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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第14部 『女神たちの闘祭』①

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第五章 宣戦布告②

「どうやら二人ほど、先客がいますね」


 裸体をタオルで隠して、ジェシカが言う。


「そうなんだ」


 そう言って続くのは、同じくタオルで裸体を隠したサクヤだ。

 サクヤは、視線を大浴場の湯船に向けた。

 湯船には二人の先客がいた。

 一人は二十代前半。長い薄紅色の髪が印象的な女性だ。

 もう一人は少女だった。

 年の頃は十四、五歳ぐらいだろうか。

 緋色の眼差しと、ところどころ外に飛び出すアイボリーの髪が目に映る。


 彼女たちは、こちらをじいっと見つめていた。


(……あれ?)


 サクヤは、ふと眉根を寄せた。

 どうしてか、奇妙な既視感を覚える。

 特にアイボリーの髪の少女。彼女はどこかで見たような……。


「……? あなた、どこかで……?」


「――お、お前!」


 すると、その少女はバシャアッと湯船から立ち上がり、目を剥いた。


「サクか! サクヤなのか!」


「え」


 小柄な少女とは思えない見事な果実に、思わず目を奪われたサクヤだったが、突然名前を呼ばれてキョトンとする。

 隣に立つジェシカが、そっと尋ねる。


「サクヤさま? お知合いの方ですか?」


「え、えっと、あれ?」


 サクヤは、すぐには答えられなかった。

 そうこうしている内に、湯をかき分けて少女がサクヤに近づいてきた。


「ちょ、レナ! 知り合いかい?」


 相手側の連れであるらしい薄紅色の髪の女性が、声を上げた。

 サクヤは眉根を寄せる。


(……レナ?)


 どこか聞き覚えのある名前だ。

 記憶を探ろうとするが、その前にレナと呼ばれた少女がサクヤの前に立った。

 そしてニカっと笑う。


(……あ)


 その笑顔に、サクヤは思い出す。


「――レ、レナ!?」


 思わず、その場にタオルを落として目を剥いた。


「昔、トウヤの家で世話になっていた?」


「おう! そのレナだ! 久しぶりだな! サク!」


「え、ええええェ!?」


 サクヤは狼狽した。レナを生まれたままの姿を上から下まで確認して。


「なっ、なんでっ!? 全然見た目が変わってないよ!?」


「おう! アッシュにも言われたぞ。けど、それはサクだって同じじゃねえか」


 今度は、レナがサクヤの姿に、まじまじと目をやった。


「サクって確かアッシュより年上だったよな? 全然変わってなくて驚いたぞ」


「え、えっと、私には一応理由があるんだけど、えええェ……」


 サクヤは、ただただ茫然としていた。

 すると、


「あの、サクヤさま」


 ジェシカが尋ねてくる。


「やはりお知り合いの方だったのですか?」


「あ、うん。そうだけど……」


 サクヤは困惑した様子で返す。と、


「う~ん、それはぼくも聞きたいな」


 いつしか、薄紅色の髪の女性まで目の前に立っていた。

 彼女もまた、サクヤをまじまじと見つめた。


(……これはまた、とんでもないレベルだね……)


 内心で唸る。

 美貌、肌の艶、プロポーション。どれをとっても格が違う。

 キャスリンは、コホンと喉を鳴らした。 


「……十代にしか見えないんだけど、君がサクヤさんなのかい?」


「え、あ、はい。あなたは……?」


 サクヤがそう尋ねると、キャスリンは苦笑を浮かべて名乗った。


「レナの仲間さ。名前はキャスリン。家名は……まあ、今はないよ」


 それからジェシカの方にも視線を向けて。


「とりあえず、まずは互いの自己紹介と行こうじゃないか」




 そうして五分後。

 四人は軽く互いの自己紹介をした後、揃って湯船に浸かっていた。


「……そう」


 サクヤは嘆息した。


「トウ……アッシュとは、もう再会してるんだ」


「おう! 運命を感じたぜ!」


 レナは親指を立てて、そう答える。

 サクヤとしては、頬を強張らせるだけだ。

 レナの存在は記憶にはあった。

 ある意味、サクヤが最初に危機感を覚えた少女である。

 しかし、クライン村が無くなってしまった今、まさか、こうして再び出会う機会が来るとは想像もしていなかったのだ。


(トウヤ……あなたの引力ってどうなっているの?)


