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第六章 青き湖の地にて①

 ――何なんだ、これは……。


 あまりの惨状に、蛇は我が目を疑った。

 酷い。これは、あまりにも酷い。

 自分は急いでやってきた。空腹に耐え、必死の思いでここにやってきたのだ。


 なのに、この仕打ちはあんまりだ。

 本当に、この空腹は辛いのだ。辛くて辛くて、だが、それでもここにくれば獲物がいるからと、自分を鼓舞してようやく辿り着いたのだ。

 それが――何だこれは。喰らうつもりだった獲物はすでに血まみれ。とてもじゃないが喰えたものではない。まさに台無しなっている。


 だれが、こんなことをした? それは考えるまでもない。


 目の前の連中。あの硬い奴らだ。五匹もいる。

 きっとこいつらが寄ってたかって自分の獲物を襲い、台無しにしてくれたのだ。

 蛇は怒りの咆哮を上げた。

 許せない。こんな非道、絶対に許せない。

 殺してやる。こいつらは不味いから喰わない。ただ殺してやる。

 蛇は紅い眼光で敵を睨みつけた。

 鎌首を動かし、吟味する。そして決めた。

 まずはあの緑色。あの色は特に目障りだ。まずあの緑から噛み砕いて殺す。

 そして、蛇はゆらりと蛇体を動かした。



       ◆



 ――場は完全に凍りついていた。

 全く予期してなかった《業蛇》との遭遇。

 確かに《業蛇》の存在確認は任務の一つではあるが、こうも早く遭遇するなど誰一人思ってもいなかったのだ。全員が呆然としても無理はない。

 しかも、想定外は他にもあった。

 ビリビリと伝わる緊迫感。恐らくこの魔獣は――。



『……な、なあ、俺の気のせいか? 《業蛇》の奴、めっさ睨んでないか?』



 緑色の機体・《アルゴス》に乗ったエドワードが、震える声で呟く。

 対して、全員が沈黙で返した。そう。それこそが、全員の感じていたことだった。

 過去の資料によると、《業蛇》は鎧機兵には襲いかからないとある。理由までは不明だが、こちらから攻撃しない限り、目の前にいても無視してくるそうだ。

 しかし、今《業蛇》はその紅い双眸でこちらを見据えたまま動こうとしない。

 明らかに、こちらを意識している。



『お、おい、みんな、なんか答えてくれよ……なんか、あいつ、特に俺を――』



 と、エドワードが泣き出しそうな声を上げた時、



『ッ! オニキス! 前に倒れろ!』



 オトハの怒号が上がる。それは刹那の指示だった。

 突然のことに、エドワードはポカンとしていた――が、一週間の過酷な訓練がここでも成果を出した。彼は何も考えず、条件反射だけで鬼上官の指示に従ったのだ。

 《アルゴス》の巨体が勢いよく地面に倒れ込む。

 と、その直後だった。


 ――ゴウンッ!


 風を切る――否、風を呑み込む轟音が、《アルゴス》の真上を通過した。

 全員が息を呑んだ。咄嗟に回避に成功したが、《業蛇》がそのアギトで《アルゴス》に襲い掛かったのだ。もし、あと一秒でも指示に従う反応が遅かったならば、《アルゴス》は今頃《業蛇》の腹の中だっただろう。



「シャアアア……」



 大蛇が唸り声を上げる。極めて不機嫌そうな声だ。鎌首を動かし、再び《アルゴス》を睨みつける。《アルゴス》はひっくり返って腰を抜かしたような体勢になっていた。



「シャアアアアアアア――ッ!」


『ヒィ、ま、待て、お前、なんで俺だけ目の敵に!?』



 エドワードが堪らず悲鳴を上げるが、《業蛇》が答えるはずもない。

 蛇体を大きく動かして、今度こそ《アルゴス》を呑み込まんとしてアギトを開く。



『ッ! くそッ! この化け物めッ!』



 その光景を前にして飛び出したのは、ロックの乗る機体・《シアン》だった。



『待て! ハルト!』



 オトハが鋭い声で制止をかけるが、ロックは止まらない。愛機・《シアン》が大きく斧槍を振りかぶり、《業蛇》の蛇体に叩きつける――が、


 ――ギイイィン!



