが、地下通路であるこの場所だけは一定間隔で設置されているだけで薄暗い。

 まだ二十代半ばのガダルの表情は、少し険しかった。


 コツコツコツ。

 足音だけが響く。


 しばらく進むと、ようやく明るい場所に出た。

 宝物庫の入り口。鉄扉のある部屋だ。

 そこには、テーブルに着いて、トランプゲームを楽しむ二人の同僚騎士がいた。


「お」


 一人がガダルに気付いた。

 ガダルにとって、先輩に当たる騎士だ。


「おう。来たな。ガダル」


「……来ましたよ」


 ガダルは、ブスッとした声で返した。


「そりゃあ来ますよ。任務なんだし」


「ははっ」


 トランプをテーブルに置き、もう一人の騎士が笑う。


「ご苦労さん。今月の肝試し班はお前か」


 言って、立ち上がる。

 手には何かの帳簿を持っていた。


「……肝試しって、身も蓋もないですね……」


 はあっと深い溜息をつくガダル。

 彼は二人の騎士の元に近づいた。


「ほれ。これがリストだよ」


 そう告げて、騎士はガダルに帳簿を渡した。

 それを受け取りつつ、ガダルは渋面を浮かべた。

 分厚くはないが、かなりの量のリストだ。


(最悪だ)


 そう思いながら、顔を上げる。

 眼前には、巨大な鉄扉。

 この奥に、アティス王国の財宝が眠っているのだ。

 彼が、こんな時間に宝物庫に訪れたのは、財宝を奪いに……という訳ではない。

 これが、今回のガダルの任務だからだ。


 王城を守護する第一騎士団。

 その任務の一つに、宝物庫の警備を含まれているのだが、その中に騎士団内で最も嫌がられている任務がある。

 それが、一ヶ月に一度、不定期日に行う宝物庫内の抜き打ち検査だ。

 宝物庫前には、二名の警護騎士が常駐しているのだが、何かしらの方法で侵入する者もいるかもしれない。そして、もし侵入するとしたら、やはり真夜中。それを懸念して、真夜中に検査を行うのである。


 とは言え、宝物リストのチェックは、今夜行う予定はない。

 リストの確認は別の日。明るい昼間に行う。

 今夜の目的は、あくまで侵入者がいないことの確認だった。手渡れた宝物リストは違和感を覚えた時の確認用である。

 しかし、まず使用しないそのリストさえも、今夜は重く感じた。


「……先輩。これって意味あるんですかね?」


 ガダルは、思わず先輩騎士に愚痴を零した。

 先輩騎士は、ガダルの肩をポンと叩き、苦笑を浮かべた。


「まあ、これも任務だ。諦めろ」


 言って、ガダルの背中を押し出す。


「宝物庫の中は真っ暗だからな。ランタンはちゃんと着けろよ」


「そんな中を一人っきりだ。何回経験しても怖いぞ。これは。特に最近は、あれ(・・)が新たに追加されているからな」


 もう一人の騎士がそんなことを言う。

 広大な暗闇の中を、ランタン一つで歩き回る。

 この任務が『肝試し』と呼ばれる所以だ。


「肝試しなら、せめて女の子を同行させてくださいよ……」


 そうぼやくが、宝物庫をデートスポットに出来るはずもない。

 ガダルは、しばらく愚痴を先輩たちに零していたが、ようやく覚悟を決めた。

 先輩騎士に鉄扉の鍵を外してもらい、宝物庫内に入っていく。


(うわあ。マジで真っ暗だ)


 ランタンで周囲を照らすが、分かるのは精々二セージル程度までだ。

 宝物は乱雑に置かれている訳ではなく、金属棚なども使用して綺麗に整頓している。

 だが、それが返って視界を遮り、まるで迷宮の中を進んでいるような気分だ。

 もし、本当に侵入者がいた場合、悲鳴を上げてしまいそうで怖い。

 ガダルは、少し喉を鳴らしつつも、宝物庫の奥へと進んだ。


(ああ。さっさと終わらせてえよ)


 そんなことも思いつつ、死角や闇の奥などを警戒しながら、歩き続ける。

 今のところは怪しい影はない。

 少しホッとするが、ガダルは表情を引き締め直した。

 ガダルが、宝物庫に入るのは、今回が初めてではない。

 だから知っていた。

 警護の騎士が言っていた、あれ(・・)の存在を。

 暗闇のせいで感覚が少し狂っているが、そろそろあれ(・・)の場所に出るはずだ。


あれ(・・)は、いきなり出くわすと心臓に悪そうだしな)


 とある大樹海から回収したモノ。

 本来ならば、宝物庫にしまわれるようなモノではないが、他に置く場所もなく、ここに置かれることになったそうだ。

 言わば、この『肝試し』のヌシとも呼ぶべき存在だ。


(ホント、死んでまで最悪な奴だよ)


 ランタンを強く握り直して、ガダルは嘆息した。

 そろそろだ。

 そろそろ、あのヌシが現れる。

 そう警戒しつつ、角を曲がったその時だった。


「………え?」


 ガダルは、思わず立ち止まった。

 目を瞬かせる。


「………え?」


 再び声を零した。


「え? いや、いやいや! 待てよ!」


 前へと駆け出した。

 向かった先。そこには、巨大な台座があった。

 いや、巨大な台座しかないというべきか。

 本来ならば、ここには、もう一つ特殊な宝物が置かれていたのだ。


 この『肝試し』のヌシ。

 災厄と呼ばれていた怪蛇。

 その巨大な頭蓋が、ここに鎮座しているはずだった。


 しかし、それがどこにもない。


「う、嘘だろ!?」


 ガダルは、青ざめた顔で周辺にランタンを向けた。

 けれど、どこに頭蓋はなかった。


「盗まれた!? なんで!?」


 激しく困惑する。

 どうしてあんなモノを盗む?

 そもそも、あんな巨大なモノを、誰にも気付かれずどうやって運んだのか。


(トンネルでも掘ったのか!?)


 そんな推測も頭をよぎったが、それよりもだ。

 今はこれを報告することが重要だ。


「た、大変だ! 大変だあッ!」


 そうして、出口に向かって駆け出すガダル。

 数十分後。

 彼の報告は、王城を震撼させた。

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