表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クライン工房へようこそ!【第18部まで完結!】  作者: 雨宮ソウスケ
第12部 『羽ばたく翼』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

359/606

第五章 双金、出会う②

「………え」



 動揺したのは、コウタも同じだった。

 思わず構えさえも解いてしまう。



「サ、サクヤ姉さん」


「コウちゃん」



 彼女は、微笑む。



「久しぶりだね。トウヤ(・・・)には再会できた?」


「う、うん」コウタは頷く。「兄さんとは再会できたよ」



 と、自然に会話をしている。

 彼女の隣にいた女性まで「お久しぶりです。コウタさん」と挨拶している。

 ユーリィは激しく困惑した。

 コウタが彼女を知っていることは、ある意味、当然だ。

 彼女は、アッシュの幼馴染だったと聞いている。

 なら、アッシュの弟であるコウタと面識があってしかるべきだ。

 だから、姉と呼ばれるほど親しくてもおかしくない。


 だが、これは、そういう話ではないのだ。

 そもそも彼女は――。



「――ま、待って!」



 思わず叫ぶ。

 黒髪の少女が、ゆっくりと振り返った。

 黒曜石のような眼差しが、ユーリィを見つめた。

 数瞬の静寂。



「あなたは……」



 ユーリィは、声を絞り出す。



「一体、誰なの……?」



 ただ、それだけを問う。

 彼女は死んだはずだ。

 ユーリィは、アッシュ以外で唯一、その場に立ち会っている。

 彼女は間違いなく、あの日に消えたはずだった。

 すると、黒髪の少女――サクヤは、ふっと微笑んだ。



「……ユーリィちゃん。私は――」



 しかし、ユーリィの問いかけに答えたのは彼女ではなく、別の者だった。



「ふむ」



 男の声が響く。ボルド=グレッグの声だ。

 ボルトは、さらに言葉を続ける。

 ユーリィにとって信じがたい言葉を。



「蘇ったという情報は正しかったようですね。《黄金死姫》殿」


「…………え」



 ユーリィは大きく目を見開き、ボルドを凝視した。

 それに対し、ボルドは「おや?」と不思議そうな顔をした。



「もしかして、まだご存じなかったのですか? エマリアさん。彼女――《黄金死姫》サクヤ=コノハナさんが復活したことを」



 平然と、そんなことを言う。

 ユーリィは愕然とした。



「ふ、復活……?」


「ええ。方法は分かりませんが、彼女は現世に復活を遂げました。それも《聖骸主》の力を残したまま、正気まで取り戻してね。その上……」



 ボルドは、笑うように目を細めて、サクヤに視線を向ける。



「新たに肩書まで増えたのですね。《ディノ=バロウス教団》盟主殿」


「…………え」



 その台詞にも、ユーリィは唖然とする。

 ――《ディノ=バロウス教団》。

 かつて、策略を以て、オトハを危険な目に遭わせた一団だ。

 終末思想を抱く、《黒陽社》にも劣らないほどの危険な裏組織と聞いている。



(そんな組織の……『盟主』?)



 ユーリィは、茫然とサクヤを見つめていた。

 すると、



「……私のことは、今はいいでしょう」



 サクヤは、ボルドを見据えて告げる。



「《地妖星》さま。私の可愛い義弟(おとうと)にちょっかいを出すのはやめてくれませんか?」


「……いえ。それは……」



 ボルドは、困った顔をした。



「私としては、勿論、本命はクラインさんの方ですよ。ですが弟さんも中々どうして。ちょっと……というより、正直、かなりスイッチが入ってしまって」


「自分でも抑えきれないと?」



 サクヤが、半眼でボルドを睨みつけた。



「どうしてもというのなら、コウちゃん側に私も参戦しますけど?」


「う、《黄金死姫》がですか? それは辛いですね」



 ボルドは、ちらりとカテリーナに目をやった。



(これは参りましたね)



 自分一人なら、どうにかなるだろう。

 興奮が収まるまで暴れて撤退するのも可能だ。

 しかし、そうなると、カテリーナの回収までは難しい。



(ここまで血が騒ぐと流石に辛いのですが、仕方がありませんね)



 自分の都合で、カテリーナを危険にさらすのは不本意だ。

 ボルドは決断した。



「分かりました。ですが一つだけ」


「……何かしら?」



 サクヤが尋ねる。と、ボルドは苦笑を浮かべて。



「今日はもう何もしませんよ。カテリーナさん。あれを」


「……はい。ボルドさま」



 今まで沈黙して様子を窺っていたカテリーナが動く。

 停留所の長椅子に置いてあった包みを持ち出し、ボルドに渡したのだ。



「……えっと、コウタ君」



 ボルドは、抵抗をみせない足取りでコウタに近づき、包みを渡した。

 あまりにボルドが無抵抗だったので思わず受け取るコウタ。



「……何ですか? これ?」


「菓子折りです」



 ボルドは言う。



「今度は真っ当な菓子折りですよ。先ほどこの国で購入しました。まだ開けてもいませんので毒物混入の心配もありません」


「は、はあ……」



 生返事をするコウタ。ボルドはにこやかに告げた。



「どうか、クラインさん達と食べてください」


「……え?」



 コウタは、キョトンとした。



「《九妖星》って《七星》に菓子折りを贈るんですか?」


「いえ。相手のお家に伺うのに手ぶらはちょっと……」



 と、ボルドが頬をかいて言う。

 カテリーナを除く全員が、何とも言えない表情を浮かべた。



「ええっと、まあ……」



 ボルドは、コホンと喉を鳴らした。



「いささか血は騒ぎっぱなしですが、今日の所は盟主殿の顔を立てて退きましょう。クラインさんのご挨拶も別の日に致します」



 そこでボルドは、ポンとコウタの肩を叩いた。



「さらに精進してくださいね。コウタ君。また会える日を楽しみにしていますから」



 そう告げて、ボルドは歩き出した。

 ユーリィと九号の隣をすれ違う。その時、小声で「あなたにとっては大変な事態でしょうが、頑張ってみることですね。エマリアさん」と告げられた。

 ユーリィは、険しい表情でボルドの背中を睨みつける。

 しかし、ボルドは悠然としたものだ。

 そんな男の後ろを、赤い眼鏡の女が追っていった。


 しばし沈黙が訪れる。

 そして――。



「去ったようですね。サクヤさま」



 サクヤと共に現れた女性が言う。

 ユーリィは彼女に目をやる。

 改めてみると、二十代前半ほどの綺麗な女性だ。

 黄色い短めの髪に、まるでトレジャーハンターのような恰好をしている。

 だが、ユーリィは、すぐに彼女への興味を失った。

 興味があるのは、当然もう一人の女性の方だ。

 ユーリィは、彼女を睨むように見据えた。

 そして、再び尋ねる。



「あなたは誰なの?」



 シン、と空気が張り詰める。

 黄色い髪の女性、コウタも九号さえも緊張を見せた。



「……そうね」



 そんな中、サクヤは微笑んだ。



「少しお話をしようか。ユーリィちゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