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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第14部 『女神たちの闘祭』①

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エピローグ

 会場が熱気に包まれる中。


「……これは、想像以上に、レベルが高かったな……」


 観客席にて、ホークスが唸る。


「特に……最後の試合。あれは、本当に凄かった。オズニアでいえば、二桁ナンバーの上位クラス同士の、戦闘だったな」


「……うん。そうだね」


 ホークスの隣に座るキャスリンが頷く。

 ちなみに彼女の左側には、仏頂面をしたダインも座っている。


「……これは、ちょっと上方に認識を改めるべきかな」


 キャスリンが、ポツリと呟く。

 次いで、舞台の中央で両手を振るミランシャを見据えて、率直な意見を告げる。


「特に、あのミランシャさんっていう人。レナの話だと、あの人もアッシュ君のハーレムメンバーらしいんだけど、彼女は本当に強いよ。多分、ぼくよりもずっと上だ。ちょっと冷や汗が出てくるね。あんなスムーズな構築系、初めて見たよ」


「……ああ」


 ホークスが首肯する。


「……彼女に関しては、操手としての腕は、別格。一桁ナンバークラスと言っても、いいかも知れん。どうも、機体に慣れていない、感じもしたが……」


「……うん。それはぼくも思った。もしかしたら、あの機体は、彼女の本来の愛機じゃないのかもしれないね」


 と、キャスリンも同意する。

 流石は現役の傭兵たち。彼らは、的確に戦況を見極めていた。


「なるほど。確かに、あのレベルなら、アッシュ君が出場を自粛させようとする訳だ」


 キャスリンが苦笑を浮かべた。それからあごに手をやり、


「けど、それなら、同じく自粛を受けたオトハさんも、あのクラスの腕前を持っているってことだよね。レナの審美眼はやっぱり凄いよ」


「……そうだな。あれなら、スカウトしても、おかしくはないな」


 ホークスが、腕を組む。


「……ダイン」


 そこでずっと沈黙しているダインに視線を向けた。


「お前は、何か、意見はないのか?」


「……オイラは」


 ダインが指を組んで呟く。


「レナさんの審美眼を疑ったことはないっす。あの姉ちゃんは確かに想像以上に強かったっすけど、その点はどうでもいいっす。それよりオイラは――」


 一拍おいて、ダインは観客席の一角を見据えた。

 丁度対角線上。ミランシャが笑顔で見つめている一角だ。

 そこには白髪の青年の姿があった。

 絶世と呼んでもいい二人の美女に挟まれた男だ。

 あれほどの美女たちを両脇に侍らせて観戦とは、何ともよいご身分である。

 ちなみに、あの男のすぐ傍には、別格の美少女の姿まである。

 聞いた話によると、クライン工房で出会ったあの少女までもが、あの男のハーレムメンバーとのことだ。要は、幼い頃から育てた愛人候補という訳だ。きっと、あの子の抜群な将来性に目を付けたに違いない。やっぱり最低なクズ野郎だった。


(あの野郎……)


