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第四章 居候、やる気出す②

「第六十三期一回生。アリシア=エイシス。サーシャ=フラム。ロック=ハルト。エドワード=オニキス。上記四名は、第二応接室にて担当上官と面接すること。以上!」



 ほとんど候補生達がすでに立ち去った講堂にて。

 その第一騎士団の騎士はそう告げるなり、早々と退室していった。



「……はあ、ようやく呼ばれたわね」



 蒼いサーコートを纏う少女――アリシアがうんざりした表情で溜息をつくと、くたあっと長机の上に倒れ込んだ。



「うん。まさか、最後まで呼ばれないなんて思わなかったよ」



 長机の上に置いてあるヘルムにポンと手を置き、軽ブレストプレートで武装したサーシャが相づちを打つ。アリシアは再び溜息をついた。



「……はあ、まあ、多分、私とサーシャが一緒の部隊なのはうちの馬鹿親父が何かしたんでしょうけど……」



 アリシアはちらりと背後の席に目をやり、



「なんであなた達まで同じ部隊なのかしら?」


「……そう言われてもな。上官が決めたことだ」



 ロックは苦笑を浮かべ、



「まあ、別に俺達にどうこう出来ることじゃねえしな」



 ぶっきらぼうに呟くエドワード。

 見るからに、どこか不機嫌そうな少年達だった。



「……まあ、そうよね。これも腐れ縁かしら」



 アリシアは興味が失せたように視線を前へと戻す。



「「…………」」



 少年達は彼女の――正確には下段の席に座る二人の少女の後姿をやる気のない顔で見据えていた。一切声も出さず、まるで興味がないような態度をとる。

 が、数秒後。アリシア達の意識が完全に自分達から外れたのを確信すると、



「(……よっしゃあああ! やったぜロック!)」


「(ああ! どんな上官かは知らんが、ナイスだ!)」



 小声で囁き合い、机の下でグッと拳を握りしめる。

 彼らは密かに歓喜していた。



「(ロック! 俺さ、やっぱフラムが好きなんだよ! 諦めきれねえ!)」


「(おおッ! そうかエド! では!)」


「(ああ、そうさ! 俺は師匠に立ち向かう! 今回の演習が終わるまでの間に、フラムの心をGETしてやんぜ!)」


「(そうか……エド。ならば、俺はエイシスを!)」



 お互いの目標を確認し合うエドワードとロック。机の下では、互いの健闘を祈りガッチリと握手を交わしていた。

 と、そんな少年達の決意を知る由もなく、アリシアとサーシャは談笑を続けていた。



「けど、サーシャ、あなた二日前に比べると随分元気になってない?」


「え? そ、そうかな?」


「うん。なんか肌もツヤツヤだし。気力に溢れているって感じ」



 言って、自分の頬に手を当てるアリシアに、



「はは、えっと、それは成分の補充をちょっと……」


「成分? 何よそれ?」


「あはは、まあ、ちょっとね」



 サーシャはただ誤魔化すように笑うだけだった。



「……まあいいけどさ。けど、今日から泊まりこみで一週間、演習でさらに一週間かあ、そんな長い間、拘束されるなんて堪ったもんじゃないわね」



 と言って、机の上に突っ伏し、盛大な溜息をつくアリシア。



「けど、それは仕方がないよ。こんな状況だし」



 サーシャが苦笑を浮かべてそう告げるが、アリシアの気は晴れない。

 そして机に伏せたまま、彼女にしては珍しい拗ねたような表情を浮かべると、



(……二週間も、アッシュさんに会えないなんて……)



 内心でそんなことを思う。そして、か細い吐息をもらした。

 アッシュ=クライン。自分の周りにいる軽い感じの同級生の異性とは明らかに違う、地に足をつけた男性。とても優しく大らかで、何より自分よりも遥かに強い。

 今回の件があるまでは当たり前のようにサーシャについていって、ほぼ毎日会っていたのだが、それが二週間も会えなくなると考えただけでここまで気が重くなるとは。


 アリシアは再び、溜息をついた。

 彼のことを思うと、胸の辺りが少しドキドキしてくる。



(……うわあ、これってやっぱり)