 呆れ半分、諦め半分の気分で、そう思ってしまう。

 一方、レナはレナで落ち着かなかった。

 それは、サクヤに対してではなく、ジェシカに対してだった。


「な、なあ、ジェシカ」


 レナは、ジェシカに尋ねた。


「……? 何でしょうか?」


 ジェシカが、訝しげに眉根を寄せる。と、


「あのさ、ジェシカは……アッシュのハーレムメンバーじゃねえよな?」


「……………は?」


 ジェシカは、目を瞬かせた。レナはしどろもどろに補足する。


「いや、だってジェシカも綺麗だし、胸も大きいし。サクとも親しそうだから」


「……いえ。私は……」


 レナの問いかけに、ジェシカが何とも言えない顔をすると、


「いえ。それはないわ」


 サクヤが、パタパタと手を振ってフォローを入れてくれた。

 ジェシカは、少しホッとするが、


「だって、ジェシカはコウちゃんのハーレムメンバーだし」


「――サクヤさま!?」


「へ? そうなのか?」レナはキョトンした。「コウちゃんって、アッシュの弟のコウタのことだろ? あのちびっこい」


 サクヤは苦笑を浮かべた。


「あれから八年も経っているのよ。コウちゃんも成長しているわ。もう十六歳なのよ」


「そっかあ……そうだよな」


 レナは昔を懐かしむように、あごに手をやった。


「オレの妹もデッカくなってたしな。コウタもデカくなるか」


「……いや、今の話だと、アッシュ君の弟君もハーレムを築いているのかい?」


 と、ツッコミを入れたのは、キャスリンである。

 視線はジェシカに向いている。


「い、いえ、その、我が君……いえ、コウタさんは……」


 ジェシカは、何も答えられなかった。

 それだけで状況を知るには充分だった。


「ははっ! コウタもモテるようになったんだな!」


 一方、レナは平常運転である。


「一度会ってみてえな。けど、安心したぜ」


 レナは、ニカっと笑った。


「サーシャとか、オトハとか、すげえレベルばっか見てたからな。ジェシカまで加わってたら、またヘコむところだったぜ」


「……いえ。あのね。レナ」


 サクヤは、ジト目で自分を指差した。


「私のことを忘れてないかな? トウヤの婚約者である私のことを」


「あ、そっか」レナはポンっと手を打った。「そんじゃあ、サクも、ハーレムメンバーの一人なのか?」


 一瞬の沈黙。


「――なんでそうなるのっ!」


 サクヤは、バシャンッと湯面を叩き、湯船から立ち上がった。

 その様子に、キャスリンは失言だと思った。


「レナ。流石にそれは失礼だよ。そもそも、アッシュ君がハーレムを築いているってのもただの噂で……」


「私は『正妻』なの! メンバーの一人みたいな言い方はしないで!」


「……ああ、怒ってる点はそこなのかぁ」


 キャスリンは、額に手を当てた。

 サクヤは鼻息も荒く、再び湯船に浸かった。

 しかし、脱力するキャスリンとは対照的に、レナは気軽に尋ねてくる。


「それよりサク。結局、アッシュのハーレムメンバーって、どんなのがいるんだ?」


「……むむ」


 見た目も性格も昔と全然変わらないレナに、サクヤはやや不満げだったが、


「私を含めて八人――」


「あ、オレも含めてもいいぞ」


「……九人よ」


 サクヤは嘆息した。


「レナの直感通り、サーシャちゃんとオトハさんもそのメンバーよ。あと、クライン工房ではユーリィちゃんとも会ったのよね?」


「おう。アッシュの養女だよな」


 レナは頷く。


「あの子もそうなの」


「えっ、そうなのかい?」


 キャスリンが目を剥いた。レナの方も眉根を寄せて呟く。


「そうだったのか。まあ、確かにあの子もすげえ綺麗だったしな。けどよ」


 レナは「う~ん」と腕を組んで唸った。


「まあ、オレの故郷だと、十二、三歳ぐらいの娼婦ってのもいたけどさ。あんなちっこい体だと、アッシュの夜の相手なんてまだキツくねえか? クタクタになるまで念入りに愛撫しても、入れてる最中で泣き出したりしねえか?」