『くうッ!』



 盛大な火花が散り、斧槍は弾かれた。まるで金属の塊を殴りつけたような衝撃だ。

 だが、それでもロックは怯まない。一度でダメなら二度、三度と繰り返す。



『チイッ! なんて硬さだ!』



 と、思わずロックが呻き声を上げた時、



『――ハルト! 後ろに跳べ!』



 オトハの指示が再び飛ぶ。ロックもまたエドワード同様、条件反射で機体を後方へ跳躍させる。と、その瞬間だった。


 ――ズザザザッ。


 《シアン》の眼前にあった壁のような蛇体が、いきなり押し寄せてきた。痒みのような煩わしさを感じた《業蛇》が、蛇体をうねらせたのだ。

 直前に後ろへ跳んでいたので、ある程度衝撃は受け流せたが、それでも蛇体の動きに巻き込まれた《シアン》は大きく弾き飛ばされてしまった。



『ぐわあああッ!』



 そして、ドンッと大樹に叩きつけられた《シアン》はずるずると座り込んだ。



『ハ、ハルト!』


『大丈夫! ハルト!』



 サーシャの《ホルン》、アリシアの《ユニコス》が、《シアン》に駆け寄った。



『お、おい、ロック! 無事か!』



 未だ腰を抜かしたままのエドワードも声をかける。しかし、彼だけは《アルゴス》を動かしたくとも、《業蛇》に睨まれ身動き一つとれなかった。



「シャアアアアア……」



 邪魔者が消えたところで《業蛇》が改めて《アルゴス》を呑み込もうと大口を上げた。



『――ヒィッ!』



 エドワードが悲鳴を上げる。まずい、このままでは殺される! 胃の中に直行か、はたまたあの鋭い牙で串刺しにされるのか――。

 自分の未来の前に、エドワードは絶望した。



『い、嫌だああッ! 誰か、誰か助けて――』


『……ああ、今助けてやる。そのままそこにいろ』



 その時、誰かがぼそりとそう告げた。

 エドワードは呆然とした表情で声のした方を見やる。すると、そこには座り込む《アルゴス》を守るように、紫紺の機体――《鬼刃》が背中を向けて佇んでいた。



『……蛇よ。悪いが、私の教え子達に手出しはさせん』



 オトハがそう告げると、主の意志に呼応して《鬼刃》が前かがみに重心を沈め、剣の柄に右手をかけた。東方の大陸アロンにおいて『居合い』と呼ばれる構えだ。

 しかし《業蛇》は動じない。こんな小さな連中が何をしたところで自分の巨体の前では無駄と知っているからだ。むしろ、このまま二匹同時に喰らってやる!



「シャアアアアアアア――ッ!」



 大蛇は大口を開けて突進した。まずは目の前にいるこの不味そうな色の奴から。そして次に目障りな緑色だ。蛇はそう思っていた。

 ――だが、



『ふん。随分と無防備な奴だな。――フッ!』



 オトハが呼気を吐く。と、直後、《鬼刃》の手元から一筋の銀閃が走った。

 霞むような速度の横一文字。それは見事に《業蛇》の横っ面を捉えた。そして、ズンッと衝撃が走り、空気が振動する。



「ッ!? シャアアアアアアアッッ!?」



 絶叫を上げる《業蛇》。斬撃を受けた蛇自身はもちろんのこと、それを見ていた騎士候補生達も、等しく全員が驚愕した。

 《鬼刃》が持つ明らかに細い剣が、大蛇の巨体を軽々と吹き飛ばしたのだ。《業蛇》は同サイズの巨人にでも殴られたかのような勢いで頭部を横に加速させる。さらに巨大な蛇体も追従し、《業蛇》は次々と大樹をへし折りながら森の奥へと消えていった。

