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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第15部 『女神たちの闘祭』②

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第七章 極光の意志①

「……お見事であります」


 青門の選手控室。

 シェーラ=フォクスは、ポツリと呟いた。

 彼女の視線は、モニターに向けられていた。

 そこには、観客席に手を振るサーシャ=フラムの姿があった。

 シェーラにとっては、未来の義娘である。


(まさか、叔父さまのご息女が決勝の相手だなんて)


 正直、この展開は予想していなかった。

 優勝候補と言ってもよかった、あのレナ選手を降すとは……。


(流石は、叔父さまのご息女。不屈の闘志はそっくりであります)


 ともあれ、最後に立ちはだかるのは娘だということだ。

 運命とは、皮肉なものである。


(ですが、これは良い機会かもしれません)


 シェーラは、静かに目を閉じた。

 義娘に認められてこそ、真の義母と言えよう。

 ここで、未来の義娘の信頼と尊敬を得るのは良いことだった。

 だが、その前に――。


「……まずは、シェーラも彼女と同じ舞台に立たねば話になりません」


 未来の義娘は、見事に成し遂げた。

 ならば、義母が続かなくてどうするのか。

 シェーラは面持ちを改めた。

 すると、

 ――コンコンと、控室のドアがノックされた。


「失礼します。フォクス選手」


 おもむろに控室のドアが開いて、女性スタッフが入室してくる。


「そろそろ出場のお時間です」


「分かりました」


 シェーラは力強く頷いた。


「では、ご武運を」


 女性スタッフが、恭しく頭を下げてそう告げる。

 シェーラは再び頷くと、開かれたドアをくぐった。

 これから行うのは、準決勝・第二試合。

 そこに立ちはだかるのは、まごう事なき、最強の騎士だ。

 勝ち目はほとんどない。

 だが、それでも――。


(シェーラは負けられないのです)


 コツコツ、と入場門へと続く煉瓦造りの廊下を歩く。

 ロクに闘技も知らなかった自分を、ここまで鍛え上げてくれた師。

 昨夜、素晴らしい贈り物をしてくれたゴドー叔父さま。

 困難を成し遂げて、決勝で待つ未来の義娘。

 何よりも、愛するアラン叔父さまのため。

 負けることは、出来なかった。


「シェーラは、勝ちます」


 小さくそう呟き、シェーラは門をくぐるのだった。




(……シェーラ)


 その様子を、アラン=フラムは観客席から見つめていた。

 自席に着き、指を組んで愛弟子を見やる。

 青門の前に立つシェーラ。

 あまり表情を変えないため、周囲には不愛想だと思われがちの娘だが、緊張していることは、師であるアランにはよく分かった。


 ――準決勝・第一試合。

 アランの愛娘は、見事に勝利と掴み取った。


 それも、明らかな格上相手にだ。

 愛娘の奮闘に、アランは大いに喜んだものだった。

 しかし、その興奮から一転、次は愛弟子の試合である。

 しかも彼女の相手もまた格上だった。


 アランは、視線を赤門に向けた。

 門の前に立つのは、真紅の操手衣を着た赤い髪の女性。

 腰に片手を当てて、不敵な笑みを見せる美女である。


 ――ミランシャ=ハウル。

 騎士の大国、グレイシア皇国の上級騎士である女性だ。


 その実力は圧倒的だ。仮にアランが挑めば瞬殺されるかもしれない。

 そんな人物が、愛弟子の対戦相手なのである。


(……シェーラ)


 アランは再びシェーラを見やり、渋面を浮かべた。

 出来ることならば、勝って欲しい。

 愛娘と愛弟子が、決勝に臨む。

 実に喜ばしいことだ。

 だが、シェーラの苦戦は免れないだろう。

 そうなってくると、


(シェーラ、怪我だけはするなよ)


 祈るように思う。

 勝利よりも、どうしてもそれを先に祈ってしまう。


(無茶だけはするんじゃないぞ。お前の無事こそが一番大事なんだからな)


 心の中でそう思いつつ、アランは改めてシェーラに視線を向けた。

 シェーラは真剣な表情で、ミランシャを見据えていた。

 そんな彼女を、まじまじと見つめる。

 しかし、それにしても……。


(シェーラは本当に綺麗になったな)


 懐かしむように目を細める。

 幼い頃は、どちらかといえば痩せすぎな子だった。

 今でもスレンダーな娘ではあるが、年齢相応に成長したと思う。

 顔立ちは凄く綺麗になったし、何より、あの紫色の操手衣が際立たせる、腰つきや脚のラインは、とても女性らしくて艶めかしく――。


(……おいおい)


 おもむろに、アランは自分の額を手で打った。

 思わず、眉をしかめた。

 ――全く、何を考えているのやら。

 愛弟子を邪な目で見る自分に呆れ果ててしまう。

 しかし、こんなことは初めてだった。

 今まであの子をこんな目で見たことはないというのに。


(なんでまた急に?)


 疑問を抱く。シェーラを見ると、ついその美しさに目を奪われてしまう。

 もしや、これは、あの操手衣とやらの影響なのだろうか。

 正直に言って、あの服はアランの目から見てもエロすぎる。シェーラのみならず、愛娘まで身に着けている事実にも、ハラハラするぐらいである。

 いや、そう言えば、ゴドーが前日、選手の中で誰が好みかなど聞いていた。

 むしろ、そちらの方に影響されたのかも知れない。


「……あいつと悪ノリすると、どうも調子が狂うからな」


 小さく嘆息する。

 同時に深く反省もした。

 これから戦うシェーラに対して、あまりにも失礼な行為だった。


「ええい! しっかりしろ、俺」


 パンッと両手で頬を叩く。

 と、そうこうしている内に、シェーラたちは互いの愛機を召喚した。

 アランもよく知る《パルティーナ》と、白い騎士型の鎧機兵だ。

 二人と二機を紹介する司会者の口上が響く。

 会場が「「「おおおおおおおおおおおおおおおッ!」」」と沸いた。

 アランも、真剣な顔で舞台を見据えた。

 シェーラの《パルティーナ》が、長尺刀を身構えた。

 対する白い鎧機兵も、盾と長剣を構える。

 一触即発。

 二機は、静かに対峙していた。


「――シェーラ!」


 アランは、立ち上がった。

 そして両手を口元に当てて、大声で叫んだ。


「頑張れ! 頑張るんだ、シェーラ!」

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