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クライン工房へようこそ!【第18部まで完結!】  作者: 雨宮ソウスケ
第14部 『女神たちの闘祭』①

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第二章 レディース・サミット3③

 一方、第三会議室は、緊迫感に包まれていた。

 原因は言うまでもなく、サクヤの強烈な一言にある。

 全員がサクヤに注目していた。

 そこへ、サクヤは、さらに畳みかける。

 手をちょこんと上げて。


「ちなみに、先日、トウヤとはエッチもしました。一晩中……というより、丸一日レベルで愛を確かめ合いました」


「「「――ッ!?」」」


 全員が息を呑む中、サクヤは素早く状況を見定めた。

 全員の顔色を一瞥する。

 激しく動揺しているのは四人。年少組だ。

 年長者の二人は、不満げにサクヤを睨みつけている。

 全く動揺していないのは一人だけだ。


 オトハ=タチバナ。

 やはり、彼女だけは、サクヤと同じ場所にいるのだと確信した。


「……ふん」


 そして一番先に口を開いたのも、やはりオトハだった。


「クラインが貴様を愛していることなど、ここにいる者たちは全員知っている。その先にある行為など今さらだ。それよりも……」


 オトハは、サクヤを睨みつけた。


「あいつのことは、『アッシュ』か、『クライン』と呼べ。あいつがどんな想いであの名前を名乗っていることは、貴様もよく理解しているだろう」


「………」


 サクヤは沈黙した。


「……そうね」


 そして首肯する。


「彼のことは、アッシュと呼ぶことにするわ。実は何度かは練習もしていたのだけど、まだ全然慣れなくて」


 言って、サクヤは微笑んだ。

 あまりにも穏やかな笑みに、少し空気も緩和する。


「……サクヤさんが」


 続けて、口を開いたのはアリシアだった。


「アッシュさんに愛されていることは、よく知っています。それを踏まえた上で、お尋ねします。サクヤは……」


 一拍おいて。


「これから、どうしたいんですか?」


 シン、とした。

 誰もが、サクヤに注目する。

 それに対して、サクヤは、


「私は……」


 自分の想いを語る。


「アッシュを愛しています。ここにいる誰よりも。だから宣言します。私は……」


 一呼吸入れて、彼女は告げた。

 すでにアッシュ自身にも言った台詞を。


「――私こそが、アッシュの『正妻』であると」


 その宣言に、全員が目を剥いた。

 全員が、驚きを隠せないようだった。

 ――『妻』ではなく、『正妻』。

 その言い回しの差が意味することとは……。


「それで……いいの?」


 そう呟くのは、ユーリィだった。


「サクヤさんは多分、一番アッシュに愛されている。アッシュに望めば……きっと、アッシュは応えると思う」


 辛そうに呟く。

 口惜しく思うが、自分はまだ『愛娘』から脱却しきれていない。

 想いを告げて、ようやくスタートラインに立ったばかりだ。アッシュに『女』として見てもらうには、まだまだ時間がかかるだろう。


 けれど、サクヤは――。


 ユーリィが、下唇をキュッと噛みしめる。と、サクヤは双眸を細めた。


「トウ……アッシュにとって、あなたたちも大切なのよ。絶対に失いなくないと思えるぐらいに。本人はまだ、曖昧な自覚しかないみたいだけど……」


 そこで、小さく息を吐きだした。


「私は、もう彼を苦しめるような真似はしたくない。それに、今の彼を作ってしまったのは私の責任よ。これも運命だわ。けど!」


 サクヤは立ち上がって、自分の豊かな胸元に片手を当てた。

 そして、もう一度宣言する。


「これだけは譲らないわ! 『正妻』は私! 一番は私なのよ!」


「……言ってくれるわね」


 その宣言に青筋を立てたのは、ミランシャだった。


「少しだけ先にアシュ君と出会って、少しだけ先にアシュ君と実戦を経験したからって、ちょっと調子に乗りすぎじゃないかしら?」


 立ち上がって、ポキポキと拳を鳴らした。


「あら。その差って結構大きいと思いますけど?」


 サクヤはサクヤで、退く様子はない。

 再び険悪になる空気。流石にオトハがミランシャを止めようとした時、


「……うんしょ」


 不意にそう呟いて、ルカが動いた。

 足元から大量の本を取り出して、ズドンと机の上に置いたのだ。


「……ルカ?」


 ルカと一番親しいユーリィが、小首を傾げた。

 ルカは、ポンと両手を叩いた。


「よかった、です。これで、みんな、仮面さんのお嫁さんに、なれます」


 にっこりと笑う。


「え、えっと、ルカ?」「いや、そうなんだけど……」


 姉貴分であるサーシャとアリシアは、困惑した顔で妹分を見た。

 ルカの笑みは崩れない。


「色々と、調べました。アティスでは一夫多妻は、今でも認められて、います。必要なのは男爵位だけで。それは、賞与で得た人もいるけど、お金でも購入できる、そうです。過去の記録だと、ビラル金貨、百枚から百二十枚で。鎧機兵五、六機分の金額だから、決して安くはないけれど」