 そして、森に静寂が訪れる。

 あまりの光景に、騎士候補生達はただ呆然とするだけだったが……。



『――す、すっげええええ! 姐さん、すっげええええええ!』



 エドワードの絶叫を皮切りに、一気に騒ぎ出した。



『す、凄い……《業蛇》をあんな簡単に……』


『あ、あはは、ちょっと凄過ぎて現実味がないわね……』



 と、サーシャ、アリシアが感嘆の声をもらし、



『……ぐ、う。ははっ、流石に格の違いを感じてしまうな』



 ようやく意識を取り戻したロックも、皮肉めいた言葉を呟く。

 まさに誰もが驚く凄まじい一撃だった。

 しかし、教え子達から憧憬の眼差しを受けても、オトハの顔色は優れない。

 彼女はふうっと息を吐き、視線を《鬼刃》の持つ剣――アロンでは「刀」と分類される愛刀・「火桜(ひざくら)」の刀身へと移した。鋼鉄さえも斬り裂く銀の刀身は、わずかにだが刃こぼれをしている。



(……やはり固有種は硬いな。私の「火桜」でも斬れんとは……)



 オトハは刹那の間だけ悩み、そして決断した。



『……よし。お前達。今すぐここから撤退しろ』



 オトハは唐突な指示に、騒いでいた騎士候補生達は沈黙した。

 そしてサーシャが尋ねる。



『……どうしてですか? 《業蛇》はもう倒したのに……』



 楽観的すぎる少女の問いに、オトハは苦笑を浮かべた。



『固有種があの程度で死ぬものか。流石に脳震盪ぐらいは起こしたと思うが、ダメージはほとんど受けていないだろう。じきに奴はここへと戻ってくる』



 オトハの台詞に、サーシャ達は息を呑んだ。



『だからお前達は今すぐ撤退しろ。合流地点は元々今日のベースキャンプにする予定だった「エルナス湖」だ。そこで一泊し、明日、この樹海から脱出する』


 

 淡々としたオトハの指示に、アリシアが疑問の声を上げた。



『……え? 撤退は分かりますけど、合流って?』


『私と合流、という意味だ。私はここに残りお前達が安全圏まで撤退する時間を稼ぐ』


『『『ッ!』』』



 その宣言に全員が言葉を失った。そして、わずかな沈黙が訪れるが、その静寂を破ったのはロックだった。



『な、何故ですか隊長! 今《業蛇》はいない。この隙に隊長も一緒に逃げればいいじゃないですか!』


『そ、そうだよ! ロックの言う通りだ!』



 友人の言葉に、エドワードも相づちを打つ。

 しかし、オトハ――《鬼刃》はかぶりを振り、



『そうもいかない。奴は何故か最初から私達に敵意を抱いている。ここで姿を隠しても匂いが届く範囲にいる限りどこまでも追ってくるだろう』


『ど、どこまでもって……』



 サーシャがごくりと喉を鳴らす。他の三人は言葉もなかった。



『お前達はここを離れ次第、演習中断の信号弾を上げろ。そして、とりあえず湖――水辺まで行けば匂いは誤魔化せるはずだ。そこで私と合流。翌朝、極力奴と遭遇しない迂回ルートを選んで私達も撤退する。以上だ』



