第八章 そして再会①
「……本当に凄い」
サーシャは、微かに喉を鳴らした。
まさに驚くような戦闘。
炎を纏う悪竜の騎士の姿にもギョッとしたが、それ以上に、自分とほぼ歳が変わらない少年の力量には言葉もなかった。
それは、同じく騎士候補生であるアリシアや、ロック、エドワードも同様だ。
騎士候補生でないユーリィもまた、声を出さない。
ただ、彼女の沈黙は、サーシャ達とは少し違う様子だった。
どこか、ユーリィの表情は硬かった。
いずれにせよ、彼らは、無言で戦闘を見つめていた。
戦いは熾烈を極めた。
そうして、不意に轟く不協和音。
思わず耳を押さえていると、《朱天》の左腕が大きく損傷し、悪竜の騎士の処刑刀は半ばから砕け落ちた。恐らく互いに何かしらの闘技を繰り出し、相殺したのだろう。
対峙する二機。
すると、彼らにオトハが近付いていく。
サーシャのもう一人の師は、これで決着がついたと判断したようだ。
少しホッとした。
あの悪竜の騎士は、紛れもなく最強レベルの相手だ。
アッシュに仕合を申し込んでも、不遜ではない力量が充分にある。
だから、少しだけ不安も覚えていた。
師が負けることはなくとも、怪我をしてしまうかもと考えていた。
「……けど、マジで凄えよな、あいつ」
エドワードが、感嘆の声を上げた。
ここまでのものを見せつけられては、もう唸るしかない。
とても、同世代には思えない実力だった。
「機体もとんでもねえけど、下手すりゃあ、アルフより強えェんじゃねえか?」
「う、うん。そうね」
アリシアも頷き、同意する。
「少なくとも、私はちょっと自信をなくしたわ。《朱天》を損傷させるなんて、私達じゃあ全員がかりでも無理だもの」
と言うよりも、勝負にもならないのが現状の実力差だ。
それを、あの少年は単独で成し遂げた。
たった一機で、それをやってのけたのである。
騎士学校では、天才ともてはやされるアリシアとしては、本物の才能を見せつけられたようで、何気に一番ヘコんでいた。
ちらりと、ルカと一緒に立つ、リーゼやジェイクにも目をやった。
「もしかして、リーゼさんや、ジェイク君もあんなに強いの?」
「いや、流石にそれは……」
幼馴染の心情に気付き、サーシャは苦笑を零した。
いくら何でも、あのレベルの学生が、ゴロゴロいるとは思えない。
もしいたら、他国との軍事バランスが懸念される事態だ。
「コウタ君が、特別だと思うよ」
と、慰めの言葉をかけた、その時だった。
グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ――!!
突如、草原に轟く咆哮。
サーシャ達のみならず、ルカやミランシャ達、エリーズ国からの来訪者達も、ギョッとして視線を声の方へと向けた。
そこにいたのは、真紅に染まった《朱天》だった。
「――はあッ!? なんでッ!?」
エドワードが、仰天の声を上げた。
真紅の《朱天》。
言わずと知れた、アッシュの切り札である。
「決着はついたんじゃねえのか!? 姐さんも近付いてたし!」
「い、いや、まさかとは思うが……」
その時、ロックが呟く。
「学生相手に、左腕を損壊させられ、腹が立ったのではないか……?」
その推測に、サーシャもアリシアも唖然とした。
ユーリィも目を丸くしている。
一瞬の間。
「――そりゃあ大人げねえだろ!? 師匠!?」
こういった時は、大抵代表して叫ぶエドワードだった。