 まさか、サーシャの想い人に、自分まで……。

 と、動かなくなった親友を不思議に思ったのか、サーシャが首を傾げ、



「どうしたのアリシア。何か悩み事?」



 アリシアの鼓動が跳ね上がった。



「ふわッ!? な、ななな何でもないわッ!?」 



 絹糸のような髪を振り乱して立ち上がるアリシア。そして、思わずそのまま逃げ出すように後ずさり、ガタンッと椅子を後ろに押し倒す。



「ア、アリシア?」



 親友のいきなりの挙動不審な態度に、サーシャは目を丸くした。長い付き合いだが、ここまで取り乱したアリシアの姿は初めて見る。



「え、ほ、本当にどうしたの? よく見ると顔が真っ赤よ?」


「あああ、赤くなんてなってないわよ! そんなことよりもッ!」



 アリシアはサーシャから視線を逸らすためか、ロック達の方へと振り向き、



「そろそろ第二応接室に向かいましょう! 上官を待たせることになるわ!」



 と、もっともな意見を告げる。エドワードとロックは互いの顔を見合わせた。



「まあ、確かにそうだよな」


「ああ、ではそろそろ行くとするか」



 と言って立ち上がる少年達。サーシャもそれに続いた。

 そうして、四人の騎士候補生達は講堂を後にした。



       ◆



「……けどよ、俺らの上官ってどんな人だろうな」



 校舎の一階。

 第二応接室へと続く白い代理石の廊下を歩きながら、エドワードがそう呟く。



「それは三騎士団の上級騎士の誰かでしょう。多分三十代後半の厳ついおっさんよ」



 厳しい現実を突き付けるアリシアに、エドワードは苦笑を浮かべ、



「身も蓋もねえなエイシス。もしかしたら綺麗なお姉さまかも知んねえじゃねえか」


「あっ、意外とそれはあり得るかも。今の騎士団には若い女性騎士も多いってお父様やガハルドおじ様が言ってたし」



 エドワードの言葉にサーシャが同意する。が、ロックが腕を組んで唸り、



「どうだろうな。それでも上級騎士には男の方が多いはずだぞ」


「もう。そんなの考えても仕方がないじゃない。ほら、着いたわよ」



 言って、アリシアは立ち止まった。

 彼女の目の前には重厚な扉がある。第二応接室だ。



「それじゃあ、私がノックするわよ」



 リーダーシップを発揮するアリシアに全員が頷く。彼女の気風のいい性格もあるが、元々アリシアはサーコートの着用を許された騎士候補生。「十傑」の称号を持つ学年において七位の実力者だ。彼女がリーダー格になるのも自然な流れだった。

