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クライン工房へようこそ!【第18部まで完結!】  作者: 雨宮ソウスケ
第16部 『巨樹の森の饗宴』①

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第七章 不変の湖➂

 大樹海の中を、《朱天》を先頭に鎧機兵たちは進む。

 流石に数回ほど魔獣とも遭遇したが、まだこの辺は大した魔獣もいないため、大きな戦闘になることもなく撃退できた。

 行軍は、順調に進んでいると言えた。

 そうして、


「おお~」


 ユーリィが瞳を輝かせた。

 不意に開けた場所。見上げると蒼い空。

 そこは、岸辺に大樹の根も浸かる広大な湖だった。


 ――『エルナス湖』。

 かつて魔獣・《業蛇》との決戦の地となった場所である。


「全然変わっていない」


 アッシュの肩に両手を乗せて、ユーリィが《朱天》のモニター越しに外を見やる。

 人の手が加えられていない澄んだ湖。

 周辺には、水を呑みに来た魔獣や獣の姿もあったが、《朱天》たちの姿に驚き、すぐさま樹海の奥へと消えていった。


「おし。特に問題は無さそうだな」


 アッシュも周辺に目をやった。

 すでに魔獣の影もない。人や鎧機兵の姿もだ。数チームはこの地にベースを置くかと思ったが、先客もいなさそうだ。

 いずれにせよ、危険はなさそうだった。

 アッシュは、水辺の近くまで《朱天》を移動させた。

 シャルロットの《アトス》も、ルカの《クルスス》、サンクたちも後に続く。

 そしてアッシュは《朱天》に両膝をつかせて、胸部装甲を開いた。

 アッシュは立ち上がると、振り返り、ユーリィを正面から抱きかかえる。

 ユーリィは「ん」と小さな声を零すと、アッシュにギュッと抱き着く。しっかり掴まっているのを確認してから、アッシュは地面へと飛び降りた。

 ユーリィを地面に降ろす。


「綺麗な湖ですね」


 と、そう告げてきたは、シャルロットだった。

 振り向くと、彼女も愛機から降りていた。

 その服装は普段のメイド服ではなく、藍色の操手衣(ハンドラースーツ)だ。


(……うわあ)


 武闘大会でも思ったが、やはりエロい格好(スーツ)である。

 ましてやシャルロットが着れば、その破壊力はサーシャにも劣らない。


「ホ、ホントです」


 シャルロットに続くのは、愛機・《クルスス》から降りたばかりのルカだった。

 肩にはオルタナを乗せている。

 あの子もまた山吹色で色違いではあるが、操手衣(ハンドラースーツ)を着ていた。

 前述する通り、このスーツはエロい。シャルロットにこそまだ届かないが、将来抜群のルカならば、今の段階でも相当な破壊力がある。


(……やっぱ、二人には上着ぐらいは着させるべきだよな)


 アッシュが思わず目のやり場に困っている。と、


「……………」


 ジト目のユーリィと視線が重なった。

 そして、ユーリィはジト目、無表情のコンボで、アッシュの脛を蹴る。


「そんなにデカいのがいいのか?」


 ドスの利いた声でそう尋ねる。


「い、いや、そういう訳じゃないぞ。ユーリィ」


 アッシュは頬を引きつらせた。

 確かに、こればかりには好みがある。

 サクヤ、オトハ、サーシャ、レナ。

 そしてシャルロットも。

 アッシュの愛しい女性たちは、まあ、全員素晴らしくはあるが――。

 ――ゴスッ、ゴスッ!

 ユーリィは、無言でアッシュの脛を蹴り続ける。

 アッシュは困っていた。

 すると、


「師匠」


 声が掛けられる。

 サンクの声だ。彼も、ビレル姉妹もすでに鎧機兵から降りていた。


「ここに拠点を置くんですよね?」


「あ、ああ。そのつもりだ」


 アッシュは、未だ足を蹴り続けるユーリィの腰を抱きかかえながら返答する。


「ユーリィ。とりあえず今は落ち着け」


「……むう」


 ユーリィは少し不満そうだったが、頷いた。

 アッシュは、ホッとしてユーリィを再び降ろした。

 それから、改めてサンクを始め、チームメンバーに声を掛ける。


「ここにテントを張ろうと思う。手伝ってくれ」


「はい」


 と、サンクが頷いた時だった。


「あ、それなら大丈夫、です」


 不意に、ルカがアッシュたちを止めた。

 二人のみならず、全員がルカに注目した。

 王女さまは、少しビクッとなったが、すぐに「え、えっと」と声を上げ、


「実は、用意していたモノが、あるん、です」


「用意していたモノだって?」


 アッシュが目を瞬かせた。

 ルカは「はい」と答えた。


「そ、その、仮面さんに褒めてもらいたくて」


 そんなことを上目遣いで告げる。

 どうやら、ルカは何かのサプライズを用意していたらしい。


「え、えっと、それじゃあ、オルタナ」


「……ウム! トッテクル!」


 そう叫んで、オルタナは飛んだ。

 が、すぐに戻ってくる。

 両膝を突く《クルスス》の元に飛んで、何かを取って帰ってきただけだからだ。

 オルタナは、嘴に銀色の短いロッドを咥えていた。

 ルカは、オルタナから、そのロッドを受け取った。


「え、えっと、ここら辺がいいかな?」


 ルカは、適当な広さのある場所を選んだ。

 そして、


「で、では行きます!」


 ロッドを構えて、ルカはそう叫んだ。

 ロッドを上から下へと振るう。

 アッシュたちが注目する中、ロッドは光を放ち、それは転移陣を描いた。

 どうやら、このロッドは召喚器のようだ。

 転移陣は輝く。

 そうして、そこから出て来たモノは――。


「? こいつは」「え? これって」「これは……?」


 全員が様々な反応を見せた。

 ただ、誰もが驚いている。

 ルカが召喚したモノ。

 それは、巨大な岩だった。

 鎧機兵さえも数機ほど納まりそうな、巨大な岩石である。

 まじまじと見やると、岩の一部に、ドアらしきモノもあった。

 これは何なのか。

 全員が分からなかった。

 しかし、その正体に一番早く気付いたのは、やはり職人であるアッシュだった。


「……へえ。もしかして……」


 そう呟き、アッシュは巨岩のドアに近づいて、そっと触れた。


「お、やっぱ、そっか。これって」


「は、はい!」


 ルカは、微笑んだ。

 そして、アッシュの傍に駆け寄って、こう告げた。


「これは『お(うち)』なんです」


 ――と。

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