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【第18部まで完結】クライン工房へようこそ!  作者: 雨宮ソウスケ
第14部 『女神たちの闘祭』①

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幕間一 夜の密談

 その日の夜。

 王城ラスセーヌ。

 メルティアに用意された部屋にて。


「……え?」


 アッシュの実弟であるコウタは、キョトンとした顔をした。


「ですので、私もお義兄さまのお手伝いをすることになりました」


「いや。それはいいけど……」


 コウタは、軽く驚いた様子で目を瞬かせた。


「レナさんがこの国に来ているの?」


「はい。そうですが……」


 ベッドの縁に座るメルティアは、コウタを見つめた。


「やはり、コウタもレナさんを知っているのですね」


「うん」コウタは頷いた。「昔、ボクの家に一週間ぐらい泊まった人なんだ」


 確か、レナは採集系の依頼で、クライン村に訪れた傭兵の一人だった。

 レナを含めて、たった五人の傭兵団。

 しかし、その傭兵団が最悪で……。


「レナさんは、団に裏切られた人でね」


「どういうことですか?」


 メルティアが、小首を傾げた。

 コウタは少し……というよりも、かなり気まずげな顔をした。


「その、レナさんの当時の傭兵団って、レナさんの実力だけじゃなくて、容姿も含めて、彼女を入団させていたんだ。えっと、その……」


 コウタは言葉を詰まらせた。

 当時のレナの傭兵団は、彼女以外は全員が男だった。

 身も蓋もなく言ってしまえば、当時のレナの傭兵団は、彼女を性処理も兼ねた仲間として入団させていたのだ。


 当然だが、レナはそんな承諾はしていない。

 傭兵団は、仕事を装ってレナに怪我をさせてから、無理やり彼女を手籠めにするつもりだったようだ。そのために、わざわざ森奥深いクライン村まで来たとのことだ。


 もはや、完全なる犯罪行為である。

 結句、その傭兵団は、最初から性奴隷を求めていたのだ。

 その計画は、かなり危ういところまで進んだのだが、結果から言えば、その傭兵団は兄にあっさりと潰された。兄の怒りを買ったのだから当然の末路だ。

 もちろん、レナの貞操も無事である。


 コウタはその経緯を、出来るだけオブラートに包んでメルティアに伝えた。


「……と、まあ、そんなことがあったんだ」


「……最低の傭兵団ですね」


 メルティアが、不快そうに呟く。


「……うん。ボクもそう思うよ。まあ、そんな非道なことを考えてるから、兄さんに潰されたんだけど」


 当時はただの農民だった兄だが、その腕っぷしの強さはすでに破格だった。

 まるで雑草でも引き抜くように、兄は現役の傭兵たちを、次々と殴り飛ばしていったのである。その光景は、たまたまその場に居合わせることになったコウタにとっては、衝撃的なものだった。きっと、当事者であるレナや、傭兵団の男たちはさらにだろう。