 そして、コンコンとノックする。と、扉の向こうから「ああ、入ってくれ」という声が聞こえてきた。途端、エドワードが「おおッ!」と色めき立つ。



「なあ、おい! 今、女の声だったよな!」


「あ、ああ、確かに女性の声だったが……はて? 今の声どこかで……」


「そんなのどうだっていいさ! うおおお、当たりかよ! 女上官だぜ! くうう、今日の俺って一体どんだけついてんだよ!」


「いや、エドよ。う~ん、何故だろうか。どうも嫌な予感が……」



 と、騒ぎだす少年達を、アリシアは取っ手に手をかけたまま睨みつけた。



「あんた達、うるさい。ドアを開けるわよ」


「う、分かったよ」「ああ、すまない」



 押し黙るエドワードとロック。少年達を言葉と視線だけで黙らせたアリシアは「失礼します」と告げてから、ドアを開いた。



「お待たせして申し訳ありません。私は――えっ?」



 しかし、アリシアは応接室に入室した直後、硬直した。



「どうしたのアリシア……って、えっ?」



 アリシアに続いて入室したサーシャも同様に硬直する。さらにその後に続いたロック、エドワードも部屋に入るなり、頬を引きつらせて固まった。



「……ん? どうした? みんなしてそんなところで突っ立てないで、そこのソファーにでも腰を掛けたらどうだ?」



 そう告げるのは、アリシア達の上官だった。

 彼女は大理石の机を挟んで向かい合わせに置かれた大きなソファーの片側に座り、優雅に紅茶を楽しんでいた。凛とした雰囲気を持つ彼女によく似合う光景だ。


 そして丁度呑み終えたのか、彼女はコツンとティーカップをソーサーの上に置いた。

 決して大きくはない音。しかし、それが硬直を破った。



「オ、オトハさん……?」



 アリシアが呆然と呟く。



「タ、タチバナさんッ!?」「あ、姐さん、なんでここにッ!?」



 続いてロック、エドワードが驚愕の声を上げた。

 ――そう。そこにいたのは、オトハ=タチバナだったのだ。

 オトハはふっと笑うと、音もなく立ち上がった。



「私が傭兵だというのは知っているだろ。今回私はお前達の上官として雇われたのさ」



 と、オトハは嘯く。アリシア達は呆然とするだけだ。

 しかし、そんな中、サーシャだけは別の意味で呆気に取られていた。



(え、え? な、なんで、あれがここに?)



 サーシャが呆然とする理由。それはオトハの服装にあった。

 会う度にいつも同じだった黒いレザースーツ。それは今回も変わらない。

 だが、問題はその上に纏っているサーコートだ。立ち上がる際、ちらりと見えた背中には、盾の形をなぞる黒枠。神槍を片手に背を向ける《夜の女神》のシルエットと、その女神の背を守る七つの極星を描いた紋章が刻まれていた。

 それは、サーシャにとって非常に見覚えのある物だった。



「オ、オトハさんッ!」



 愕然とした表情で、サーシャはオトハに問い質す。



「どうしてオトハさんが先生のサーコートを着てるんですか!」



 サーシャは再度、オトハのコートを凝視する。

 上腕部に黒い鉄甲を装着した白いコート。それは以前、サーシャがアッシュに見せてもらったものと同じものだったのだ。


 実はそのコートは二着あり、内一着はサーシャの部屋で大切に飾ってある。アッシュがくれたのだ。毎日拝むように見ているので見間違えるはずもない。だから当然、オトハの着ているコートはアッシュのものに違いないとサーシャは思った。


