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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第15部 『女神たちの闘祭』②

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第三章 激闘①

 ……ゆっくり、と。

 白い鎧機兵は、長剣の切っ先を上げた。

 対峙する鎧機兵の両腕には、反りの入った二本の短剣が握られている。

 分類としては軽装型。

 頭部にある一角獣のような角が印象的な、菫色の鎧を纏った鎧機兵。

 アリシアの愛機・《ユニコス》である。


 《ユニコス》は、双剣を下げたまま構えていない。

 一方、白い鎧機兵――サーシャの《ホルン》は円盾も身構えた。

 盾を前に、長剣を水平に。刺突の構えだ。

 闘技場は静寂に包まれていた。

 大勢の観客が、誰一人声を上げない。

 実況すべき司会者も、二機の動きを静かに見守っていた。

 そして――。

 

 ――ズガンッッ!

 雷音が轟く!


 《ホルン》が《雷歩》で地を蹴り、真っ直ぐ跳躍したのだ。

 その勢いのまま全身で刺突を繰り出す!

 対し、《ユニコス》は、


『――ふっ!』


 右の剣を下段から振るった。

 二つの刃が交差する。

 ――ギィンッッ!

 火花が散った。途端、《ホルン》の突進の軌道が変わる。

 《ユニコス》が剣で方向を逸らしたのである。

 ――ガガガガッ!

 あらぬ方向に飛んだ《ホルン》は両足で地面を削り、勢いを殺した。

 そして竜尾を大きく揺らして、その場で反転。

 しかし、すぐに息を呑む。

 目の前に、左の剣を振り上げる《ユニコス》の姿があったからだ。

 態勢を整え直した一瞬の隙に、間合いを詰めて来たのだ。


『――ッ!』


 咄嗟に《ホルン》は円盾を構えた。

 直後に襲い掛かる強い衝撃。盾と剣の間に再び火花が散った。

 《ホルン》の両膝が沈み込んでいく。

 しかし、それでも斬撃は凌いだ。

 そうして続く、盾と剣による数瞬の拮抗。

 それを破ったのは、《ユニコス》の右の剣だった。

 すっと構えて、横薙ぎを繰り出そうとする――が、


 ――ガンッ!


 その前に《ホルン》が盾を払った。

 《ユニコス》が仰け反り、大きくバランスを崩す。

 刹那、《ホルン》はぐるんと反転した。

 白い竜尾が勢いよくしなり、《ユニコス》に襲い掛かる!

 ――が、 


 ――ズガンッ!

 次の瞬間、《ユニコス》の姿は消えていた。


 咄嗟に《雷歩》を使って後ろに跳躍。竜尾の一撃を回避したのだ。

 白い竜尾を、水中を泳ぐ大魚のように動かして、態勢を整え直す《ホルン》。

 間合いを取り直した二機は、静かに対峙した。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!」」」


 そこで初めて大歓声が上がる。

 観客の中には、興奮して立ち上がる者もいた。


『素晴らしい! まさに一進一退の息を呑む攻防です! 《業蛇》討伐の英雄同士! その実力は拮抗するのか!』


 と、司会者も声を張り上げる。

 二機は動くこともなく、互いの様子を窺っていた。

 操縦席で、サーシャは喉を鳴らす。


(アリシア……やっぱり強い)


 攻防としては、ほぼ互角。

 観客の誰の目にもそう映っただろう。

 しかし、それは見かけだけだとサーシャは感じていた。

 サーシャは最初から全力だが、アリシアの方にはまだかなり余力がある。

 初手は様子見。攻めとしては八割といったところか。

 それでようやく互角なのだ。

 一手でも読み間違えれば、瞬殺されていたかもしれない。

 まるで薄氷の上を歩いているような気分だった。

 操縦棍を握る手にも思わず力が籠る。

 緊張を隠せずにいた――。




(……サーシャ)


 一方、アシリアはアリシアで緊張していた。

 蒼い双眸を鋭く細める。

 初手の攻防。

 アリシアとしては、まだ全力ではない。

 サーシャの本気度を確認するため、あえて抑えた攻防だ。

 しかし、それを少し後悔する。

 サーシャの実力は、自分の想像以上だった。

 学校での模擬戦など参考にもならない集中力。

 普段ならば一撃ぐらいは当てられるというのに、すべて凌がれてしまった。

 今日のサーシャは、紛れもない強敵だった。


(探りなんてせずに全力で仕留めるべきだったかもね)


 微かに苦笑を零す。

 今の攻防で、サーシャは警戒するようになるはずだ。

 次は、より手強くなる。

 そう感じていた。


(けど、それが望むことでもあるしね)


 アリシアは不敵な笑みを見せて、グッと操縦棍を握りしめた。

 サーシャは強い。

 強者とのギリギリの攻防は、アリシアも望むところだ。

 そして、自分には十傑としての矜持もある。


(たかが学生の称号。けど、私にとってはそれなりに意味があるものなのよ)


 それは、アリシアの努力の成果だ。

 決して才能だけで得たものではない。自分は天才などではないのだ。


(だから、簡単には負けられないのよ!)


 アリシアは眼光を鋭くした。

 同時に《ユニコス》が大地を蹴った!

 《雷歩》を使った加速。

 双剣を十字に構えて、《ホルン》へと突進する!

 それを《ホルン》は長剣の刀身に左手を添えて、正面から受け止めた。


『――クッ!』


 大きく震える操縦席の中で、サーシャが強く歯を喰いしばる。

 交差する三つの刃。衝撃に互いの剣が軋んだ。

 さらに、


 ――ガガガガガガッ!

 全重量を乗せた《ユニコス》の突進は圧倒的だ。

 《ホルン》は火線を引きながら、後方に押しやられた。


『――《ホルン》ッ!』


 サーシャが愛機の名を呼んだ。

 途端、《ホルン》の両眼が光り、膝を曲げて重心を前に傾けた。

 火線は徐々に弱まり、《ユニコス》の突進は止められる。

 刻まれた線に、もうもうと土煙だけが残った。

 三本の剣を交差させた状態で二機は沈黙。

 ――が、


 ――ガンッ!

 渾身の力で《ホルン》が双剣を払いのけた。

 互いに後方に跳躍する。が、今度は間合いを取ることをしない。

 ほぼ同時に、二機は前へと跳躍した。


 そして――。

 ――ガギィンッッ!

 互いの愛機が、再び剣をぶつけ合う!


『行くわよ! サーシャ!』


『うん! 負けないよ! アリシア!』


 少女たちは叫ぶ。

 ――互いの想いを乗せて。

 今はただ、全力を尽くす時。

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