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クライン工房へようこそ!【第18部まで完結!】  作者: 雨宮ソウスケ
第15部 『女神たちの闘祭』②

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第二章 そして第二の幕が上がる③

 ――ガヤガヤガヤ。

 場所は変わって闘技場の観客席。


「お~い、早く早く」


「そろそろ始まっちまうぞ! 早く席に着けよ!」


「おおっ、こいつは一回戦から楽しみな組み合わせだな!」


 と、大いに盛り上がる観客たちの中で――。


「……う~ん、まさか、こういう組み合わせになっちまうとはな」


 腕と足を組んだアッシュは、ビッグモニターをまじまじと凝視していた。

 その表情は、少しばかり戸惑っているように見える。


「ミランシャとシャルに続いて、今度はメットさんとアリシアかよ……」


 モニターに映された対戦表には、彼女たちの名前が記されていた。

 それも第一試合からだ。

 ちなみに、対戦表にはすでに全員分の対戦が記されていて、ルカは前回の覇者であるシェーラ=フォクスと。ミランシャとレナは、それぞれ知らない選手と組まれていた。


 ミランシャとレナは、恐らく問題ないだろう。

 気になるのは、ルカの試合。

 そしてその前の、サーシャとアリシアの試合だ。


「そりゃあ、確かに当たる可能性は少なくはなかったが……」


 こうも早く当たるとも思っていなかった。

 同い年の幼馴染同士。不思議な縁があるのかもしれない。

 アッシュは苦笑を零した。

 と、その時、


「……アッシュは、どっちが勝つと思う?」


 アッシュの右隣に座るユーリィが尋ねてくる。

 アッシュはあごに手をやり、「そうだな」と言って対戦表に目をやった。


 ――アリシアとサーシャ。

 果たして、どちらの方に分があるのか……。


「……正直に言って、メットさんの方はともかく、アリシアの実力については、俺もそこまで詳しくねえんだよなぁ……」


 サーシャの講習ついでに、アリシアにも何度か指導したことはある。

 しかし、結局のところ、彼女はアッシュの弟子ではない。

 その実力のすべてを把握している訳ではなかった。


「むしろ、あの二人だったら、オトの方が予想しやすいんじゃねえか?」


 言って、左隣に座るオトハに視線を向けて尋ねた。

 彼女にとっては二人とも教え子である。

 オトハは「そうだな……」と呟いて瞳を細めた。


「総合力では明らかにエイシスだ。模擬戦では全戦全勝だったな。フラムはどうにも詰めが甘いところがあり、いつもそこを突かれている。しかし今回は――」


 オトハは、ちらりとアッシュを一瞥した。

 アッシュが「ん?」と眉をひそめたので、コホンと喉を鳴らした。


「今回の試合に対しては、フラムも気の入りようが違う。ほとんど実戦並みの集中力と言ってもいいだろう。そういった時のフラムは、とんでもない行動力を発揮する。それはクラインもよく知っているだろう?」


