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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第16部 『巨樹の森の饗宴』①

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第四章 決意の旅②

「……お(ねえ)


 不意に、声が零れる。

 それは馬車の中、長椅子に座るエイミーの声だった。

 スレンダーな肢体と、常にジト目なのが、印象的な女性だ。


「サンクの鼻が膨れてる。あれは何か意気込んでいるよ」


「そうね」


 そう答えるのは、妹の隣に座るジェシーだった。

 勝気な印象が強い釣り目な眼差し。

 白い騎士服の上からも、良いスタイルが分かる女性である。

 エイミーは、少し羨ましそうに姉の方を見た。


「……決めたのかな?」


 それから、自分の胸元を見やる。

 姉に比べると、ストンとしたラインだ。


「やっぱりお(ねえ)かな? お(ねえ)の方がスタイルもいいし、それに……」


 再び姉の方を見る。


「お(ねえ)は、サンクと同い年で同じクラスだったし。私よりも一緒にいた時間も長かったから、サンクはやっぱりお(ねえ)を選ぶと思うよ」


「……それは、どうかしらね」


 ジェシーは嘆息した。

 次いで、遠い目をする。

 二人して、幼馴染のサンクに告白したのは二年前のことだ。

 サンクはどこか天然も入っているが、ここぞというところで頼りになる少年だった。

『ラフィルの森』に迷い込んだ時、真っ先に助けに来てくれたのは彼だった。

 妹と共に、街の不良に絡まれた時は、彼が盾になってくれた。

 いつも、いつも、本当に危ない時には必ず助けてくれる人だった。


 そんな彼に、自分も妹も心惹かれた。

 だから、身分違いは承知の上で、気持ちだけは伝えようと考えたのだ。

 結果、二人ともフラれることになっても仕方がない。

 そう思っていたのだが、意外にも、サンクは自分たちを幼馴染としてだけではなく、女性としても見てくれていたらしい。


 そのこと自体は、とても嬉しかったのだが……。


『す、少し考えさせてくれ』


 その時から、サンクは悩み始めた。

 ジェシーにしても、エイミーにしても、目を丸くする事態だったが待つことした。

 フラれる可能性が一番高いと思っていたのだ。待つことぐらい何でもない。

 まあ、流石に、それが二年も続くとは思ってもいなかったが。

 ジェシーは小さく嘆息してから、


「サンクは何だかんだでエイミーの方に気をかけていたわ。選ぶのはあなたの方よ」


 妹を一瞥して、そう告げる。

 サンクにとっては、エイミーは可愛い妹分でもある。

 その分、ジェシーに対する時よりも、明確な愛情を示すことが多かった。


「「…………」」


 二人とも無言になる。

 今回の任務。

 これが終われば、二人には見合いが待っている。

 二人の見合い相手は、どちらも格上の爵位持ち貴族だ。資産も申し分なく、父もかなり乗り気だ。恐らく話はトントン拍子に決まるだろう。

 その後、彼女たちは、それぞれ伯爵家と男爵家に嫁ぐことになる。

 仮に、サンクが、二人の内のどちらかを選んだとしても。

 確実に、どちらかは、サンクではない男性の妻になるということだった。

 ジェシーとエイミーは、視線を微かに伏せた。


「……この任務が」


「うん。多分、三人で過ごせる最後の時間……」


 この最後の時間を与えてくれた《夜の女神》さまと、国王陛下と王女殿下には、本当に感謝しなければならない。

 ジェシーも、エイミーも、感謝と共に王女殿下を守り通す心構えだった。

 ただ、それと同時に密かな願いもある。

 ジェシーは想う。


(サンクには、エイミーを選んで欲しい)


 妹には幸せになって欲しかった。

 一方、エイミーも想う。


(サンクには、お(ねえ)を選んで欲しい)


 姉には幸せになって欲しかった。

 二人は、本当によく似た姉妹だった。

 それゆえか、心の奥に秘めた想いまで同じだった。


(もう結婚は避けられない)


 ジェシーは、熱を帯びた眼差しで、サンクを見つめる。


(私は別の人のところに嫁ぐことになる。けれど……)


 エイミーは、情熱を秘めた瞳で、サンクを見つめた。

 幼馴染の青年は、両腕を組んで沈黙していた。


(……せめて)


 ジェシーとエイミーは熱く想う。


(……初めて(・・・)の夜だけは(・・・・・)……)


 そこまで思ったところで、姉妹は同時に顔を赤く染めた。


(サンクは、エイミーの恋人になる人だけど)


(サンクは、お(ねえ)の恋人になるけれど)


 二人は、熱い吐息を零す。


(でも、これぐらいは……)


 姉妹は、揃って口元を片手で押さえた。


(最後の思い出ぐらいなら、別にいいよね?)


 カアアアっと耳まで赤くする。

 顔を赤くするタイミングまで同じ。本当に息がピッタリだった。

 ちなみに、サンクが二人を嫁さんにすると、心の内で叫んだのはこの時だった。


(う、うん。私は今回の機会に……)


 ジェシーは拳を強く固めた。


(私はこの機会に……)


 エイミーも拳を固めた。


(選ばれなくてもいい。ただ、私は……)


 願うのは、これからの長い人生でも色褪せない思い出。

 二人は、同時に熱い眼差しをサンクに向けた。

 自分の決意に意気込んでいるサンクは、全く気付かないが。


((……サンクとの思い出を作る!))


 二人の女中騎士は、そう決意していた。


(二人とも、絶対に幸せにするからな!)


 と、サンクも決意していた。

 王女殿下を守る精鋭の騎士たち。

 中々どうして拗らせた想いを持つ者たちだった。

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