 なにせ、人が拳で飛んでいくのだ。

 傭兵団の男たちにとっては、魔獣と出くわしたような気分だったかもしれない。


 その後、兄は足を怪我したレナを、ヒラサカ家まで連れ帰ったのである。


「ボクも、レナさんには可愛がってもらっていたよ」


 彼女の人懐っこい笑顔は、コウタもよく憶えている。

 行方知らずではあるが、コウタと同い年ぐらいの妹がいるという話も聞いた。

 メルティアの話によると、その妹さんも無事見つかったようだが。


「レナさんかあ……」


 コウタは、目を細めた。


「あれからもう八年も経つんだ。きっと、綺麗な人になっているだろうね。当時から凄く可愛い人だったし」


 傭兵繋がりで、オトハのような凛々しい姿を思い浮かべる。

 まさか、一切容姿が変わっていないとは、夢にも思わないコウタだった。


「そ、そうですね……」


 レナの姿は、メルティアもこっそり確認しているので、少し頬を引きつらせた。

 どう見ても、彼女は、自分と同世代にしか見えなかったからだ。

 一方、コウタは無邪気に笑う。


「うん。折角だし、会ってみたいな」


「そ、そうですね。ですが」


 メルティアは、あごに指先を当てた。


「レナさんとは、どんな人なのですか?」


 レナが、アッシュに好意を抱いているのは一目瞭然だった。

 恐らく彼女は()()してくる。

 相手こそ違うが、自分も同じ状況にあるメルティアの直感は、そう告げていた。

 親友であるユーリィや、愛弟子のルカのためにも情報は探っておきたい。


「う~ん、そうだなあ」


 コウタは記憶を探った。

 天真爛漫で、小さなことは気にしない大らかな性格。

 行動力はあるが、考える前に動いている。

 好き嫌いがはっきりしている。

 子犬のような人懐っこさで好きなものに対しては、極めて積極的だった。

 特に兄に対しては、溢れんばかりの好意をぶつけていた。


 コウタは、苦笑を浮かべた。

 レナにとって、人前で抱きつくことなど当然の行為だった。

 その様子に冷たい眼差しを向ける義姉の姿は、今でも脳裏に焼きついていた。


 他人事であるコウタでさえ、恐れる義姉の表情。

 しかし、レナは一切気にしないのだ。

 むしろ義姉の視線に、兄の方の顔が強張っていたぐらいだ。


 コウタは、十数秒ほど考え込む。

 そして、


「その……レナさんは」


 アッシュの弟は、言葉を詰まらせながらも、告げた。


「……いわゆる『アホの子』だったかな?」




 ――と、コウタが率直な意見を告げていた頃。

 市街区にある、とある宿屋にて。


「んふふ~、んふふ~」


 かつて弟のように可愛がっていたコウタに、『アホの子』認定されているなど露とも知らずに、レナは、ベッドの上でゴロゴロと転がっていた。

 風呂上がりのレナは、ご機嫌だった

 ここにチェックインした時とは、別人のようなテンションである。

 今は、上はノースリーブの革服。下は黒のスパッツだけという大胆な格好で、ベッドの上を蹂躙している。


「トウヤあぁ、トウヤあぁあ」


 ボフボフッと頭を枕に叩きつける。

 ――生きていた! やっぱり生きていた!

 頭の中はそれでいっぱいだ。

 しかも少年だった頃よりも、カッコよくなっている。


「トウヤああぁ」


 レナは、ぎゅうと枕を抱きしめた。

 トウヤが死んだと聞かされ、深く落ち込み。

 トウヤが生きていたと知って、心が弾んだ。


(やっぱ、オレって)


 もはや疑うまでもない。

 あの日から、自分はトウヤにずっと惚れているのだ。


(というより、これってもう運命だよな)


 レナは枕に顔を押し付けた。はみ出た耳が赤くなっている。

 こんな全く縁のない異国の地で再会したのだ。

 自分はトウヤの腕の中に納まるのが、運命なのだと感じずにはいられなかった。

 いずれにせよ、今は喜びが抑えきれない。

 仮に犬のような尻尾があったなら、ブンブンと振っていたことだろう。

 ただ、幾つか気になることもあった。


「……う~ん」


 レナは、顔を上げた。

 一つはサクヤのことだ。

 当時、トウヤの恋人だった少女。

 長らく離れ離れになったそうだが、今はこの国にいるらしい。

 結局、トウヤは彼女と今も付き合っているのだろうか?


 一つは街で聞いた噂。

 どうも、トウヤはハーレムを築いているらしい。


 実のところ、レナには、ハーレムに対する忌避感や嫌悪感はない。

 というより、レナの育った貧民街では、むしろ一夫一妻の夫婦というのが珍しく、女は体を売り、裕福な男が気まぐれで女を買う。一夜限りの逢瀬もあれば、気に入ったのなら妾にする。そんなことが当たり前の世界だった。


 ちなみに傭兵の世界も少し似ている。

 強い傭兵には、数人の女がいることが多かった。

 中には、自分以外は全員が女で愛人という傭兵団もあるぐらいだ。


 レナにとって、複数の女を囲う男というのは、さほど珍しくもないのだ。とは言え、流石に女を奴隷のように扱っている連中だけは許容できないが。


 閑話休題。

 いずれにせよ、トウヤは強い。


 会うのは久しぶりだったが、間近で触れて、改めて彼の力強さを感じた。

 レナを乗せても全く揺らがない体幹に、無駄なく鍛え上げられた筋肉。最初に見た時に予想した通りだった。こっそり触れた上腕筋や腹筋は本当に凄かった。次は直で触らせてもらおうと思っている。