「……まあ、な」


 アッシュは困ったような顔で口角を崩した。

 サーシャのここぞという時の行動力は本当に凄い。

 と言うよりも、凄いのを通り越して心配になってくるほどの行動力だ。


「あの子には、本当に躊躇いのない時があるからな。空から鎧機兵で落下するとか。ちょっと不安でもあるんだが……」


 アッシュは腕を組み直して唸った。


「けど、そうなってくると、勝敗は見えねえよな」


 総合力、戦績においてはアリシアが圧勝だ。

 しかし、実戦並みに集中力を高めたサーシャの爆発力は侮れない。

 勝負としては、五分五分と言ってもいいかもしれない。


「それだと、応援する方としては難しいよね」


 と、アッシュより一席離れたサクヤが言う。

 彼女は隣に座るユーリィ越しに、指先をあごに当てた。


「昨日は、明らかにミランシャさんの方が格上だったから、応援がシャルロットさんの方に偏っちゃったけど、今日はどっちを応援すればいいんだろ?」


「……そうだよなぁ」


 それは、アッシュとしても悩ましいところだ。

 今回の大会で、ずっと懸念していた組み合わせとしては、サーシャが、ルカかアリシアとぶつかることだった。

 基本的にアッシュは、サーシャの味方をしたいと考えている。

 あの子が今回の大会に向けてどれほど努力してきたことか。

 それをずっと間近で見てきたのだ。

 仮にこの組み合わせになったとしても、サーシャを応援しようと決めていた。

 しかし、実際にその場面に立ち会うと、再び迷ってしまった。


 アリシアは、可愛い妹分だ。

 勝気な性格だが、気遣いも出来る子で色々なことで助けられている。

 ありがとうと言って頭を撫でると、少し恥ずかしながらもはにかむのだ。


 ルカは、アッシュにとって、この国の象徴のような子だ。

 平和そのものである少女。あの子が傍にいてくれるだけで優しくなれる。

 あの子の頑張っている姿を見ると、無条件で応援したくなる。


「……こいつはどうしたもんかなぁ」


 アッシュは嘆息した。

 すると、ユーリィが「……それなら」と呟いた。


「とりあえず、試合を見て負けそうになった方を応援すればいい」


「……確かに、それも一つの案だな」


 と、オトハが腕を組んで頷く。


「あえて公平を貫いて見守るというのもあるしね」


 続けて、サクヤがそう告げた。


「そうだなぁ……」


 アッシュはあごに手を置き、少し天を仰いだ。

 ――と、その時だった。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッッ!」」」


 突如、湧き上がる大歓声。

 アッシュたちは視線を舞台に向けた。

 と、そこには、二つの門から現れる操手衣(ハンドラースーツ)姿のサーシャとアリシアの姿があった。

 いよいよ二回戦・第一試合が始まるようだ。


「それにしても、あの衣服(スーツ)は本当にエロい……」


 ユーリィが、サーシャたちの姿をまじまじを見据えて、ポツリと呟いた。

 途端、アッシュの頬が少し強張った。


「……確かにな」


 オトハも呟く。こればかりは彼女も同感だった。


「あんなものを着せられることになるとは、フラムたちも災難なことだ」


「あはは、けど、オトハさんも似たような格好じゃない?」


 と、サクヤが言う。

 スタイルを強調する点では、オトハの服もあまり変わらない。

 すると、オトハはムッとした表情を見せた。


「何を言うか。私の服はうちの団服だぞ。装飾品もあの衣服(スーツ)よりも多いし、服として成り立っている。比べ、あれは明らかに下着(インナー)寄りだろう」


「う~ん……そうだよね。確かにあれは……」


 サクヤが呟く。と、その時、ふと気付く。


「どうしたの? アッシュ?」


 先程から、アッシュが少しだけ目を泳がせているのだ。

 幼馴染の彼女には、すぐに分かった。

 これは、何か気まずさを感じている時の彼の表情だった。


「……トウヤ?」


 サクヤは、あえてその名を呼んだ。

 アッシュは「お、おう……」と呟いた。


「……何か隠してない?」


 椅子から前のめりに身を乗り出し、長い黒髪を垂らして、サクヤがアッシュの顔を覗き込もうとする。その視線はずっとジト目だ。


「い、いや何も……」


 アッシュは喉を鳴らして視線を逸らそうとした。が、


「…………」


 逸らした先で、オトハと視線がぶつかる。

 彼女もまた、ジト目でアッシュを見つめていた。

 さらに言えば、ユーリィまでが半眼の視線を向けている。

 彼女たちの女の勘は、実に冴え渡っていた。

 アッシュは、ダラダラと汗を流し始めていた。


「……アッシュ」「クライン」「トウヤ……」


 三者三様に名前を呼ぶ。

 だが、それはすべて一人を示すものだった。


「う、それは……」


 アッシュは、息を呑んでから告げた。


「後で、その、話すよ。元々サクとオトには伝えるつもりだったしな……」


「………私は?」


 ユーリィが自分を指差した。

 アッシュは「う」と呻くが、


「わ、分かった。ユーリィにもだ。ちゃんと話すよ」


「……ん。分かった」


 とりあえず納得してユーリィは頷いた。

 オトハとサクヤの方はまだジト目だったが、ユーリィ同様に頷いた。


「話す気があるなら、まぁいい」「後でちゃんと聞かせてね」


 と、それぞれ告げる。

 アッシュはホッとした、その時だった。


『お待たせいたしました! それでは皆さま!』


 実況席から、司会者が声を張り上げて告げた。


『これより《夜の女神杯》二日目! 第二回戦を開催いたします!』

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