 オトハの声は最後まで淡々としていた。

 対して、サーシャ達は無言だった。果たしてオトハだけをこの場に残していいものか。

 と、そんな教え子達の迷いを感じ取り、オトハは《鬼刃》の中で苦笑を浮かべた。



『やれやれ、お前達。私を誰だと思っている。これでも《七星》の一人だぞ。たとえ相手が固有種でもそうそう遅れはとらないさ』


『で、でも……』 



 なお言い募ろうとするサーシャに、オトハは険しい表情を浮かべた。



『……悪いがフラム。もう話している時間もない』


『――え?』



 と、サーシャが唖然とした声を上げた時、


 ――ズザザザザッ。


 聞き覚えのあるざわめきが、森の奥から近付いてくる。

 サーシャ達の背筋が凍りつく。どうやら《業蛇》が脳震盪から復帰したらしい。



『さあ、早く行け』



 上官の命令に、サーシャ達はしぶしぶ頷いた。



『……分かりました。指揮権は一時、私が預かります。オトハ隊長、御武運を!』



 アリシアがそう告げる。続いてロックが『隊長、どうかご無事で』と。その後にエドワードが『姐さん、死なないで下さいよ!』と告げた。

 そして、三人の鎧機兵はその場から撤退する。が、最後の一人、サーシャだけは、



『……オトハ隊長』



 告げるべき言葉を悩み、その場に立ち尽くしていた。

 そんな少女に、オトハはふっと笑みをこぼし、



『……なあ、フラム。私は実はお前に言いたいことがある』


『……え、な、何ですか?』



 動揺した口調で問うサーシャに、オトハは少し拗ねたような声で言い返した。



『……お前、少しクラインに甘えすぎだ』


『……へ?』


『いくら弟子でもお前の場合は度がすぎてる。色々言いたいことがあるんだ。いいか、この話は後で絶対にするからな。分かったなら早く行け』


『は、はい』



 一方的にそんなことを言われ、サーシャは困惑した表情のまま去っていった。本人は気付いていないだろうが、約束を交わしたことで立ち去る決心がついたのだ。

 そうして、オトハは教え子達が全員立ち去るのを見届けた。



『……さて』



 彼女の愛機・《鬼刃》が、森の奥を見据える。



『そろそろ、か』



 と、オトハが呟いた瞬間、バリバリと木々を喰い破り、怒り狂う大蛇が姿を現した。その紅い眼光は凶悪な殺意に満ち溢れている。

 オトハはふっと笑った。これほどの殺気――緊張感は久しぶりだ。思えば、この国にやって来てから、自分は随分とぬるくなっていたのかもしれない。



(……まあ、それ自体は仕方がないんだが)



 なにせ、アッシュの前だ。「女」の自分が前面に出ても当然だ。かつての頃と違い、今の自分は「女」である自覚も持っている。好きな人の前では甘えたくもなる。

 だが、それでも自分は、やはり「戦士」でもあるようだ。

 命を掛けるに値する強敵を前にして、血が滾るのを抑えられない。

 オトハは、妖艶にも見える微笑を浮かべて呟く。



『……《業蛇》。実は、私はお前に感謝しているんだ』



 流れるような所作で《鬼刃》が刀を構えた。

 オトハの独白はさらに続く。



『どうも私のプランは雑でな。正直困ってたんだ。この先どうしようかと考えていた』



 ジリジリ、と《鬼刃》が間合いを詰める。



『だが、お前のおかげで上手くいきそうな気がする。そして、すまないと思うが、お前の命をここで奪ってしまえば、私は何の憂いもなくプランを実行できる』



 オトハの殺意を感じ取ったのだろう。《業蛇》が威嚇するような動きをし始める。

 そんな蛇を、オトハは優しげな眼差しで見つめ、笑みを深めた。



『本当にすまないな。だが、命をくれとは言わない。存分に抵抗してくれ。生きるために全力を尽くしてくれ。さあ、《業蛇》よ』



 そして、オトハは「戦士」の顔を告げた。



『――私と殺し合いをしよう』



       ◆



 かくして、《鬼刃》と《業蛇》が対峙している頃――。


 ズシン、と。

 大地を踏みしめ、一体の「鬼」が樹海入口付近を闊歩していた。

 殺気じみた気配さえ放っている、その「鬼」の正体は――鎧機兵。

 漆黒を基調にした異形の鎧。額から二本、獅子のような白い髪の中から、さらにもう二本生やした、紅水晶のような四本角が特徴的な鎧機兵だ。それに加え、鋭い牙が重なり合って閉ざされたアギトが、この機体に「鬼」の印象を与えているのだろう。