 ダインは義憤も抱いて『敵』を睨みつけた。


「……あいつだけは認めねえっす。みすみすレナさんを渡す気はねえっす」


「……へえ」


 キャスリンが、感心の声を上げた。


「言うじゃないか。ダイン君。男の子だね」


「まあ、その点は……お前の努力、次第かもな。頑張れ」


 ホークスも、苦笑を浮かべつつも応援する。


「――分かっているっす!」


 ダインは、グッと拳を固めて立ち上がった。


「レナさんの男になるのは、このオイラなんすから!」


「おお~」


 いつにない覇気を見せる後輩に、キャスリンは拍手を贈った。

 ホークスも「ようやく、火が点いたか」と笑っている。


「覚悟するっす! アッシュ=クライン!」


 ダインは、ビシイッとアッシュを指差した。


「オイラは必ずレナさんを守る! お前を倒してみせるっすよ!」


 勇ましい宣戦布告。

 ホークスは優しげに目を細め、キャスリンは瞳を輝かせて拍手を贈った。

 ただ、たまたまそこに居合わせた周囲の観客たちは、


「え? なんでこいつ師匠に喧嘩売ってんの?」「ミランシャちゃんのファンか?」「つうか、なんつう命知らずな宣言だ」


 と、小声で囁いていた。


「レナさん! 見ていてくださいっす!」


 ともあれ、ダインは宣言する。


「レナさんを幸せにするのはオイラっすから!」



       ◆



「……へえ」


 ダインが勇ましい決意表明をしていた頃。

 レナは選手専用の待機室で、感心の声を零していた。

 大きな胸を支えるように腕を組んで、モニターに映されたミランシャの姿を見やる。

 そうして数秒後、おもむろに笑みを見せた。


「……マジで強えな。ミランシャの奴」


 最後の試合。

 シャルロットも相当な実力者だったが、ミランシャは別格だ。

 アッシュが、彼女とオトハだけは自粛を促したのもよく分かる。

 恐らく、キャスリンたちも同じ意見だろう。

 たかが田舎の武闘大会と侮っていたかもしれない。


 ――ミランシャ=ハウルは、恐ろしく手強い。

 紛れもなく、超一流の操手である。


 しかし、


「けど、負けるつもりはねえけどな」


 レナは、緋色の双眸を細めた。

 ミランシャの戦いで分かったこと。

 それは、あの機体は、ミランシャの愛機ではないということだ。

 このモニターは操縦席も映すので、実に分かりやすかった。

 あの機体は、明らかにミランシャの反応についていけていない。

 モニターに映ったミランシャの歯噛みする表情が、それを物語っていた。

 後半ではかなり調整したようだが、それでも十全とは言えない反応だった。

 もし、ミランシャが本来の愛機で出場していたら、レナでも苦戦は必至。勝敗は見えなかったことだろう。ミランシャは、それほどの腕前を持っている。

 しかし、本来の愛機でない機体に後れを取るほど、レナは甘くはない。


「そう言う意味では残念だったな。ミランシャ」


 自身の勝利を確信して、レナは呟く。

 ここまでの八試合。

 全員の試合を見てきたが、やはり優勝は自分のものだと思った。

 ただ、それは確定事項としても、今回の大会は想像以上に豊作でもあった。

 出場選手たちのレベルが、素晴らしく高かったのだ。

 ミランシャ以外にも注目したのは四人だ。


 まずは、サーシャ。

 アッシュの弟子だけあって基礎力は素晴らしい。体力もあり、長時間戦闘にも優れているようで自力の高さが窺える。基本に沿った戦術も王道だった。レナの経験上、この手のタイプが最も手強いものだ。


 次に、ルカ。

 この国の王女さまらしいが、意外なぐらいに強い。恐らく《黄道法》にもかなり精通している。鉄球を自在に操るトリッキーな戦法は、とても印象に残った。


 続いて、アリシア。

 彼女はすべてにおいてレベルが高い。戦術眼に操手としての腕前。咄嗟の判断力。どれをとっても光るものがある。天才肌の少女だ。


 最後の試合、シャルロット。

 本業はメイドさん。レナもメイド服を着た彼女とは会っている。

 しかし、その実力は一流の傭兵並みだ。下手をすればホークスにも届き得る。相手がミランシャでなければ、彼女が最大の強敵だったことだろう。


「う~ん……」


 レナは、あごに手をやって唸った。


「サーシャは確定でいいけど、目移りするなあ……」


 今回、レナは団長として《フィスト》の規模を拡大するつもりだった。

 そこへ、これだけの逸材たちを目の当たりにしたのだ。

 しかも、全員がアッシュのハーレムメンバーである。


「王女さんのルカや、皇国の公爵令嬢って話のミランシャは無理かもしんねえけど……」


 レナは、にぱっと笑った。


「――うん! とりあえず、この大会が終わったら全員誘ってみっか!」


 一人でも多い方がアッシュも嬉しいだろうしな。

 そう呟きつつ、モニターに視線を向けた。

 すると偶然なのか、モニターは観客席の一角を映していた。

 そこには白髪の青年の姿があった。


「……アッシュ」


 レナは優しげに瞳を細めた。

 次いで、胸元で片手をグッと握りしめる。

 彼の姿を見ただけで愛しさが込み上げてくる。


「……うん」


 レナは頷いた。


「アッシュ。待っててくれよな」


 彼女は、固めた拳を前に突き出した。

 そしてニカっと笑う。


「勝つのはオレだ。一緒に世界に出ようぜ!」





 第14部〈了〉

読者のみなさま。

第14部まで読んでいただき、誠にありがとうございます!

もし『少し面白そうかな』『応援してもいいかな』と思って頂けたのなら、

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とても励みになります!

今後とも本作にお付き合いしていただけるよう頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします!

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