 恐らく、トウヤは傭兵としても、相当に名を馳せていたのだろう。

 強い男の周りに女が集まるのは自然なことだ。

 だから、彼がハーレムを築いていても不思議ではない。


「う~ん、けど」


 あごに手をやり、レナは考える。

 ならば、ハーレムメンバーとはどんな女たちなのだろうか。

 まず脳裏に浮かんだのは、ユーリィだ。

 トウヤの養女という彼女は、サクヤにも劣らないほどに綺麗な子ではあったが、レナから見ればまだまだ子供だった。なにせ――。


「……ふふん」


 レナは、自分の豊かなおっぱいを左右から挟んで鼻を鳴らす。

 戦闘では邪魔で仕方がないが、やはりこれは強力な武器にもなるようだ。

 多分、ユーリィは違う。まだまだお子さま過ぎる。

 しかし、ユーリィと一緒に現れたサーシャという少女は違っていた。

 彼女もまた、もの凄いレベルの美少女だった。

 しかも、そのプロポーションときたら、素晴らしいの一言である。

 すらりとした四肢に、キュッと引き締まった腰。何故か、ブレストプレートを着ていたため、確証はないが、おっぱいも相当大きいだろう。


「……むむむ」


 恐らく、サーシャの方は、ハーレムメンバーの一人なのかもしれない。


「あのレベルかあ……。トウヤは相変わらずモテるんだなあ……」


 ボフンっと枕に突っ伏した。

 と、その時だった。ドアがノックされたのは。


「団長。ぼくだよ」


 聞き覚えのある声が聞こえてくる。キャスリンの声だ。


「――おう! 来たか!」


 レナは、ガバッと跳ね起きた。

 続けて、その場で胡坐をかくと、ドアに向かって「入っていいぞ」と声を掛けた。

 数瞬の間を空けて、ドアはゆっくりと開かれた。

 まず入って来たのは《フィスト》の副団長であるキャスリンだ。

 しかし、


「………レナ」


 入るなり、レナの親友は溜息をついた。


「ん? どうした?」


 レナは小首を傾げる。と、キャスリンは、ドアの外にいるホークスとダインに、「すまないが、少しだけ待っていてくれないか」と告げて、ドアを閉めた。

 レナは、キョトンした。

 それに対し、キャスリンは嘆息した。


「……レナ。流石にその恰好はないよ。せめてパンツぐらいは履いてくれ」


 そう言って、床に落ちていたホットパンツを、レナの方に放り投げた。

 レナは、ホットパンツを両手でぱしっと受け取った。

 レナは目を瞬かせた。


「え? なんでだ? 部屋の中だし、こっちの方が楽じゃねえか?」


「……レナ」


 そう言うと、キャスリンは額に手を当てて、かぶりを振った。


「君は本当に無防備だね。もう少し女性として警戒したらどうだい」


 そう告げても、レナはキョトンとしたままだ。

 今のレナの姿は、女性的なラインが丸出しだった。

 たとえ相手が仲間だけだとしても、これは流石に煽情的過ぎる。

 少なくとも、キャスリンとしては、恋人(ホークス)には見せなくない姿だった。まあ、自分と比べるとヘコんでくるのも事実だが。


「まったく、君ってやつは……」


 キャスリンは、疲れ果てたように肩を竦めた。


「アホの子ぶりが復活したのはいいことだけど、少しは気を遣いなよ。危うく手籠めにされかけたことだってあるんだろう?」


「ふんっ、それはオレが未熟だった頃の話だ!」


 レナは、ホットパンツをとりあえず履いてから、シュッと拳を突き出した。

 空気を弾くような鋭い突きだ。それを数度繰り返す。


「――ふっ!」


 さらには、見事な弧を描いた蹴撃を披露した。

 重心が全くブレていない。ベッドの上とは思えない身のこなしだった。

 レナは、不敵に笑う。


「今のオレなら、どんな野郎でもぶっ飛ばせるぜ」


「……いや、レナ。そういう問題じゃないんだけど……まあ、いいよ」


 キャスリンは色々と諦めた。

 というより、丸投げすることにした。


「そこら辺の教育は、アッシュ君にお願いすることにするよ。彼の腕の中で恥じらいでも覚えたまえ。ともあれ今は」


 キャスリンは、ドアに向かって告げる。


「もう入っていいよ。ホークス。ダイン君」


「ああ……分かった」


 ドアが再び開く。そうしてホークスとダインが入室してきた。

 ホークスはいつも通りの表情を。ダインはどこか不機嫌そうだった。


「おう。全員揃ったな」


 再びベッドの上で胡坐をかいて、レナは言う。

 ある意味、全員が予想していたこの台詞を。


「あのな。オレ、新しい仲間を入れようと思っているんだ」

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