 ポン、と書物の山に両手を乗せてルカが告げた。

 本気で着々と話を進める王女さまに、全員が呆気に取られた。


「……私の、降嫁に、関しても、実例があるから、問題、ないです」


 視線を落として少し恥ずかしそうだったが、ルカははっきりとそう告げた。


「お見事です。ルカさま」


 と、声を掛けたのは、シャルロットだった。


「すでに準備は万端という訳ですね。では、後は……」


 彼女は顔を少し赤くして、周囲に目をやった。


「サクヤさまとオトハさま。このお二人の除いた私たちが、どの順番であるじ――クライン君に()()()()()()()()()()ですね」


 一拍の間。

 ――ボンッ、と。

 全員の顔が真っ赤になった。サクヤとオトハも含めてだ。


「――わ、私はっ!」


 その時、ユーリィが立ち上がった。


「大丈夫っ! だって、アッシュに私を貰ってもらう言質を取っている! な、なんなら今からでも頑張るって伝えてあるからっ!」


 完全に、目がグルグルと回った状態で、そんなことを叫んだ。

 サクヤだけは「ええッ!?」と、愕然としていた。

 彼女だけは、その話を知らなかった。

 全員がユーリィに注目する中、次に動いたのはルカだった。

 自分の顔をこするように両手を動かしながら、「あ、あう……」と口を開く。


「お、お母さんが、私を身籠ったのは、十代後半でした。だ、だから私も……」


 溢れ出しそうな羞恥で目尻に涙を浮かべつつも、彼女ははっきりと意志を示した。

 先陣を切る最年少二人に、負けじと思ったのか、


「――ア、アタシだってッ!」


 ミランシャが、バンッと机の上を叩いた。

 彼女の顔は、髪にも負けないぐらい真っ赤だった。


「アルフがいるから大丈夫よ! 家を出ても家名を捨てても大丈夫っ! 今すぐにだってアシュ君の元に翔んでみせるわ!」


「……私は」言い出した本人であり、比較的冷静なシャルロットが口を開く。


「元より孤児の身。リーゼお嬢さまからも進退の承諾を得ております。すべてにおいて彼に仕える覚悟も準備も出来ています」


 自分の胸元に手を当てて、堂々たる声色で宣言した。

 彼女たちの視線は、残る二人に向けられた。

 アリシアと、サーシャだ。

 アリシアは、コホンと喉を鳴らした。


「私も覚悟は出来ているわ」


 そう切り出して。


「私はアッシュさんと出会って、初めて恋を知ったわ。だけど、それはとても淡い恋。時間が過ぎれば、ただの思い出になるような恋だった。多分、私はこの中で一番覚悟が出来ていなかったと思う」


 だけど、と言葉を続ける。


「今の私は違うわ。もう思い出なんかにするつもりはない。そもそも私って負けず嫌いだったのを思い出したし。何もしないでくよくよするなんて馬鹿みたいだったわ」


 アリシアは迷いを払いように長い髪をかき上げた。


「まあ、そうなると、()()って今さらの話よね。だって、いつかはする必然的な行為なんだし。むしろ、私にとって最大の問題は、私の父親を納得させることなんだけど、そこは何とかするしかないわね」


 そう告げて、最後に苦笑を浮かべた。

 全員の視線が最後の一人に移る。

 サーシャ=フラムだ。

 彼女は微笑んだ。


「私は、アッシュを愛しています」


 迷いなくそう告げる。


「私は、アッシュの強さも弱さも、傍で見てきました。その上で、私は彼の傍にいたいと思った。その想いに揺らぎはありません」


 彼女は、机の上に置いてある自分のヘルムに、そっと手を置いた。


「彼が望むのなら、私は全力で応えたい。私は消えたりしないと彼に教えてあげたい。私はずっと彼の傍にいたい」


 覚悟を込めて、サーシャはもう一度言う。


「私は、アッシュを愛しています。だからアリシアの言う通り、()()は今さらです。流石に口にすると恥ずかしいけど」


 まあ、お父さまの説得がしんどそうなのは私も同じかな。

 そう言って、言葉を締めた。

 すると、オトハが笑った。


「順番の話だったのだが、全員の覚悟を問うことになったか。ただ……」


 そこで、少し気難しい顔をする。


「フラムとエイシスの話でふと思ったのだが、案外、最終的なハードルが一番高いのは私なのかもしれないな」


「「……え?」」


 サーシャとアリシアが、キョトンとした。

 オトハは、深い溜息をついてから、ボソリと告げた。


「私の父親の話だ。正直に言って、私の父さま……父は格が違う」


 武の化身のような実父の姿を思い出して、オトハは冷や汗を流した。


「クラインのことだ。いつかは私の父に挨拶に行くつもりだろう。生真面目なのは変わらないからな。だが、流石にこの状況を知れば、父は……」


「うわあ……」


 ミランシャが、顔を引きつらせた。


「オトハちゃんのお父さんって《黒蛇》の団長よね。《刀天覇王》とか呼ばれてる」


「……ああ。娘の私が言うのも何だが、正真正銘の化け物だ」


 そんな人物に、娘さんを()()()()にくださいとお願いする訳だ。

 いかに、アッシュであっても、こればかりは命がけかもしれない。


「まあ、その時は私も加勢すればいいことか」


 オトハは、嘆息した。

 そして、サクヤに視線を戻した。


「ともあれ、ここにいる全員は、すでに覚悟済みということだ」


「ええ。そうね……」


 サクヤは、脱力するように微笑んだ。


「相変わらず、トウ……アッシュは恐ろしいわ。これだけの綺麗な子たちに、ここまで言わせるなんて。コウちゃんにもその傾向があるし。けど、それも、ここに至ってはどうしようもないことね」


 そう呟いて、サクヤは、机の上を指先でなぞった。

 それから、視線をオトハたちに向ける。


「ともかく。皆さんの覚悟は分かりました。では、ここでしなければならないことは」


 サクヤはポケットの中から、一本のペンを取り出した。

 そして、にっこり笑って告げるのだった。


「これまでのことと、これからのことを。順番の件も大事なことだけど、まずは私たちの状況を整理しましょうか」

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