 ならば、考えられることは一つだ。



「もう! 先生のコートを勝手に持ち出したんですか!」



 と、思わず声を荒らげるサーシャに対し、オトハはキョトンとして、



「……? 何を言っているフラム。これは私のものだぞ」


「え? な、何を……オトハさんこそ何を言ってるんですか! そのコートが一体どんな意味を持っているのか知っているんですか!」


「ちょ、ちょっとサーシャ、一体どうしたのよ」



 やけにオトハに突っ掛かるサーシャに、アリシアが眉を寄せる。

 何故親友はこんなに興奮しているのだろうか。

 傍らではエドワード、ロックも困惑した表情を浮かべていた。



「そのコートはグレイシア皇国の――」


「あー……分かった分かった」



 なお言い募ろうとするサーシャを、オトハは苦笑を浮かべつつ手を向けて制する。



「まず根本的に誤解しているぞフラム。このコートは正真正銘私のものだ。普段は身につけてはいないが、騎士と行動を共にする時だけは着るようにしているんだ」



 その方が結構融通が効くんでな、と補足するオトハ。

 サーシャは眉をしかめた。



「……オトハさんの、もの?」


「ああ、そうだ。第一クラインのコートを私が着たらブカブカだぞ」



 それはそれでいいかなと妄想して、オトハは頬を染める。

 一方、サーシャの困惑は増すばかりだった。



「それってどういう……」


「だから最初から言っただろう。これは私のものだ。そうだな丁度いい。お前達全員、状況が分かっていないようだから、ここで一度名乗っておこうか」



 オトハはそう言うと不敵に笑った。



「私はこう見えても、グレイシア皇国ではそこそこ名の知れた傭兵でな。実は皇国から授かった、とある称号と二つ名を持っている」


「称号と、二つ名?」



 サーシャが呆然と反芻する。



「ああ、そうだ」



 今度は少女のように微笑み、オトハは言う。

 そして、困惑する騎士候補生達の顔を順に見やり、



「改めて名乗ろう。私の名は《天架麗人(てんかれいじん)》オトハ=タチバナ。《七星》が第六座、《鬼刃》を駆る者。そしてお前達の担当上官になる者だ。よろしくな」



 にやりと口角を上げ、オトハはそう告げるのだった。



       ◆



 ――同時刻。

 場所は奇しくも第二応接室。ただし、第三騎士団詰め所のだが。

 この手の部屋は目的が同じためか、構図も少し似ている。大理石の机を挟んで対となるソファー。そこに座ってアッシュはガハルドと会談していた。



「お待たせしましたクライン殿。雑なコーヒーですが、味は中々のものですぞ」


「おっ、サンキュ。けど、なんか団長さんにはいつもコーヒーを奢ってもらってんな」



 言って、アッシュは湯気と香り立つマグカップを受け取ると、香りを楽しみつつ黒い液体を一口含む。独特の苦みはあるが、どうにも癖になりそうな味だ。



「へえ、確かに美味いな」


「ええ、団員には人気の品です」



 と、些細な雑談を挟んだ後、アッシュはマグカップを一旦机に置き、



「……今回は本当にすまねえ。無理言っちまって」



 深々と頭を下げる。ガハルドは苦笑を浮かべて手を振り、



「いえいえ、頭を上げて下さいクライン殿。今回の件、本当に助かりました」


「いや、正直かなり無茶な話だったと思うんだが」



 ガハルドの言葉に、アッシュは眉根を寄せる。

 この一致団結しなければならない時期に、余所者を組織に組み込むなど、相当ごり押ししたはずだ。アッシュがそう告げると、ガハルドはふふっと笑い、



「確かに組織というものはあまり余所者を好みませんな。しかし、今回は少しでも強力な戦士が欲しかったのも事実。私が『いや、たまたま休暇に来ていた《七星》の一人を街で見つけたんだが』と言った時の、他の団長達の唖然とした顔といったら……」