「そんな生々しい話はしないで!?」


 サクヤは思わず叫び声を上げた。顔も羞恥で赤くなる。

 キャスリンも「……レナ。君、本当に処女なのかい?」と眉をしかめ、まだ経験のないジェシカは、無言のまま耳だけ赤くしていた。


 ともあれ、サクヤは小さく嘆息して。


「……流石にユーリィちゃんはまだそこまでは行ってないよ。トウヤはあの子のことを本当に大切にしているし、そういうことは、あの子はみんなの中でもきっと最後だよ。まだまだ先のことかな?」


 と、告げてから、コホンと喉を鳴らした。


「そ、その、一応言っとくけど、今のところ、トウヤとエッチをしたことがあるのは、私と……オトハさんだけだからね」


「そうなのか?」


 レナは、まじまじとサクヤを見つめた。

 サクヤは恥ずかしそうに言う。


「う、うん。ハーレムって言っても、トウヤに自分の女宣言されているのは、私とオトハさんだけだし。もう一人だけ特例っぽい人もいるけど、他の人たちは、まだキスもしてないはずだよ。これから頑張るって感じかな」


「……ふ~ん」


 レナは、あごに手をやって考え込んだ。

 サクヤとオトハの容姿を、脳裏に思い描く。

 そして、


「なあ、サク。二つ聞いてもいいか?」


「な、なに?」


 色々な意味で流石に熱くなってきたのか、サクヤは頬を手で扇いでいた。


「残りのメンバーでおっぱいが大きいのはいんのか?」


「なんか凄い質問が来たわね……」


「いいから答えてくれよ」


 レナの顔は真剣だ。サクヤは仕方がなく答えることにした。


「……そうね。私やオトハさんとほとんど同じぐらいの人が一人。さっき言った特例の人だよ。あと、今の段階でも結構大きいけど、将来的には、私やサーシャちゃん並みになりそうな子が一人かな」


「……そっか。強敵だな」


 レナは少し視線を落とした。

 が、すぐにサクヤを再び見つめて。


「もう一つ教えてくれ」


 ガッ、とサクヤの両肩を掴む。


「な、なにかな?」


 レナの気迫のようなものにサクヤは圧された。

 そして、レナは問いかけた。


「アッシュは、大きなおっぱいが好きなのか?」


 ………………………。

 ………………。

 …………。

 長い沈黙。

 サクヤも、キャスリンも、ジェシカも。

 レナ以外の女性が全員、遠い目をした。

 気まずい沈黙。

 しかし、それさえもレナは気にしなかった。


「なあ、答えてくれよ。重要なことなんだ」


 ブンブンとサクヤの頭を揺らす。


「ちょ、ちょっと止めて。確かに重要だと思うけど……」


 とりあえず、レナの両手を掴んでサクヤは言う。

 レナの手が止まった。

 再び沈黙。

 全員がサクヤに注目した。

 サクヤは頬を染めつつ、視線を逸らして告げた。


「多分、大好きです」


「おっしゃああああああああああああ―――ッッ!」


 レナは立ち上がって、勝利の声を上げた。

 それから、唖然とするサクヤに満面の笑みを向けて。


「ありがとな! サク! 値千金の情報だ!」


「そ、そうなの?」


「おう! おかげで方針が決まったぜ! キャスもありがとな!」


「え、ぼ、ぼく?」


 キャスリンもまた唖然としていた。

 しかし、レナはやっぱり気にしたりしない。


「待っていろよ! アッシュ!」


 たゆんっ、と大きなおっぱいを揺らしつつ。


「勝つのは――このオレだかんな!」


 天に拳をかざして、そう宣言するレナであった。

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