 この鎧機兵の名は――《朱天》。

 誉れ高き《七星騎》の一機。アッシュの相棒が、完全武装した姿であった。

 そしてこの鎧機兵に搭乗するのは、当然、アッシュ=クラインだ。



「……ここが『ドランの大樹海』か」



 周りを覆う巨大樹を見据えて、アッシュが呟く。

 この広大な森のどこかに、アッシュの愛娘――ユーリィがいるはずだ。

 結局、アッシュはユーリィの置手紙を見た直後、もう居てもたってもいられなくなり、急ぎこの森にまで駆けつけたのだ。

 アッシュは元来、自分には厳しく身内には甘い人間だった。実は今回のサーシャ達の遠征も、もしオトハが名乗り出なければ、密かに後からついていこうと考えていた。

 とにかく、それぐらい甘い人間だ。

 ましてや愛娘の危機となれば、ただ待つなど耐えられるはずもない。



「ったく。頼むから無事でいてくれよ」



 と、祈るように呟いた時、



「グルルル……」



 突如、そんな唸り声を聞いた。

 アッシュは樹の上を見る。そこには恐らく七セージル近い巨大な猿がいた。



「……何だ。《暴猿》か」



 アッシュは何の感慨も抱かずそう呟いた。

 と、そんなアッシュの態度が勘に障ったのか、《暴猿》がアッシュの愛機・《朱天》めがけて飛び降りてきた。サーシャ達の時と同じ。《暴猿》が得意とする先制攻撃だ。

 しかし、アッシュはまるで動じない。



「うざい」



 と、一言呟くなり、《朱天》が《暴猿》の足首を難なく空中で掴んだ。そして、混乱する大猿を問答無用で地面に叩きつける!

 ズズン、と大地が振動した。地面には亀裂が入り、繁みに隠れていた周囲の小動物は何事かと一斉に逃げ出した。

 そして、アッシュは冷めた瞳で大猿の姿を見据え、



「……悪りいな、俺は今、虫の居所が悪いんだ」



 と、淡々とした口調で呟く。

 しかし、その声は《暴猿》には聞こえていないだろう。大猿は仰向けの状態で土の中に半ば埋もれていた。盛んに身体を痙攣させてはいるが、それ以上動く気配はない。

 アッシュは瀕死の《暴猿》を無視して《朱天》を奥地へ向かわせる。

 ズシン……ズシン、と響く足音。

 そうしてしばらく歩いて、見通しのよさそうな場所を見つけると、



「よし。ここなら集中出来そうだ。一度探りを入れるか」



 と言って、早速アッシュは額に意識を集中させる。

 彼が今使っているのは人の気配を感知する《星読み》という技法だ。《万天図》の十倍の探査範囲を誇る技法なのだが、欠点もある。



(……うわあ、うんざりする数だな)



 アッシュは、思わず眉間にしわを寄せた。

 この技法。人のみならず獣や魔獣、さらには昆虫まで対象になるのだ。

 現在アッシュの脳裏には、大小数え切れないほどの《星》が瞬いていた。



(うう、これは流石にめまいがしてくるな……っと、いた!)



 無数の《星》の中で一際輝く《星》が一つ。《星読み》で感じ取れる気配には個人差があるのだが、ここまで大きな気配は《金色の星神》であるユーリィしかいない。

 アッシュはホッと安堵の息をもらした。

 かなり奥地にいるようだが、少なくとも無事のようだ。

 そして、ユーリィがこんな場所まで一人で行ける訳もないので、すでにサーシャ達と合流しているはず。ならばオトハがいる以上、ユーリィの安全は保障されたものだ。



「まったく。あいつは……」



 少し安心すると、愚痴もこぼれてくる。



「まあ、後でたっぷり説教はするとして」



 アッシュは、とりあえず感知したユーリィの居場所を、直前に頭の中に叩き込んだ「ドランの大樹海」の地図と照らし合わせてみる。

 そして、しばし沈黙した後、アッシュはぽつりと呟くのだった。



「……ここは、湖か? 確か名前は――『エルナス湖』だったか」

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