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クライン工房へようこそ!【第18部まで完結!】  作者: 雨宮ソウスケ
第13部 『冥王と黄金の姫』

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第七章 二人は再び出逢う②

(……そろそろ再会した頃か)


 クライン工房の作業場前。

 オトハは、空を見上げて物思いに耽っていた。

 クライン工房の作業場は、閉められている。

 シャッターには『本日、臨時休業』の壁紙が貼られていた。

 今朝がた、アッシュ自身が貼ったものだ。


 現在、クライン工房は、オトハ以外は全員不在だった。

 アッシュは静かな表情で「そんじゃあ行ってくる」と告げて出かけて行った。

 ユーリィと九号はそれを見届けてから、「……私は王城に行ってくる」と言って、出て行った。このことをルカ達に連絡するつもりなのだろう。


 オトハは一人残された。

 今日は、彼女も臨時講師の職が休暇だったので、やることがなかった。

 そのため、何となく外に出たのだ。


(……サクヤ=コノハナか)


 アッシュの幼馴染で婚約者だった少女。

 不遇の死を遂げ、今もなおアッシュに愛されている女性。

 オトハは、実際に彼女と出会ったことはなかった。

 ――一体、どんな女性なのか。

 当然ながら、気にはなる。

 なにせ、自分は今のアッシュの恋人なのだから。


「………」


 無言のまま、胸元を片手で押さえる。

 彼女と再会し、アッシュがどんな結論を出すかは分からない。


 サクヤを選び、オトハに別れを告げるのか。

 オトハを選び、サクヤに別れを告げるのか。


 それとも二人とも――。


(いや、そこまではまだ下地不足だな)


 オトハは嘆息した。

 顔が少し赤い。

 いずれにせよ、これは大きな変革期となる。

 それは、オトハのみならず、ユーリィ達もそう感じ取っていることだろう。

 皆、各自に出来ることで備えている。

 そしてオトハもまた、自分に出来ることをするだけだ。


(そうだな……)


 胸を支えるように腕を組む。

 これから、戦場は激化を辿ることだろう。

 今のところ、サクヤを除けば、オトハは最も優位な立場にいる。

 圧倒的に優勢と言ってもいい。

 しかし、それに甘えていられない状況に陥るはずだ。何故なら、オトハの知る彼女達はタイプこそ違うが、それぞれ凄まじいポテンシャルを持つ者ばかりだからだ。

 同じ場所(ステージ)に立てば、容易く覆されてしまうかもしれない。

 ならば、ここは自分も戦力UPを図るべきだろう。


 ちらり、と自分の姿に目をやった。

 プロポーションを強調するような黒い革服。いつも同じ姿だ。


 サーシャ達も、いつもは制服姿が多いが、それはあくまで学生だからだ。

 当たり前だが、可愛らしい私服も持っている。

 しかし、自分はどんな時でも同じ格好だ。


(これはまずいのか……?)


 よく分からないが、オトハは眉根を寄せた。

 アッシュにも、前に別の服を持っていないのかと問われたことがある。

 その時は気にもしなかったのだが……。


(ううむ……)


 オトハは、くるりと踊るように全身に目をやった。


(この服は頑丈で動きやすいからいいのだが……)


 とはいえ、いつも同じ服では飽きられてしまうのも事実だ。

 アッシュだって、たまには違う姿の恋人(オトハ)を見たいだろう。

 オトハは考えた。


(……よし)


 そして決意する。


(この前、街で見かけた寝間着(ネグリジェ)を買おう)


 ……何故そこで下着(インナー)に飛ぶのか。

 オトハのオトハたるところなのだが、ともあれ、彼女は満足げに頷いた。

 街の店舗で見かけた寝間着(ネグリジェ)は結構大胆なものだった。

 ――肌が透けるような黒の寝間着(ネグリジェ)

 オトハとしては、赤面することが確実な一品だが、あれならば、きっとアッシュも喜ぶこと請け合いだろう。これもすべて戦力UPのためだ。


「早速出かけるか」


 オトハは頷くと、クライン工房横に造った馬舎に向かった。

 そこには、アッシュのララザと共に、オトハの愛馬もいるからだ。

 オトハは、少し上機嫌な様子で歩を進める。が、


「………」


 不意に足を止めた。

 瞳を鋭く細める。

 背筋辺りに、強い悪寒を感じたのだ。

 オトハは、首筋を片手で押さえて振り向いた。


「……招かざる客が来たか」


 ポツリ、と呟いた。

 鋭い眼光で、その男を見据える。


「招かざる客とは悲しいぞ」


 男は肩を竦めた。


「俺は一日千秋の想いでここに来たというのに」


「ふん。そうか」


 オトハは、腰の小太刀の柄に手をやった。


「ならば、私も嬉しいと言っておこう」


 足を開き、重心を落とす。


「斬り損ねたお前を斬る機会を、こうして与えられたのだからな」


「フハハ、相変わらずオトハは気が強いな」


 男は陽気に笑う。

 次いで、カウボーイハットのつばに手をやり、臨戦態勢のオトハを見つめた。


「だが、そこがいい。実にいいぞ。お前のその気丈な仮面は俺がゆっくりと外していってやろう。勿論、俺の腕の中でな」


 そう言って、その男――ゴドーは両手を広げた。


「さあ、オトハよ。再会の時は今だ」


 そしてゴドーは宣言する。


「ようやく、お前を俺の女にする時が来たのだ」

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