「……あんた、そんな紹介の仕方をしたのか……」


「ふふ、まあ、他の団長も承諾したのは事実ですぞ。それと、クライン殿のことは公言しておりませんのでご安心を」



 マグカップに口をつけ、何事もなかったようにそう告げるガハルド。

 やはりこのおっさんは苦手だな、とアッシュは改めて思った。



「そんでオトは、メットさんとアリシア嬢ちゃんの上官になった訳か」


「ええ。それについても助かりました。出来るだけ優秀な人材を、と考えてはいたのですが、正直これぞという人材がおらず困っていたところでしてな」


「……で、オトか? 清々しいまでに公私混同だな」


「ふふ、まあ、父親ならば娘には甘くなるものです」



 いけしゃあしゃあとそんなことを(のたま)う騎士団長。まあ、アッシュとしては気持ちが分かってしまうので、むしろ同意してしまいそうだったが。



「まあ、いいさ。オトがいる以上、万が一はねえと思うが……」



 アッシュはそこで言葉を詰まらせる。

 ガハルドは首を傾げた。



「どうされましたかな? クライン殿」


「いや、実戦演習はともかく、強化訓練もオトが担当するんだよな?」


「? ええ、今回の上官は、専属の教官でもありますので」



 そう告げるガハルドに、アッシュは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。



「……クライン殿?」



 何か問題でもあるのか。

 目線だけでそう伝えてくるガハルドに、アッシュは気まずげに告げた。



「……メットさん達、死ななきゃいいんだが」


「……それは聞き捨てなりませんな。どういうことですかな?」


「いや、実は俺の戦闘技術ってオトから習ったものなんだが……」



 アッシュはポリポリと頬をかいた。一方、ガハルドは興味深げに目を開く。



「ほう。それは《双金葬守》が《天架麗人》の弟子だった、と」


「まあ、そうとも言えるんだが、とにかくオトの奴はものすっごいスパルタなんだよ」


「……ああ、なるほど。そういう意味ですか」


「そういうこと。う~ん、マジでメットさん達、死ななきゃいいんだがなあ」



 しみじみと呟くアッシュ。

 かつて自分がオトハから戦闘訓練を受けた時は、それはもう恐ろしかった。

 たまに思い出話をするとオトハは決まってあの頃のアッシュは鬼気迫るものがあったなどと宣うが、アッシュからすれば、鬼気を放っていたのはむしろオトハの方だ。

 果たしてサーシャ達はあれに耐えられるのだろうか……?



(死ぬんじゃねえぞ、メットさん。アリシア嬢ちゃんも)



 と、心の中でアッシュは応援する。

 しかし、その応援も空しく三日後の深夜。

 ガチで泣きじゃくるサーシャとアリシアがクライン工房に逃げ込んできて、アッシュがひたすら宥めるというイベントがあるのだが、この時の彼には知る由もなかった。

 ちなみにエドワードとロックも同じ夜に別ルートで逃げ出したそうなのだが、オトハにあっさり補縛され、えげつない仕置きをされたらしい。


 まあ、それはさておき。



「何にせよ、今回は本当に迷惑をかけちまってすまなかった。なんかいつも借りばっかで本当に悪りい」


「ふふ、そうお気になさらず。先程も申しあげましたが今回は私も助かりましたしな」


「そう言ってくれるとありがてえよ、って、あんまりのんびりも出来ねえな」


「? 何か御用が?」


「いや、納期が迫ってる仕事があんだよ。そんじゃ、そろそろお暇するよ」



 アッシュはそう言うと、少しばかりぬるくなったコーヒーを呑み干し、「サンキュ。美味かったよ」とガハルドに告げ、部屋を出ていった。

 トットット、と走り抜ける足音だけが聞こえて、すぐに消えていく。



「…………ふむ」



 残されたのはガハルド一人。

 ガハルドはコーヒーをゆっくりと味わってから、机の上にマグカップを置いた。

 そして、ぼそりと呟く。



「《双金葬守(そうごんそうしゅ)》アッシュ=クライン、か」



 かの皇国が誇る《七星》の一人。

 本来ならばこんな国にいる人物ではないのだが……。



「粗野ではあるが、情に厚い。相手を思いやり、どちらかと言えば生真面目な性格か」



 ガハルドは眉根を寄せる。

 冷静に分析するほど、好感が持てる青年だ。



「う~む、アリシアとサーシャの男を見る目は確かということか。しかし……」



 ガハルドは深々と溜息をつく。



「もしかすると、私は彼に『お義父(とう)さん』と呼ばれるかもしれないのか……?」



 正直、そう思うと複雑だ。

 彼はサーシャの相手だと一時は考えていたが、その可能性も充分あり得る。



「……確かに私も孫の顔は早く見たいんだが」



 実の娘アリシアにしろ、親友の娘サーシャにしろ、ガハルドにとっては蝶よ花よと大切に育ててきた愛娘達だ。手放すとなるとやはり寂しい。



「しかし、このままどこの馬の骨とも分からない男に奪われるよりは……」



 うむむと呻き声を上げる。どこまで考えても答えが出てこない。

 そしてしばらくしてから、はあっと大きく嘆息し、



「……私は一体どうすればいいんだ?」



 と、力なく肩を落とす。

 たった一人、応接室で悩み続けるガハルドだった。

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